1日目、行動開始
あんだけのんびりしてたのに、私たちの班はかなり早いみたい。体育教師の薩摩先生も驚いてた。この間の私の体力測定の結果からか。
「分かった、じゃこれ預かっておくから。良かったね輝夜さん」
私はあの激レアフィギュアをグレイシア先生に渡した。ケースにしまって鍵付きの金庫にしまってくれた、一安心。
さてと、全員集合するまでは自由時間。景色を眺めたりホールで休憩するのもよし。やーれわれ、あのうるさい班からしばらく離れるかぁ。って、あらら?三上君?こっちに来た。
「彼女だ・・・」
「え、何が?」
すれ違いざまに三上君はとんでもない事を告げた。
「さっきの女の人が天照だ・・・」
この真面目な顔。ガチで?え、天照だよね?って事は私・・・最高神にプレゼント貰った?
「ひぃえっ!?うっそだろおい!!」
「嘘じゃないよ。感じたんだ、永零と出会った時と似たような感覚。まるで昔からあの人を知ってるような感覚だ」
「・・・じゃ、どうするの?あの人行っちゃったよ?」
「彼女、そんなに遠くには行かない筈だよ。かなりの軽装備だったからね。ここの山は地元の人なら幼稚園児でも登ったりするけど、慣れてない僕らみたいな人は念には念をとこんな準備する。あの感じだと何回かはここに足を運んでるね。
そして駅からここの麓へ来るバスの本数はかなり少ない。そこからバスの到着時間帯を考えてここに到達する時間はある程度割り出せる。今回はおそらく自家用車か徒歩、更にその中仕事でフィギュアの製作を依頼されるって事はそれなりに東京方面あたりの人とのやり取りも出てくる筈だ。いくらテレワークが発達してても仕事上定期的には会う筈だからそんな山奥には住んでいない。
となると、それなりの駅近でフィギュア製作をしている人物を探し出せば、すぐに見つかる」
「・・・三上君、探偵やってた?」
「自作自演二重スパイ的な事ならやった事あるよ。行くとしたら今夜ってとこか。僕夜抜け出すから、その時はちょっとよろしくね・・・いや、ミツキさんも一緒に行く?」
突然夜中のデートのお誘いか?
「なんで?」
「なんとなく、多分僕は彼女に嫌われるだろうからね。ほら僕の神様、あちこちで嫌われてるみたいだからさ。彼女と気が合いそうな君が一緒ならスムーズに事が運ぶかも」
くそオタクな私が神様と気が合うって・・・いや、けどあの人同じ波長は感じたのは確かだ。失礼だけど、なんか、こう、喪女感?
そんなこんなで集合時間。全員無事に辿り着いて下山した。え、下りはロープウェイ?そんなもんあったなら最初から言ってくれ。あ、しおりにも書いてあった・・・
そしてバスに乗り込んで宿泊地に到着。なるほど、なんかの公民館みたいな建物だ。キャンプ場併設だってさ。
で、そこのキャンプ場で飯ごう炊飯、つまりはみんな大好きカレー作りだ。小学校の頃もやったなぁ・・・真っ黒コゲにして大失敗。咀嚼音のおかしなカレーが爆誕したっけ。けど今回は・・・
「三上君玉ねぎ切るの早ッ!!目痛くならないの!?」
「繊維の方向に切るとそんなにしみないよ」
「カレールー出来たネー!!」
「あ、ちょっとこれ入れて見てくれる?こっそり持ってきた赤味噌。コクが出るんだ〜」
「三上、米炊けたぜ」
「うん、良い感じ!さてとこれ洗ってと・・・」
三上君のお母さんが最大限に発揮されてる私たちの班なら、問題無さそうだ。にしても、ご飯作りながら洗い物もしてるよ・・・
「料理の基本は洗い物を放置しないこと!!」
だそうです。私はやったらやりっぱなし・・・そして完成、味は・・・実の母よりもお母さんと呼びたくなる味だ。こういうのって未完全だけど精一杯作りましたってのが醍醐味な気がするけどまぁいいや。美味しいもんは美味しい。
「美味しいねー京也くーん。はいあーん」
「むっしゃー!!おかわり頂戴ネー!!」
「頬張って食べてるミツキちゃん可愛いー」
軽音さんよ、私をおかずにカレー食べないで・・・
さてと、そんなこんなで宿泊所への挨拶って事は・・・いたいた・・・メスガキ。
「天正第二中学のキャロライン ガイアですわ。2日間よろしく頼みますわね」
「山道中メガリス アラガキっす〜。どーもよろしくー」
凄まじく嫌そうな顔してんな。てか、あいつが学級委員長かい。
「ゲハハ!やまみち中って!!田舎くさぁっ!!だって、山と道って!!あっはっはは!!」
新庄、流石に学校名でマウント取りはどうかと・・・ここは態度だ。態度で示せ。
入舎式が終わって、ベッドメイキング。2段ベッドか、いかにもだなぁ。
今日の工程は風呂入って、体育館で軽くレクリエーション的なやつ。後は寝るだけだ。
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ってな訳で、本作2回目の入浴シーンでございます。
「へー、こりゃまた広い・・・」
「フムフム、やっぱり長野は温泉豊富ネー。源泉かけ流しだとサ。露天風呂もあるなんテ、結構楽しそうネー!!」
長野って温泉有名なのね。知らんかった、どれどれ・・・うむ、前に京都で入った感触と似てる。肌が少しぬるっとする感触だ。そして内側からじんわりと温まる・・・そして今日はかなり歩いたからかね、足を伸ばせば疲れが一気に飛んでいく・・・あー、極楽」
私はカピバラみたいな体勢と顔で浴場に浸かる。
「あれ?ミツキちゃん」
「ん?」
突然軽音に疑問な顔された。どうした?何かある?
