悪魔の再来
「ミツキさん・・・反省文だから」
「・・・はい」
私はグレイシア先生に原稿用紙を渡された。理由はどうあれ遅刻は遅刻か・・・いや待って!?誘拐されかけた挙句反省文っておかしいでしょ!?
「ぷーっくすくす。ミツキ遅刻してやがんのー」
後ろの方から東郷の嘲笑う声が聞こえる。
「アイヤー、ミッちゃん大変そうだネー・・・」
ありがとうネーちゃん。
「訳は知ってるけど、遅刻は遅刻だから。学校生活ではダメな事。放課後に提出お願い」
「はい」
厳しい!結構ぽやんとしてる雰囲気だけど結構この先生厳しいのよ!
にしても・・・三日月は無事なのかな?一兆君は大丈夫だって言ってたけど・・・まぁ、この段階でこっちでもなんにも起きてないのなら大丈夫なんだろうけど。
それよりもう一つ。私にとって重要な事・・・めちゃくちゃ眠たい!意識を強引に保つのが限界に来てる!あの銃で電撃みたいなを撃ってからだ。運動会を1週間連続でやったみたいな疲労が襲ってきてる。なんなんだこれ?
案の定、今日の授業は一割たりとも頭に入ってない。チラッとノート見返したらなんだこれ。象形文字か何かかな?あ、意識保とうとノートの左下に落書きいつの間にか描いてるし。けど、それも途中からしっちゃかめっちゃか。今日何してたっけ?
そして放課後。
「ミツキ、今日部活5時までだからね。軽音ちゃんのお見舞い行くから」
東郷が部活の前に私のとこに来た。
「あ、うん分かった」
「・・・あんたも、やっぱまた行くの?」
「あ、うん。タイミングはズラすから」
「・・・ほんっとわっかんないわ。ミツキあんた、私に何か嘘吐いてない?イマイチ理解出来ないんだけど。あんたの人生めちゃくちゃにしようとしてた軽音ちゃんになんであんたがそこまでして毎日お見舞いに行くのかさぁ。普通ザマァ見ろとか思うでしょ?pop
正直に話しなさいよ。あの時、本当にあんたは事故に遭ったのか?警察も逃げた車について何も話さないし、それに今朝の馬喰 一兆。なんかヤバい事件の臭いがぷんぷんするんだけど?」
物凄く詰め寄られた。どうしよう、あの事は話すべきなのか・・・
「え、えっと・・・」
「って・・・聞きたいけど、あんた何か知ってても言えないでしょ。正直な話、あの日私たちちょっとやり過ぎたかもって思ってんのよ。その結果、軽音ちゃんはあんな大怪我をする羽目になった・・・けど、なんであんただけが無事なのよ。
あー!!モヤモヤする!!!どうなの!?私はこれ以上あんたに首突っ込んでいいワケ!?なんかもう私どうしたらいいのかわかんない!!私の直感が言ってんのよ!これ以上首を突っ込むなって!!どう考えたっておかしいでしょ!?今のこの現状さぁ!!」
言ってる事がめちゃくちゃだ。けど、なんとなく分かる。東郷も今朝の事でいっぱいいっぱいなんだ。その捌け口探してる。
「確かに、変だよね今って・・・私だって何が何だか未だよくわかってないもん。でも1つ言えるのは、荻山さんはやり過ぎた報いを受けたって事。あの人は私以外もいっぱい不幸にした。その結果、あぁなってしまった・・・」
どこまで話して問題ない?私は今、言ってはいけない事を口走ったのでは?
