2日目、助けを求める声
「ちぃっ!!」
三上とミツキを逃したメガリスは大きく舌打ちした。
「さ て と・・・天正第二中vs山道中と行こうじゃないのよ。ねぇ?メガリスちゃん?」
軽音がメガリスを上から目線で煽る。
「・・・はんっ!!何調子に乗ってんだっての!!あたしの学校の生徒は下っ端でもよぉ、全員道山会の一員なんだぜ!?知ってるかっての!?道山会を敵に回したらどうなるか!!」
「あっははは!!それ脅しのつもり!?あなた可愛いとこあるじゃない!!道山会なら知ってるわよ!有名なヤクザさんでしょ!?で?その名前に意味あるの?その名前があの町と私たちの中学に何が出来るの?教えて欲しいなぁ〜・・・私と同じ、操り人形のメスガキちゃん?」
そして軽音は義手の右腕をカチカチと鳴らした。
「にっぎぎ!!!誰がメスガキだっての!!コイツから畳みかけろや!!」
メガリスの取り巻きたちは軽音にターゲットを絞る。だが、
バリバリバリバリッッッ!!!
「んごぉ!!」
「あががっ!!」
「ごげげげっ!!」
軽音が前に突き出した右手を開くと一気に周囲に電撃が放たれ、全員痺れて倒れた。
「なっ!!なんなんだっての!?その腕!!」
「知らないの?あなたたちが私の腕と脚をもぎ取った変わりに手に入れたのよ。にしても、あなたたちの戦力はこんなもの?道山 恵!!」
「ぐっぬぬぬぬ!!!あたしを怒らせたらどうなるか・・・後悔してももう遅ぇぞ!!」
パチンッッッ!!!
メガリスが指を鳴らすと部屋に差し込む光が真っ赤に染まった。
「おいおい!!コレってよぉ!!この間の!!」
「あぁ、軽音。流石にヤバいじゃねーか?」
新庄と霧島が少し緊張の汗を流す。
「ふふ、別に良いじゃない。これなら手加減考えてやる必要ないでしょ?」
「そうね軽音ちゃん、コイツ《M500》は加減が難しくてさぁ。くらいじゃないと使えたもんじゃないのよねー」
しかしその一方、軽音と東郷は楽観的だった。
『ゔらぁぁぁぁぁっ!!!!』
地面から怒りに震えた声の悪魔が這い出してきた。
「天正市のスーパースターはあの子たちだけじゃないのよ!!フレックスアーム戦闘モード起動!!」
軽音の掛け声と共に軽音の腕が変形を始めた。指の関節が折りたたまれていき、腕の先端はみるみると大砲のような形へと変わった。
ビリリ・・・バチバチッッッ!!
そしてその腕の周りが徐々に放電し始める。
「出力は30%ってとこね!!プラズマキャノン!!」
バゴォォンッ!!!
軽音の腕から放たれた光の球は悪魔に命中し、悪魔はまるで爆発したかのように霧散した。
「ひゅぅ!!さっすが未知の技術!!とんでもない威力!!私も行くわよ!!うらぁ!!死に晒せぇぇぃ!!」
東郷は人が変わったように銃を乱射して悪魔を倒していった。
「ちっ、お前らいつのまにそんなもん・・・」
「そうだよずりーよ!!女子ばっかりよぉ!!」
男共は不満を漏らした。
「京也君ならあいつの武器使いこなせると思うんだけど、今ないんだよね。なにか戦える物は・・・」
「コイツじゃ!!少年よ!!コレを使うと良い!!」
突然住職が戻ってきて何かを霧島に向かって投げた。霧島はそれを受け取る。
「ほぉ・・・坊さん良いのか?こんな手入れの行き届いた刀なんてよ。俺はまだ刀を振るには未熟だと思うぜ?」
霧島に渡されたのは一振りの日本刀。霧島は少し抜くと住職に尋ねた。
「ソレの価値が分かってる時点で資格は充分じゃ。儂に出来たのはソレを毎日丹精込めて磨く事のみじゃったからの。いくら現代の日本刀は美術品と言えども、振ってもらわねば、切ってもらわねば意味はない、日本刀とは武器じゃ!!そして今がその時!少年よ!その刀を使い!この不敬な輩を蹴散らしとくれ!!」
