私の異変
「三上君、なんで私を・・・助けてくれたの?」
私は思い切って聞いてみた。なんで私の場所が分かったのか、気になったんだ。
「言ったでしょ?お節介焼きだからだよ・・・まぁ、正直に話すと君の目はすごく分かりやすかったからね。その他人を誰も利用したくないその目は、昔何回も見た事があるから。君がクラスでいじめられてるのはすぐに分かった」
「目を見ただけで?普通分からない・・・それに、分かっても普通は自分の身を案じて助けたりなんかしない。三上君は知らないんだろうけど、あの霧島はうちの学校の教頭の息子なの。そしてその教頭はここら辺の地域を仕切ってるって噂」
「ふーん、偉い人なんだ。それなら僕は結構大変な事しちゃったのかな?」
何を呑気に言ってるんだろ・・・
「けど、だからと言って僕は目の前で嫌な顔してる人を放っておける程クズじゃないんだ、僕は僕が暮らしやすくなる為に生きる。その為ならなんだってする。例え誰かの大切な何かを傷つける事になったとしてもね・・・仮にその霧島君が僕やその周りに何かするのなら、僕はそいつの全てを潰してでも守る」
お人好しなのか、なんなのか・・・私には分からなかった。ただ、今の三上の言葉で分かった事は私以上にこいつは、人間観察が得意だ。
「それ、本気なの?」
「さぁね、僕はそうするけど、霧島君だって多分同じだよ?そして君もね・・・みんな自分が可愛いからそれを守る為に必死になってる。だからいつまで経ってもイジメは無くならないんだってね。みーんな、誰かを敵に仕立てて、倒し続けなきゃ生きられないんだ。その中で自分が上だと思いたくてね」
こいつ、ほんとに中2か?いや、厨二病みたいな言い回しだけども、達観し過ぎたろ。私より身長低いのに・・・
「あ、ぁぁあっ!?ば、バカ姉が!!男と歩いてる!?」
弟か、友達の家にでも行く最中か?
「あ、弟さん?初めまして。僕の名前は三上 礼。ミツキさんと同じクラスメイトなんだ。よろしく」
「お、おぅ。俺、三日月・・・まさか、ただでさえ友達いねぇバカ姉が、男と歩くなんて・・・」
相当私が別の人と、なんなら男性と歩いてると言うのがインパクト強かったらしい・・・うん、勘違いする前に言っておくか。
「あのさ三日月、三上君はちょっと前に近所に引っ越して来ただけだからね?それでたまたま一緒に帰ってるだけ」
「自治体違うから引っ越して来た時に挨拶来れなかかったんだ。ごめんね?ま、今後ともよろしくと言う事で」
三上君と弟は握手を交わした。
「その手・・・」
「うん?」
三日月は何か言いかけたがやめた。手?
「いやなんでもねぇよ。てか、三上って確か俺んとこにも同じ苗字の転校生来てたな。三上 飯綱って奴。あんたの妹?」
「あ、同じクラスなんだ。あの子イタズラ好きだけどいい子だから、仲良くしてあげてね?」
「あぁ、結構面白い奴だったからすんなり仲良くなれたよ。それともう1人転校生がいてさ、あれなんだっけ。なんかの製薬会社の娘とかなんとかって、めっちゃセレブみてーなさ」
「神和住製薬の事?」
私はなんとなく弟に返してみた。私の知る製薬会社と言えばそれだった。
「そうそれ、あいつもある意味面白い奴だったなぁ。超お嬢様みたいな見た目なのに割と俺たちの話題に付いてくるし・・・つーか、なんでこんな学校にそんな奴が来たんだろ」
「さぁ、私のとこにもガイアグループの令嬢とか言うのが来たけど・・・あ、そう言えば三上君、知り合いっぽかったけど」
三上君・・・まさかとは思うけど相当セレブだったりするのか?40万ポンと出すし・・・てか、なんでこんな街に超VIPみたいなのが来てるのさ?それにガイアグループも、なんか父の話で昔聞いた気がするんだよな、超財閥的な感じで。
「まぁ、なんか成り行きで知り合った感じなんだよね彼女とは。偶然と言うべきなのか何なのか・・・知り合いの知り合い的な感じかな?」
「ふーん」
私は別にそこから深掘りしようとは思わなかった。
「じゃ、僕はここで別れるからまた明日ね」
そして私は三上君と別れた。
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「で?バカ姉、実際どうなんだ?」
「あ?何が?」
突然弟がニヤついて私を見た。気持ち悪いな・・・
「アイツ、実際の所どう思ったんだ?って聞いてんの。朴念仁っていじったろか?個人的にはアリだと思うね。ちと小さすぎる気もするけど」
このガキ・・・私以上にませてやがる。
「だから、そういうんじゃないんだって言ってるでしょ?そもそも私が推せるのは金髪碧眼、身長175センチ以上だってば」
「いるかこんな田舎にそんな奴。てか、バカ姉気がついた?」
「何が?」
「アイツの手さ、見た目以上にゴツいぜ?手のタコの数が半端なかった。アイツ多分、ケンカめちゃくちゃ強いぜ・・・」
うん、そもそも私以上に弟の方が三上君に惹かれてるじゃん。こいつは私と違ってケンカもよくするからなぁ・・・目がキラキラしてやがる。にしても、手は気が付かなかった。手のマメか、部活は剣道部入るのかな?