「・・・やっぱりあんた、何か知ってんのね。警察にも言えない何かってやつ?」
あれ?意外と落ち着いてる。
「うん、言ってもきっと信用されない。そんな事があの時、いや、ここ最近ずっと続いてる」
「・・・なら教えなさい。あの怪物の事、あの日の事。馬喰 一兆の事、三上君もキャロラインちゃんも何か噛んでるんでしょ?正直、首突っ込むのは怖い、しかも、あんたなんかを頼るのなんて虫唾が走る。
けどね、あんたを貶めようとした軽音ちゃんは私の友達なの。たまにやり過ぎる時もあるけど、良いところもあるのは私がよく知ってる。その友達が酷い目に遭ってるってのに、何もしないなんて事が出来る底辺にはなりたくない。だから・・・教えなさい」
私は、ずっと誤解していたのかもしれない。私は東郷の事は他人を見下す事でしか生きられない嫌な奴だってずっと思ってた。けど普通だ。普通に他人を、友達を尊重出来る人だ。私は勝手に見下されてると勘違いしてた。それで睨み返してた。
私だって同じじゃないか、弟の三日月をいつも腹立つ邪魔な奴だって思って心のどこかで見下してた。私は姉なんだから当然だろって。けど、体力も人付き合いも覚悟も、三日月の方が上だ。私はただ嫉妬しただけだ。
私はもしかして、ずっと誰かを見下して生きてきたんじゃないだろうか?目撃者をする理由も、誰かと違う存在になりたかったっていう気持ちがあった。私は、そういう人間だったんだ。
「・・・いずれはこの世界の生物全員が知ることになるこの世界の真実・・・」
「なにそれ?」
「前に三上君が私にそう言った。東郷さん、これから私が話す事は信じられないかもしれないけど事実。ごめんなさい、先に謝らせて。私と同じクラスだったばかりにあなたを危険な目に遭わせるかもしれない。けど、私はあなたに話してこの事件に巻き込む」
話そう。私は決めた。私は全てを話した。悪魔とバケモノ、異世界、指宿 永零と言う人物がやろうとしている事。私の役目。色々話した。
・
・
・
「・・・はぁ、これがあんたのオタクな妄想話なら、つまんねーって読書感想文でも送りつけてやる所なんだけど、笑えない事実なんだよね?」
「そう」
「・・・分かった、今んとこ、この事知ってんのは他にネーチャンくらいなんでしょ?後は全員当事者って訳ね。ミツキ、ネーチャン連れてヒトナナマルマル時に校門集合。一緒にお見舞い行くよ」
「り、了解」
「なら、部活開始。ミツキ今日のメニューはまず校庭5週な?それから道場で匍匐訓練からの・・・etc」
どひーっ!!東郷の部活モード入った!にしても、サバイバルゲームと言うよりやってることガチで自衛隊のそれっぽいんだよな。この学校柔道部がないから、道場借りて近接戦闘訓練もやるし、外でのBB弾使った射撃訓練は弾は全弾回収してから捨ててるし、公式試合とかないのに、なんでこんなに熱心なんだろ・・・やっぱり好きだからなのかなぁ。
部活が終わった。ネーちゃんは部室の前で待っててくれていた。
「なるほどネー、ららちゃんにも話したんだネ。ま、そりゃ確かに怪しまれるわナ」
「うん、今朝起きた事が相当応えたみたい」
「ケド、意外だよネー。ららちゃんってほら、言っちゃ悪いけど淡白な性格って言うのネ?結構お高くとまってるイメージだからサー」
ネーちゃんからしても東郷のイメージってそういう感じなんだ。
「私も、こんなに首突っ込んで来るタイプと思ってなかった」
「私誤解してたヨー」
そんなこんなで校門に辿り着く。東郷はじっと待っていた。普段なら「遅い!!」と、言われる所だが今日は何も無い。
「来たわね、ほら行くわよ」
ただ単に私を待って、そのまま一緒に病院へ向かった。
病室に着くと、軽音と担当医だろうか、医者と何か話してるのが見えた。
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ、ん?お友達が来たようだ。私はお邪魔だね、失礼するよ」
医者は病室から出て行った・・・ん?なんだ、今妙な違和感が。なんだろ、前にもこの感覚を味わったような・・÷
「あ!ららちゃんにミツキちゃん!ネーチャンも!今日は一緒なんだ!珍しいね!」
相変わらず清々しい程綺麗な笑顔。純粋に喜んでる顔だ。
「まーね。それよりさっき、先生と何話してたの?」
「ん?あぁ、ほら。私さ、事故に巻き込まれた時の記憶が曖昧じゃない?しっかりと思い出せれば犯人も分かるかもしれないから、あの先生はその手伝いしてくれてるの」
ぎく・・・あれを、思い出そうとしてるだって?
