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夢見る子どもたちと、夢を忘れた大人たち

 『こちら、天正市総合病院から中継を行っております。突如として現れた謎の怪物とそれと対峙していたとされる謎の少年少女たちですが・・・ご覧下さい。その際に破壊されていた筈の病院ですが、何事も無かったかのように佇んでおります。にわかに信じられません・・・私もカメラマン一同もその様子を肉眼で確認していたにも関わらず、この街は何事も無かったかのように元通りになっているのです。


 この状況に対し町では悪魔の仕業や、集団幻覚ではないか?といった様々な憶測の声が飛び交っております。現場からは以上です』


 『増子味さん、ありがとうございました。政府はこの件に対し慎重に様子を見るべきだとしています。また、必要に迫れば自衛隊の出動の可能性もあるとの見解を示しました。続いてのニュースをお伝えします・・・』


 ブツッ・・・


 私は今、さっきまで凄惨な事態に陥っていた筈の病院の306号室にいる。そこのテレビを切ったんだ。勿論目の前にはベッドに横たわる軽音も一緒にいる。一体何があったのか。それは・・・


 ・


 ・


 ・


 少し回想


 チャールズが悪魔にやられ私たちはそれを見届けた。空はオレンジ色の綺麗な夕焼けへと戻っていく。私たちはよろけながらも外へと出ると、出入り口付近にジャックポッド伯爵こと、馬喰 一兆君がいたんだ。


 彼の能力は空間支配、自由自在に瞬間移動とか出来る能力らしいんだけど、それと魔法を組み合わせて自在に地形を作り出す事も出来るんだって。


 そしてその能力なら病院を直せるんじゃないか?って後から来た零羅ちゃんが提案して、最初は疲れるからやだと言っていた一兆君だったけど、なんだかんだ零羅ちゃんの勢いに負けて病院の建て直しに成功。機械類もあのシェンリーって人のアドバイスの元綺麗に元通りになってた。


 その後一兆君は疲れ果ててさっさと帰った。にしてもあの人、サバサバしてる割にはめちゃくちゃ細かく直してくれたなぁ。三日月と気が会うかも・・・


 そんな訳で私たちはとりあえず病室へと戻る事にした。みんな避難しているのなら好都合だと思って私は、軽音にも私の知る限りの事を今、このニュースを見せながら話してた。


 ・


 ・


 ・

 

 「・・・これが、今私が知る限りの事」


 「そう・・・だったんだ。ミツキちゃんありがとう、話してくれて・・・私は、巻き込まれちゃったんだね。この大きな事件に・・・」


 軽音は大人しく私の話を聞いてくれた。


 「あー、頭パンクする・・・軽音ちゃんよく冷静に聞けるわね・・・」


 東郷は疲労と、私のこのあり得ないけど現実の話で軽音のベッドに顎を乗せてだらけてる。


 「まぁ、正直言うと現実受け止めきれてないだけかも。それかこの腕と脚が納得しちゃったのかもしれないね・・・」

 

 「「・・・・・」」


 私と東郷は特に何か言える言葉が見当たらなかった。


 「そんな顔しないでよ。そもそもの原因は私なんだから・・・ミツキちゃんの人生を終わらせようとした私のせい・・・っっ、ごめ、何勝手に泣いてるんだろ私・・・」


 軽音からぼたぼたと大粒の涙が溢れ出てきた。


 「いや、荻山さんが全て悪い訳じゃないよ。確かに、ミツキさんへのイジメはちょっと度が過ぎてる所はあったと思うけど、その罪の意識を利用して悪魔を呼び出してしまったのは僕」


 「そうじゃない」


 軽音は真面目なトーンになって三上君の言葉を止めた。


 「え?」


 「三上君には寧ろ感謝してるのよ・・・君ならもう、何となく分かってるんでしょ?この町はちょっと異常だって。この腕と脚は一種の抑止力になってくれてるの・・・ふぅ、ごめん三上君。この先はららちゃんとミツキちゃんにだけに話したいの。お願い出来る?」


 「・・・君がちゃんと罪と向き合うのなら僕からは何も言えないね。あの悪魔に断罪されたからって罪は許されるわけじゃない。本当の贖罪は罪と向き合って生きる事だと思うからさ。あ、そうだ。これは僕からの余計なお節介だけど・・・決して償いだけの人生にはしないでよ?己の平和も守ってこそだからね。じゃあ僕たちは行こう」


 三上君はあの不思議な優しい笑顔を軽音に見せて部屋から出た。


 「・・・三上君って不思議な人だね。なんか、不思議と心が安らぐと言うか、勇気が持てるの・・・ふぅ、だから2人には話さないとね。私が、なんでミツキちゃんをイジメの対象にしたのか・・・」


 軽音は私が聞きたかった事を自ら切り出した。


 「え?そんなのコイツがキモいからじゃないの?」

 

 グサッ!!いきなり精神にクリティカルヒットダメージ・・・


 「話しかけても無視して睨んでくるし、ぼそぼそ喋るし、挙げ句の果てには逆ギレするしさぁ、キモいったありゃしないじゃない。京也君もそういうとこが嫌いなんでしょうね」


 グサグサグサッッッ!!!9999ダメージ!!仕方ないじゃん!距離感が分からないもん!だから出来る限り話しかけないでオーラ出してただけなんだって!別に敵対したい訳じゃないから!