「ふーん」
「じゃ、俺友達ん家行くから。あばよー、っとその前に、バカ姉。父ちゃん帰ってるぜ?んじゃ」
ふーん・・・ん?今なんつった?普通にスルーして家に帰ったら、なんか・・・見慣れない見慣れた靴がある。
「よーミツキ〜。元気してたかぁ〜?」
いつまで経っても買い替えないボロボロのスーツに、無精髭。と、謎のビニール袋の中の謎の土産。こんな格好を街中で晒すくらいならまだ腰蓑巻いてウホウホ言ってる奴の方がマシだ。そんな風に思わせるのがこの父、輝夜 新月だ。この間見た夢の姿とは真逆だな・・・はぁ。
「・・・・・」
「おいおい無視は寂しいぞぉ?それより聞いてくれよミツキィ、あっしらの環境団体の活動がなんと、国連に目付けられたらしくてな?今回はスイスに招集されたのよ。で、ほれ。スイス土産」
・・・・・こ、この親父まさか、国連にご迷惑かけて来たんじゃないだろうな?しょっちゅう中東やらアフリカ方面行ってゴミ拾いやら配給やらやってるらしいけどさ。
と言うか土産これ・・・あー、KA◯DIとかでよく見るリ◯ツだけど、ふつーの奴だ。センスないなぁ、ま、これまでのドブから拾った何かとか、砂漠の砂とかに比べたら超豪華だけどさ・・・
「でさ、国連の連中に言われたのよ。頼むからしばらく日本にいてくれってさ、だからしばらくは家に居られるんだ。嬉しいだろ?」
どひーっ!!ほんと何やからしたんだ!?この男!!勘弁してくれ!!あぁ、ネーちゃんの家、お泊まりして良いか聞こうかな・・・いや、流石にいきなりは失礼か。
ダメだこりゃ、夢で見たあんな凛々しい父は私の願望が作り出した幻なんだろうなぁ・・・あれ、そう言えば坂上 桜蘭の名前は夢で見て・・・けど、あの人は実在した・・・うん?
まぁいいや、いつもは宿題をやりたくない口実を探すけど、今日は宿題をやる口実が出来た。父と一緒にいるくらいなら宿題やる。その後も引きこもってアニメ1クール一気見してやる。
私は父を無視して部屋に引き篭もった。
「あれ?あっしなんか悪いこと言った?」
「あの子もそろそろ年頃よ?私はいいけど、ミツキにはもうちょっと距離感考えてあげたら?」
個人的には母はたまにムカつくけど、しっかりはしてると思う。
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次の日
私は父がまだ寝てる間に準備して学校に向かう。そして途中でネーちゃんと合流して、一緒に学校に行く。
今日から普通に授業が始まった。霧島たちからのイジメは・・・なくなる事は無いな。ただあの時みたいに人生狂いかける程の事にはなってない。せいぜい机に落書きされたり、教科書破られたり、上靴隠されたりその程度だ、気にしたら負け。私はそう言い聞かせてる。
そして授業も割と楽しめている。特にグレイシア先生の国語の授業は突然素っ頓狂な事を言うけど、とても分かりやすい。お陰で苦手だった国語は大分楽しいと感じれるくらいになった。
それからクラスメイトのキャロラインも、クラスの中心になって意外と取りまとめるのが上手い。
で、帰りはネーちゃんと三上君と一緒に帰る。これが日課になりつつある。去年の私からは想像出来ない程充実している。特に、帰り道に寄り道するなんて事は考えた事も無かった。
家に帰ればぐーたらしてる父と弟、仕事しろとは思うが、この間程干渉は無くなったのはまだマシだ。
私の日常が変わった。これがこのまま続けば良いのに、そう思った。
だが私は、まだ何も知らなかった。私の趣味は人間観察だなんてよく言えたな。私は何も知らなさ過ぎた。異変に気がついておきながら、何で私はあの時・・・何も出来なかった?