「ちょっと痩せた?」
あ、そっち・・・いや、痩せたどころか太ったけどな。体重も増えてたし・・・はぁ・・・
「あ、ほんとだ。前まで腹出てたもんなー」
え?東郷まで・・・
「いや逆だよ。最近服きつくなってきたし・・・」
「けど、スッキリしたよネー。あ!!ちょっと立ってネ!スタンダップヨ!!」
まぁ、立つくらいなら良いけど・・・
「あ」
「わっ♡」
「ムムム・・・」
「な、なに・・・」
全員マジマジと私を見て来るんだけど、マジなんなん?
「胸、おっきくなったネー・・・」
「え、嘘だぁ〜。だって最近なんて部活でヘトヘトで馬鹿食いばっかりしてるし」
「・・・ミツキ、食事制限については守ってるのよね?」
「あ、うん。東郷さんに言われた胸肉とか豆腐とかで我慢してるけど・・・」
「それかぁ・・・絶対それだ。くそ羨ましいな、私全然成長しないんだけどほんとやんなっちゃんわね軽音ちゃ・・・ってぎゃぁっ!!鼻血!!」
「はぁ・・・はぁ・・・ごめんららちゃん、観てたら興奮してきて・・・ついでに聞くけどミツキちゃん。それ、触らしてくれる?」
ぶんぶん!!!
私は全力で首を振った。なんか、そのまま襲われそうなきがしたから。
「ひ、貧乳はステータスって言うものネ!!けど、やっぱり巨乳は憧れル!!確か、自販機に牛乳売ってたヨ!!風呂上がりに飲んでヤル!!」
あ、それは私も飲みたい。コーヒー牛乳あったかなぁ・・・
「んぎっ!!」
ぼよ〜んと何かが飛んでったって、あっ・・・
「おいごら、何処に目付けてんだぁ?」
メスガキやん・・・ここでも被るの?にしても・・・ちっさ。まな板・・・
「つか、あんたかよ。なに、あたしにそれ見せつけて勝ったつもり?昼登山で負けた腹いせだってのー?」
あ、あれ勝負扱いになってたんだ。私たちスルーしてたからなぁ。
「はっ!!上等だっての!!そんな胸なくてもなぁ!!あたしはあんたの何倍も強いからな!!」
だろうね。
「風呂に何秒入れるか勝負じゃ!!」
すすす〜・・・さて、コーヒー牛乳飲むか。お、やっぱり地元の牛乳ってそこら辺で買うやつと味が違うなぁ。
そんなこんなで夜10時、消灯時間が過ぎた。案の定・・・
「ねぇねぇ京也くーん」
「ねーねーミツキちゃーん」
「おー、星空綺麗ネー」
「っしゃぁ、俺の勝ち」
「ちっ、もう一回だ」
コイツらが寝るわけ無いよなぁ!!今思ったけどこの班、自由人多すぎない!?どうすんのさ三上君よ・・・
トントン・・・
あれ?三上君が覗き込んでる。因みに私は下段のベッド。そして向かいのベッドにいた筈の三上君は?いる・・・どないなって!?
すっ・・・
三上君は外に出るようなジェスチャーした。
「あ、ごめんちょっとトイレ行ってくる」
「アイヤー?さっき行かなかったネ?」
「トイレ近いとかwババアかよwww」
「行きたいものは行きたいの!」
私はふんすっとベッドから起き上がって廊下へ出た。暗っ!!怖っ!!
「先生たちは飲み会状態か、羨ましいもんだね・・・」
本当だ、あれはメスガキのとこの学校の教師か。こっちは仲良さげだなぁ。あ、グレイシア先生はウーロン茶か、飲めないのかな?