 「きゅ〜・・・」


 「まぁ、ようやく最近まともに話せるようになったみたいだけど・・・それでもなんかキモい、たまに急に変な風に笑うし、独り言言ってるし、前髪がぞろぞろしててキモいし」


 もうやめて!!私のライフはゼロよ!!てか、この前髪駄目!?


 「ふふ、素敵な理由。普通はそうやっていじめはエスカレートしてくものよね。とっても健全な理由・・・けど、私は違う。私はミツキちゃんの事は嫌いじゃないの。寧ろ好き」


 「・・・はっ!?まさかぁっ!?」


 しばらく考えた東郷がビクッと立ち上がった。


 「あ、ごめん。そう言うんじゃないの。出来る事なら友達になりたかったんだ」


 「え、なら尚更なんであんな事を・・・」

 

 「原因は・・・私の、私のママなの」


 軽音は絞り出すような声で呟いた。


 母親・・・そういえば最初の悪魔に襲われた時、必死で叫んでた・・・

 

 「なんでクラスの事にお母さんなんか関係あんのよ」


 東郷が腕を組んで首を傾げながら質問する。


 「私のママは、これでもかって言う程の完璧主義なの。テストは絶対に100点を取れ、評価はオール5は必須ってね。一問でも間違えてたら体罰は当たり前」


 「うぇ、軽音ちゃんとこって結構毒親じゃん・・・」


 「だとしても、あの人は私の母。どうしても逆らえなかった・・・そしてママは、その感情を知ってかは知らないけど、私に更に要求を突き付けてきたの、完璧なクラスにしろって・・・問題はここから始まった。私の母はアメリカ人とのハーフなんだけど・・・白人至上主義なのよ」


 「・・・まさか」


 流石の私でも察した。こんな所で人種差別問題と直面するなんて思いもしなかった。


 「はい?ちょ、おかしいでしょ。軽音ちゃんのお母さんハーフなのは知ってるけど、なんでそれで白人至上主義?自分黄色人種混じってんじゃん」


 「そこは、ここが日本だから良いんだって。問題は、黒人がいる事・・・」


 「黒人って・・・私の母は確かに黒人だけど、私も三日月も褐色ってくらいだし、そもそも荻山さんが去年ターゲットにしてたあの人は沖縄の人だよ?」


 「あの人は、その程度すらも許せないの。そんな奴をクラスに入れるなって。それで私は必死で考えた、私の望みはクラスのみんなが仲良く出来たらそれで良かったから」

 

 みんな仲良く・・・その感情はあながち嘘でも無かったのか。


 「だったらそんなの放っておけば良かったじゃない。いくらお母さんでもクラスの人員にとやかく言う権限は無い筈よ?」


 「それが私のママなら出来るのよ、ららちゃん。私のママはこの地区の自治会長で、異様な程に権力を持ってるの。それに、京也君のお父さんとも知り合いだし、だからやろうと思えば、事故に見せかけて殺す事も出来ちゃうくらいなんだから。ほら、私の所にさっきの先生、チャールズを寄越したのもママなの。ミツキちゃんならこれがどう言う意味か分かるでしょ?」


 そういえば、流れでアイツを倒したけど、そもそもなんでアイツはここにいたんだ?それが、軽音の母の仕業って事なの?


 「なら、荻山さんが私をいじめた理由って、私を守る為だったって事?」


 「うん、そのつもりだった。けど、私はどうしたら良いのか分からなくてなって、ミツキちゃんにはいなくなって欲しくなかったから・・・そうやって悩んでくるうちに、どんどん感情が複雑になって、気が付けば私はミツキちゃんに固執してた。そして、どうやったら守れるのかを考え出したら、ミツキちゃんの人生を自分の物にしてしまえば良いって・・・あなたの人生を私が完璧管理すれば、何も問題は無いって思うようになってた」


 いつも2次創作とか妄想してる私だけど、これだけは今はっきりと思う。この物語がフィクションだったらどれだけ良いことだろうか。こんなの、2次元の出来事であってくれよ・・・


 「・・・ねぇそれってさぁ・・・さっきそういうんじゃ無いって言ってたけど、そういう感じなせいなんじゃないの?」


 「「え?」」


 私と軽音は同時に振り返った。


 「あ、やべ・・・私今変な事口走った?」


 うん、私と軽音は同時に顔が真っ赤に変わった。


 「そ、そんな事!!嘘!!私ったら!!」


 「ちょまっ!!えっ!?ちょ!!ドゥフッ!!そマ!?ちょっ、ぇえっ!?」


 ただし反応は恋する乙女とキモオタだった。あまりにも唐突だったから最早笑うしか出来なかったんだよ。


 「ミツキ、何その反応・・・きっしょ」

  

 コミュ障舐めるなぁ!コミュ障はな、笑い方がキモいんだ!