1週間後、体育の授業でスポーツテストが行われた。
「おーほっほっほ!!今日は体力テストですわ!と言うわけで、淑女の皆様はこの教室でお着替えを。紳士の方々は更衣室にお行きなさい?くれぐれも覗きなどと言った下品な真似をなさらない事、よろしくて?」
キャロラインは学級委員の仕事をお嬢様仕様でやってる。
「アイヤー、ワタシ体育苦手ヨー・・・ハンドボール10メートル飛ぶかナー」
「私もそれくらいだから、大丈夫」
「そうなのネ?ワタシ球技が特に苦手なのヨ。アイヤー、仲間いて良かったヨー」
ネーちゃんからのハグ。最初は恥ずかしくて堪らなかったけど、大分慣れて来た。そもそもネーちゃんは前々からスキンシップが激しいキャラだった。
それと大分今の私の学校内カーストが少し上がって来た事が実感出来てるから、後ろめたさが和らいでるのもある。
『ピーッ!』
「女子たちはこっちに集合だから」
あー、グレイシア先生ジャージ姿でも綺麗だなぁ、スタイル良いなぁ・・・男子共と男子担当のさくらんぼ先生がグレイシア先生に釘付けになってるのが遠くから見ても分かる。
「全8種目!!ぜーんぶこのわたくしが1位をいただきますわ!!オーッホッホッ!!」
うん、キャロラインはただ単純なお嬢様キャラじゃなくて、普通に頭も運動神経も抜群なんだよな。まじで専属コーチが付いてるだろってレベルだ。だから、あの華奢な体型でも、「握力は力の込め方ですわ」だけで、女子で50キロ以上叩き出してる。
私は・・・握力12キロ、ハンドボール投げ12メートル、自己最高。反復横跳びは横に飛んでいって12くらい。そして50メートル走は12秒。あれ?12が目立つ。
さて、男子は何をやってるかな?あぁ、ちょうど三上君が50メートル走やるところだ。そう言えば弟がいってたな、多分ケンカが強いって。どんなもんか?
「アイヤ?どこ見てんのー?お、三上君じゃんネ。キャロラインちゃんばっかり目立ってるけど、三上君も大概だったよネー。何でもかんでも3位をとっちゃうのも凄いヨ」
・・・ふと妄想した。これってあのパターンか?実力はなろう小説主人公バリにあるけど、無理矢理抑えて3位に落ち着いてると言う・・・成る程、それはそれで面白そう・・・
「わ!蜂飛んできたアル!!ひえっ!!もう飛ぶ季節ネ!?」
アシナガバチだ、三上君たちの方に飛んでいった。
「よーい・・・ドッ・・・・・・・・・・・はい?」
「はい?」
「はい?」
「はい?」
「はち・・・あっ」
何が・・・起きた?三上君がいつの間にかゴールにいる。さっきまでスタート位置に立っていたのに。
「ご、ごめんなさーい!虫が苦手で・・・」
思わず逃げたってか!?いや無理あり過ぎだろ!!ビビって飛び上がるなら分かる。けど、早過ぎて見えないなんて事あるか!?コイツ、まさか・・・マジでアレなのか!?
「ぎゃははは!!三上の野郎!虫苦手なのかよ!」
新庄がその事を笑ってる。全く失礼な奴だな・・・苦手なものくらい誰でもあるだろうに、それよりも誰もツッコまないのか?
「アイヤー、三上君蜂さん苦手なのネー。かわいいー」
うん、誰もツッコミを入れる気は無いらしい。私だけか?今の異常に気がついたのは・・・
その後はスタート位置に戻って計測し直した。タイムは8秒1、平均ちょい早めか。
にしても・・・目で追うことが出来ない動きをした。こんなの、2次元でしかあり得ない。三上君、何か引っ掛かる。そもそもあの日、私のスマホは何故突然電波が切れた?