「オッケー・・・こんなもん親父が見たら勘当されるかもしれねぇな。けど今はいねーし、スマホも使えねぇ。なら問題ねーよなぁ!!どんだけ暴れても!!ぶっ殺してもよぉ!!」
霧島は一気に抜刀するとそのままの勢いで悪魔を真っ二つに割った。
「きゃー!!京也くーん!!惚れ惚れするー!!あっ、そうだあんたらさぁ、霧島君が喧嘩してたなんて言わないよね?」
「「「言いません!!!」」」
クラスメイトは同時に声を揃えた。
「私の腕も何もないわよね?」
「「「何もありません!!」」」
ついでに言ってった軽音にも同じく声を揃える。
「俺頑張ったよな!?」
「「「・・・・・」」」
最後の新庄には無言だった。
「くっそ、よわよわな癖にいきがりやがって・・・」
メガリスは不機嫌そうに周囲を睨む。
「ならあなたが戦えば良いじゃない。私たちがよわよわなら、さぞ簡単に倒せるんでしょ?」
「当たり前だっての!!あんたらごときに私が直接戦うのは腹が立つだけだって話だっつーの!!どちらにしたってあたしのやるべき事はもう終わってんだ!どの道勝者はあたしだ!!」
「っ!?みんな伏せて!!」
メガリスは途轍もない速度で走り出し、その勢いで壁を破壊して外へと逃げ出した。
「ちょっ!!てめ!!逃げんのかよ!!つか早っ!!」
新庄がメガリスの後を追おうとした。だが、
「いや、充分だろ。あれ以上やったら怪我人が出るだろうからな。後は三上とミツキに任せとけって事だろ?軽音」
霧島は新庄を止めて刀を収めた。
「うん。そんなとこ、後はあのガキが壊した壁をどうにかしないとね」
軽音は破壊された壁を見て悩む。
「あ、それなら今修理業者呼んでおいたわよー」
東郷はスマホ片手に連絡を付けていた。
「らら、お前状況に慣れすぎじゃねぇか?」
「ミツキの奴が私を巻き込みやがったからよ。京也君今度ビシッと言ってあげてよ」
「・・・何言えばいいのかわからん。つーか、あいつと話す気はねーよ」
「京也君、ミツキちゃん嫌いすぎじゃない?ま、良いけどそんなこんなしてるうちに私がミツキちゃん貰うから」
「・・・・・勝手にしろ」
霧島は目を細めて黙った。
・
・
・
一方その頃
「まぁ!なんて野蛮な誘拐の仕方なのかしら!!人質なら丁重に扱うべきですわ!!」
「うっせぇぞこのアマ!!おら!!早く出せ!!」
手足を縛られバンに乗せられたキャロラインは、相も変わらずの上から目線で乗せられた後も堂々としていた。
「ほんと、これまでにもいくつかわたくしを狙った誘拐はありましたが、ここまで杜撰なのは初めてですわ。あなた方、本当にわたくしが何者か知っての犯行ですの?」
「だからうるせーって!!その減らず口縛ってやろうか!?」
「忘れたのではなくて?普通誘拐は真っ先に口を閉じさせるものでしょうに」
「・・・あ、マジで忘れてきた」
キャロラインの言う通りだった。
「やれやれですわ。それよりあなた方、わたくしを狙った理由は知っておいでですの?」
「おい、いい加減にしねぇとぶっ殺すぞ!!」
誘拐犯の男はナイフをキャロラインに突きつけた。
「あら、そんな物騒な物仕舞いなさい。車の揺れで当たったら大変ですわ。あなたへの命令はわたくしを無傷で手に入れる事でしょうに。あなたにわたくしは攻撃出来ない。もしそんな真似をすれば死ぬ事よりも恐ろしい目に逢う、違わなくて?」
キャロラインの言葉に男はナイフをしまった。
「いいか?そんな態度でいられるのも今のうちだからな!!」
「あらあなた、これでわたくしを捕えられたとお思いですの?全く滑稽な事ですこと。わたくしを捕らえたいのならこんなやっすいバンではなく、戦車以上の装甲で来なさいな。さ、そろそろ無駄話も終わりにいたしましょう。キャロット、Y軸方向プラス3000」
グィィィィッッ!!!!!!ギャルギャルギャル!!!