「ミツキちゃんは何か思い出した?」
「い、いや・・・私も運ばれた所しか覚えてなくて・・・ほんと、なんなんだろうね。けど、私はどちらかと言えば思い出したくないかな。なんか、怖いし・・・」
あの出来事思い出したらきっと、いや、確実に精神崩壊する。止めないと。
「確かに、怖いよね・・・けど、思い出さないと駄目な気がするの。ママも言ってた、絶対に思い出せって」
え、普通そんな事言うか?私の母なら無理して思い出さなくて良いって言う気がする。
「そうなんだ。けど、無理しないでね軽音ちゃん。思い出してショック受けちゃっても嫌だしさ」
東郷は軽音の手をそっと握る。そうだよな、普通こんな大怪我したらまずは身体の心配するよな。
にしても、ここにくるとあの時の光景を鮮明に思い 出す。あの笑い声と飛び散る血・・・アレが始まりだった。それから・・・
ん?あっ!!
「思い出した!!」
「きゃっ!」
「うお!?」
「ひえっ!?」
3人私の声にびっくりした。私も思いの外大きな声が出てびっくりした。って、そんな事言ってる場合じゃない!!
「あの先生!!どっかで見たと思ったら!!あいつ!!国連の!!」
「・・・あっ!!あーっ!!確かに!そんな顔してた気がするネ!!なんでさっき気が付かなかったんだヨー!!」
私とネーちゃんは外に飛び出した。
「ちょっ!!なんなのよ!?」
「東郷さんはちょっとここで待ってて下さい!!」
何処だ、何処に行った!?あいつ、軽音に一体何をしてたんだ!?
「いたネ!ちょいとアンタ!!」
「待ちなさい!」
見つけるのに苦労しなかった。普通に歩いてたからな。
「ん?ネー・チャンに、新月の娘か。よく見つけたな」
「そりゃそんな堂々といたら分かるネ!!」
「意外と分からないものなんだがな。特に、輝夜 ミツキのように誰かの顔を見る事が苦手な奴は特にな。それのおかげか私と分かるまで少し時間がかかっただろ?」
確かにそうだけど・・・
「それはいいとして、あなた、一体荻山さんに一体何をしたの?」
「いやいや、勘違いしないで頂きたい。ただの手伝いだよ。彼女自身が記憶を取り戻したいと願っていたからね」
胡散臭・・・絶対違うだろ。
「しらばっくれてんじゃないヨ!」
「しつこいね、私は嘘は言ってないよ。これは母親からの願いでもあるのだよ。考えてみたまえ、何者かに轢き逃げされ、腕と脚を奪われた。自分の子をこんな目に遭わせた奴を放っておく奴はいるまい」
「・・・それが、本人が記憶を取り戻す事を望んでいなくてもですか?私は親じゃないから分からないけど、私の母ならきっと、その感情よりもどんな形であれ命が無事な事を喜ぶ筈です。その後の事は警察に任せようってなりますよ。無理に記憶を呼び起こせなんて言わない。本当の目的はなんなんですか?チャールズ オリヴァーさん」
こいつの言ってることは嘘だってのはバカの私でもすぐに分かる。こいつがやろうとしてる事は実験だ。けど、なんの実験をしようとしてるのか分からない。
「好奇心旺盛だな。君は科学者に向いてるのかもしれんぞ。我々の目的は死者の蘇生、そして完全なる生命の誕生。そこに変わりはない。だからこそ彼女は貴重なサンプルなのだよ。悪魔により断罪を受け、かつての心を殺された存在。罪は洗い流され新たな存在として生まれ変わる。それが坂上 桜蘭のやった事だ。私はその殺された心を取り戻そうとしているのだ。
それにしてもだ、私が思うに人間というのは生まれながらにして罪を背負ってるもの、あの断罪にはなんの意味も私は感じない。つくづく思うよ、終わりよければ総て良しだとね。犯した罪なら他の何かで補えばいいものを。私もそうして生きてきた、私にとってこの世の全てが罪なのなら、この世の全てが償いだと思うよ。君はどう思うかね?」
こいつ、頭いかれてんのか?後でなんとかすればその時何しても良い。そんな風に聞こえるぞ。