こう言う時の厨二脳だ・・・陰謀論だって笑われるかもしれないけど、私は今、気になって仕方がない。何もかものタイミングに違和感がある。決めた・・・今日、三上君を尾行してみよう。決してストーカー行為ではない。そもそも近所って言ってたけど、家の場所を知らない。何処にある?そこからだな・・・
それ以降は特に何もなく放課後を迎えた。
私はいつものようにネーちゃんと三上君と一緒に帰っていた。
「アイヤー・・・結局ハンドボールダメだったヨ。三上君は運動神経良くて良いネー」
「あはは、そんな事ないよ」
うーん、普通に見れば下手すりゃ女子に見える顔立ち。体格も細め、瞬発力が高そうには見えないけどな・・・
「ん?ミッちゃん何考えてるネ?」
「あ、いやちょっとね。私も大概な結果だったからさぁ。あ、ネーちゃんここで別れ道だよね。また明日」
「また明日ネー」
路地でネーちゃんと別れた。次は三上君だ・・・
「あ、ごめん三上君。ちょっと忘れ物しちゃったから学校戻るね」
「あぁ、そうなの。じゃぁ気をつけてね。なら僕はこの辺で」
よし、ここから尾行開始だ・・・ぐるっと回って先回りしてやろう。
そして、とある路地に差し掛かった時だった。
「あら?あなたは確か輝夜 ミツキさんでしたわね?ここで何をしておられるのかしら?」
「え、キャロラインさん・・・あ、あなたこそここで何を」
普通迎えの車とか来るんじゃないのか?キャロラインは普通にカバンを持って歩いていた。
「このわたくし、全てを召使いに任せる真似は致しませんわ。可能であればこうして下校するのも、庶民の感覚を知る良い機会ですわ」
「へ、へぇ・・・」
キャロラインは三上君の方へ向かった。やっぱり変だ・・・もう少し慎重に尾行しよう。誰ともすれ違うなよ?
そして尾行を続け見つけた。あの家が三上君の家・・・あれ?あそこは確か、幽霊が出るって昔よく言われてた屋敷・・・そこを改築したみたいだ。そんなとこ住んでるんだ・・・
三上は玄関を開けた。それと同時にキャロラインが三上の家に入って行くのを見た。あの2人・・・そんなに仲よかったか?若しくは・・・ふふふ、少しニヤついてしまった。
私の得意なことは盗み聞き。昔から耳は良いんだ・・・玄関付近から会話が聞こえる。何の話だ?
「にしても三上様?虫嫌いは知ってはいましたが、いくらなんでもアレは酷過ぎますわ。皆様笑い話で終わらせてくれたのが救いですけど、こんなタイミングで明かすのはまずいのではなくて?」
やっぱり、三上君には秘密がある・・・いよいよ良い展開になって来た・・・ん?待て今キャロライン、三上の事を・・・様付けで呼んだ?
「どうにもね、条件反射と言うか虫は不意に来るから対策出来ないんだよ。彼みたいに虫すらも自由に操れるなら良いんだけどねぇ〜・・・」
「言い訳は結構ですわ。今度、特訓して差し上げましょうか?それよりも、今日はみなさまの元へ向かいますわよ、大丈夫ですわよね?」
「うん、座標の確立は終わったからね。後は安定化と大型化。今月末には終われると思う。ただ、気掛かりと言えばまだ奴が現れない事かな」
座標?何か作ってるのか?これ、これじゃまるで悪の組織の会話にも聞こえなくも無い・・・
「そうですわね・・・ですが、雰囲気は察せられたのでしょ?」
「そうなんだ。まぁ、現れないに越した事は無いんだけどね。けど、現れない事にはこのゲームは進まない。勝負を仕掛けられるのはいつか・・・」
「考え事は後になさいましょう。みなさまお待ちかねですわ」
「そうだね、行こう」
出てくるな・・・もう少し隠れよう。三上君とキャロラインが出て来た。キャロラインはさっきと同じ、アレンジ制服だけど、三上君はロングコートを着て外に出て来た。なんだろあの服・・・そんなに寒くは無いけど。
みんなが待ってるって、誰に会うつもりなんだ?なんだろ・・・これ以上踏み込むのは、なんかヤバい気がする。けど、探究心が抑えられない・・・
行くぞ
「あれ?ミツキちゃん、こんな所でコソコソと何してるの?」
え・・・全く気が付かなかった。私の後ろに立っていたのは
「荻山 軽音・・・」