私たちは先生たちの目をかすめて外へとたどり着いた。
「ふぅ、スニーキングミッション成功っと」
「ねぇ三上君。私も行くのは良いけど、全然戻らなかったら怪しまれない?」
「その点は心配ないよ。多分荻山さんは気がついてるし、コレがある」
・・・・え?
「わ、私!?」
そこにはもう1人、私がいた。どうなってんの?気持ち悪っ!!
「僕の能力は並行世界の僕自身の召喚なんだけど、1人はさっきのベッドに置いておいてもう1人に君の格好させたんだ。僕の知り合いに変装の達人がいるからね、その人に協力して貰ったんだ。声も変声期使ってるから心配ないよ」
「よろしく・・・」
私だ・・・この根暗な挨拶の仕方、紛う事なき私だ。三上君が演じてるんだよね?なんか気持ち悪いなぁ。
「こ、こちらこそ・・・」
「さてと、ちょっと歩こうか」
私たちは夜の街灯のない道を歩く。周りは木々に覆われて真上を見れば満天の星空だ。綺麗だなぁ・・・
「何処まで行くの?まさか歩いて麓の街まで?」
「いや、すぐそこだよ。転送は大きな音が鳴るからね、ちょっと離れた所に置いておいたんだ。ちょっと待ってて」
三上君は少し茂みに入った。そして本当にちょっと待ったら・・・
ドゥルルルンッッッ!!!!ドッドッドッドッ!!!
「うひっ!?」
いきなり目の前が明るくなってめっちゃデカい音が鳴り響いた。
「お待たせ」
「お、お待たせって!!ば、バイクゥゥゥッ!?」
「免許はあるよ。ほら、大型二輪」
マジだ。これ三上君の写真か、今とあんま変わらな・・・ちょっと大人びてるか。
「にしても、すんごいごっつ・・・似合わなー・・・」
「でもかっこいいでしょ。僕が作ったんだだ。ほら、ヘルメット付けて後ろに乗って」
よいしょ・・・で、どうすんの?
「足はここに乗せて手はこのバーに捕まってれば良いよ、この子一応三輪だしね。そこまで体重移動は気にしなくていいからね」
ほんとだ。よく見たら後輪2つタイヤが並んでる。
「さ、行こうか」
バイクは発進した。初夏に差し掛かった夜に感じる風、少しひんやりしててめっちゃ気持ちいい。
「にしても、星がいっぱい・・・」
「周りに街灯も何もないし、しかも標高が高いからね。長野は昔よく1人キャンプで来たんだ。理由はこの星空、僕はここの星空が好きでよく来たんだ。特に阿智村はおすすめだよ」
成る程、たまにはパソコンやスマホの画面と睨めっこしながらアニメばっか見るんじゃなくて、こうやって上を眺めて見るのも良いのかもなぁ。
2次元と同じで、手を伸ばしても届かない景色だけど、この景色は確かに実在してる。それを独り占め出来るのは確かに気持ちいいのかもね。邪魔な広告も入らないし・・・
バイクは街中へと入っていく。そして少し古いアパートの前に辿り着いた。名前は『戸隠荘』って、そゆこと?
「ここだ・・・情報通りだね。感じるよ、昼間感じたあの感覚だ。あの部屋だね・・・」
まだ電気の点いてる部屋がある。表札には天野って書いてある・・・
『キンコーン』
三上君はチャイムを鳴らす。割とすぐに出て来たくれた。あの女の人はドアを半開きにして外を確認する。
「夜分にすみません・・・」
私はなんとなく挨拶した。
「いいのよ。なんとなくは分かってましたから・・・けど、ちょっと待って欲しいかな。今、ちょっと部屋が散らかってて・・・片付けるから」
チラッと見えた。色々と散らかってる。カップ麺の空容器、ぬいぐるみ。ダンボール。エトセトラ・・・天照なんだよね?ズボラ過ぎない?女の人はドアを閉めてガサガサと片付ける音が聞こえる。
「よいしょー!!わー!!」
どんがらがっしゃーん!!
天照だよね!?
「ふぅ、汗かいちゃった・・・良かったら上がってく?安いお茶しかないけど」
上がらせてもらった。お茶とポテチ・・・夜にこれ・・・にしてもこの部屋・・・めっちゃ興奮する!!
激レアグッズオンパレードじゃないか!フィギュアに始まり、タペストリーも、抱き枕カバーまで・・・中学生故、おいそれと手が出せない代物ばかりだぁ。
「さてと・・・あなたが、神の転生者ね」
「三上 礼です」
「天野 照子。察してると思うけどこれでも一応天照大神よ」
・・・・・