「おい!!何してる!!こんな所で車を止めるな!!」
「違う!!急に加速しなくなったんだ!!」
車は突然スタックしたかのようにタイヤが空回りしだした。
「まぁ、戦車でもわたくしを捕えることは不可能ですけど。あなた方、わたくしの護衛がいない今ならチャンスと思ったのかもしれませんが、とんだ勘違いですわ。わたくしの護衛は世界最強、わたくしが何処に居ようとも、声の届かない場所に居ようとも、わたくしに危機が迫ればわたくしを護衛出来るのですわ。さぁヴォイド、このやかましいエンジン音を止めなさい」
「ヴォイドだと!?奴は今!!」
「天正市にいる、そこは感心いたしますわ。彼に見張りを付けていた点はですが・・・あなた方、彼を甘く見過ぎですわ。最強とは最も強い存在という事ですのよ?彼の射程は、そこらのスナイパーとはレベルが違いますわ!」
バゴォォンッ!!
「え、エンジンがっ!!」
突然エンジンルームが煙を上げ車は完全に停止した。
「くっ!!プランBだ!!ソイツ連れて降りろ!!第二合流地点に行くぞ!!」
「あら、プランBなんてもの用意していたのですね。しかし、そのプランも頓挫ですわ」
「この減らず口女が!!」
痺れを切らした男がついにキャロラインを殴ろうとした。しかし、
「あ、あ?」
キャロラインを掴んでいた腕が空高く舞っていた。
「斬鉄剣・二速」
その直後車も真っ二つに切れ、一瞬のうちにキャロラインはその場から消えた。
「流石ですわね」
「あんな風に地図アプリのピンみたいな銃弾が落ちて来ればすぐ分かるよ」
「三上ッッ!?」
車の前にはコートを羽織り、刀を携えた三上とミツキが立っていた。
「返り血は付いてないね。あ、お兄さん腕返すよ」
三上は切り飛ばした男の腕を男に投げ返した。
「うぐあっ!!」
男は悲鳴をあげたが、その直後男の腕は元通りにくっついていた。
「さ、行こうか」
「に、逃すなぁ!!」
三上はキャロラインを連れて戻ろうとしたが、大勢の男たちに囲まれてしまった。
「・・・君たち、私に道を開きなさい」
「っ!!?へ、へなぁ・・・」
三上が声を上げた瞬間、取り囲んだ男たちは力なく倒れ込んだ。
「さてと、戻ろっか・・・あれ?」
三上がキャロラインを連れて戻ろうとした時だった。再びキャロラインの姿が三上の目の前から消えた。
「っ!!三上君!!あそこ!!」
ミツキがある方向を指さす。
「目ざといなミッキー!!けどざーんねん!!あたしの速さには追いつけやしねーっての!!あたしの!!勝ち!!」
指された方向にはメガリスがバイクに跨り、後部にキャロラインが乗せられていた。
「っ!!メグッッッ!!いい加減にしなさいっ!!!」
今のメガリスに対しミツキは怒った。
「うっせぇ!!あたしの目的は最初からコイツだけ!!暇だったから適当にいたあんたとお友達ごっこでもしてるかって思ってただけだよ!!じゃあな!!」
メガリスはミツキと視線を合わそうともせず、逃げるようにバイクを発進させた。
「分かりやすいね、あの子」
「うん、人間付き合い苦手な私でもすぐ分かる。三上君、なんとか出来ないの?」
ミツキはすがるように三上に尋ねた。
「それは本人次第だよ。僕に出来るのは彼女の後を追ってキャロラインさんを取り戻す事だけ。君も、荻山さんも、僕もそうだったように、なんとかしたいなら自分をまずなんとかしなきゃいけない。自分を見つめ直さないと、彼女は救えない・・・これって冷たいって思う?」
「・・・間違ってないと思うけどちょっと思う。あんなあからさまに助けてくれって顔に書いてあって、見過ごすのは流石に胸糞悪いもの、何か出来ないか?って考えてしまう。三上君、追いかけるなら私も連れてって欲しい。これは、お節介過ぎるかな?」
三上の問いにミツキは問い返した。
「いや、良いと思うよ。僕もお節介焼きだからさ・・・追いかけよう、そして取り戻そうよ・・・君の友達を」
「うん!」
三上は近くに停めていたバイクに跨った。その後ろにミツキも乗る。
「今度はかっ飛ばすから、ちゃんと捕まっててよ!!」