 「そう?私は可愛いって思っちゃった・・・そっか、私って・・・」


 ーーーガララッ!!


 「おい!!軽音!無事かっ!?」

 「ったくよー、さっきのなんなんだよおい」


 そんな時、突然霧島と新庄が乱入して来た。


 「あ?ミツキテメーもいたのかよ」


 「あ、うん」


 入るなり霧島に睨まれた・・・怖い。


 「京也君と巧君も来てくれたんだ、ありがと。私は大丈夫、ららちゃんとミツキちゃんに助けて貰ったから」


 「コイツが?」


 「本当よ新庄、あくまでもコイツ私の弟子になってんだから、ある程度動いてもらわないと困るわ」


 「ふーん・・・って事は、この騒ぎで1番役に立たなかったのはお前か新庄、あの変な生物にちびってたもんな」


 「ちびったぁっ!?」


 私は思わず叫んでた。ちょっと、新庄が漏らす姿を鮮明に想像出来たもんだから。


 「ちびってねーし!!ミツキてめ!!なにニヤついてんだ!!アレはな!!あの、あれだ!!生命の危機ってのになると勃起すんだろ!?それの我慢汁だ!!」


 あのー、私女なんですけどー・・・


 「うわなに、セクハラ?やだ〜・・・」


 東郷が新庄に対してニヤニヤ笑って見せた。


 「ちょ!らら!!お前いつの間にミツキ側になってんだよ!!」


 「ふふっ!!」


 「軽音までよぉ!!しばらく出番ねーなと思ったら何だよこれぇ!!」


 新庄は若干涙目になっていた。


 「ふん、にしてもお前が軽音をね・・・裏ある訳じゃねーだろーな?」


 ぎく、あるにはあるけど・・・色々複雑な所を突いてくる・・・


 「・・・まぁ、感謝だけはしておくぜ・・・ありがとうな・・・」


 「「「っ!!!!」」」


 私以外の3人が口を大きく開けて固まった。


 「き、京也君が・・・あの京也君が!ありがとうなんて言葉言うなんて!!」

 「初めて聞いたぜ・・・」

 「私も・・・家族付き合いもあるのに、今初めて聞いた気がする」


 霧島ってそんなに感謝の言葉を言わないのか?まぁ、こいつかなり器用だからかな。感謝はされてもするイメージは確かにない。


 「なんだよ・・・とりあえず無事なら俺は帰るぜ?なんか外の方やかましくなりそうだし、俺はあー言うのは嫌いなんだよ」


 外を見ると色んなテレビ局みたいのがやって来てるのが見える。ヘリの音も聞こえだした。


 「そうだね、結局何が起きたのか分からなかったし、私は逃げ遅れたけどなんとかなったって事にしておくわ。だから今日はさよならだね」


 それもそうだな。このままここにいても関係者とか戻ってくるかもしれないし、ここは一旦おさらばするのが懸命か。一応、聞きたい事は聞けたんだ。問題が増えただけにしか感じないけど、なんか一応区切りがついた気がする。今はそれで良しと感じなきゃな・・・


 私たちはそれぞれバラバラに別れたのだった・・・


 第二局面 THE DREAMIG CHILDREN 完


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 指宿 永零の基地


 「あっはっはっははははははは!!!!」


 その中で無邪気にかつ、人を見下したかのような女の子の笑い声が響く。


 「あのバカ、ちょっと実験に出かけるつっていなくなったお思ったら、死んじまったって!!ぷくくく!!だめ!!笑いが止まらないんですけどぉ〜!!!」


 大爆笑しているのはメガリスだ。メガリスは涙を流しながら笑い転げ、机をバンバン叩いてる。


 「メガリスさん、失礼だよ。彼は務めを果たしたんだ。それを笑っちゃダメ」


 それを永零は嗜めた。

 

 「ぁあ?うっせーっての!だって笑えるもんは笑えんじゃーん。アレだよ?まだ三上とかとやり合って負けたなら分かるけどさぁ、町のガキどもにやられたって・・・ざっこ過ぎるにも程があるっての〜!!あははは!!」


 「人を馬鹿にすると自分に返ってくるよ。礼が前にそう言ってたんだ」


 「だからうっせーって!!つーかあんたはやたらと三上にゾッコンだけどさぁ、アイツほんとにつよつよになれんの〜?今のあいつ、アンタに手も足出ないよわよわじゃーん」


 「礼の強さは腕だけじゃないよ。なら、次は君が試してみる?そろそろ、礼も本格的に動いてくるだろうからさ。僕らも次の一手を打とうじゃない」


 「・・・はんっ!!なら次でこのくだらねーゲームっての、終わらせてやるっての!!」


 メガリスは無邪気な笑顔から一変し、歪んだ獣の笑みを浮かべた。

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