「さぁ。少なくともあんたはクズだってのは分かった。荻山さんは私にとって友達でもなんでもないけど、二度と近づくな!」
私はチャールズを睨んだ。ネーちゃんも同様に睨む。
「あんたたまにはいい事言うじゃないのよ。話は聞かせて貰ったわよ、こいつが例の敵って訳ね。このゲス野郎が・・・」
いつの間にか東郷も後ろにいた。まぁ、待っててって言って大人しく待ってる訳ないか。
「東郷 ららか。ほんと分からない奴らだね。君らには成し遂げたい夢はないのか?死者蘇生と不老不死はありとあらゆる生命の夢だ、君らはそれを邪魔しようとしているのが分からんのか?」
「知るかよそんなもん。私の夢は私が立ち上げたこのサバイバルゲーム部で全国大会開く事なんだから。そんな不老不死?とか全く興味ないわ」
「ふん、生産性のないいい夢だ。そんな戦争ごっこ何の役に立つと言うのかね?中学生ならそろそろ大人になるべきだ」
「は、ははは!!確かに言えてるわー!サバイバルゲームなんて確かに将来何かの役に立つか?って言われたら何にもならないわ!中学生だけでやろうとすると10禁か14禁しか使えないうえに、そもそもこんな部活、マイナー過ぎるから就活でもアピールポイントになりゃしない・・・けどさぁ楽しいのよ。この戦争ごっこがさぁ、人生賭けても良いってくらいに大好きなんだよ私は。
人間ってさ、無駄を楽しむ生き物だと思うんだよねー。世の中にある部活とか趣味って生きる上では無駄な事じゃん。けどみんなはそれに夢中になる。でもさ、あんたは生産性が無いとかつまんねーこと言いやがるんだよね。あんたは、不老不死とか大層立派な夢を掲げてらっしゃるみたいだけど?私からしたらそんな夢こそおもんないわー、厨二病患者ですかー?どっちが大人になるべきか考えてみろよ、クソ野郎が」
わー、この嫌味とか悪口がこっちに向かないのってこうもスッキリするもんなんだな。良いぞもっと言ってやれ。
「あぁ、思えばそうかもな。私の夢は幼き頃からあったものだ。いつか必ず手に入れるとな・・・訂正しよう、互いに掲げる夢の大きさは変わらないな。しかし、意味が生まれるのはどちらかは別だ。私は意味のある事を成し遂げたい。君らはせいぜいごっこ遊びを楽しみたまえ」
こいつ、逃げる気か!?
「逃げるな!」
「回り込むネ!!」
私は銃をチャールズに突きつけた。そしてネーちゃんが後ろに回り込む。運良くここには誰もいない。
「なんのつもりだね?」
「私たちはお前をこのまま逃す気はないつってんの」
東郷もカバンから自前のエアガンを取り出してチャールズに向けた。
「ふっ、そんなおもちゃでどうにかなるとでも?」
「知ってる?サバゲってさぁ、ルール守らないとめちゃくちゃ危ないんだよ。私は今、あんたの眼球に照準絞ってる。あんたがどんな奴か知らないけど、めちゃくちゃ痛いには違いないだろ?」
東郷の射撃の腕は相当なものだった。めっちゃ精密に的に当たる。眼球狙いも嘘じゃ無い。けど、それでもこの未知にどこまでやれるか?
「・・・やれやれ、私はこう見えて忙しいんだ。早く次の実験に取り掛かりたいんだがね。仕方ない、君らはまだ殺すつまりはなかったんだがな。東郷 らら君は知りたがっていたね。荻山 軽音がどのようにあんな姿になったのか・・・」
こいつ!!
「ネーちゃん!!荻山さんを!!」
「はいナ!!」
ネーちゃんも咄嗟に理解したみたいだ。チャールズの奴、ここでアレを再現するつもりだ。ネーちゃんは軽音の病室に走った。
その直後、一瞬で空が真っ赤に染まった。周囲の雑音が消え、私たちとこいつ意外何もいなくなった。これはマズイ・・・
「何よこれ・・・」
「奴だ!悪魔が来る!!」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
この耳に突く笑い声!!にやけ面のピエロの悪魔!!
「君らは本当に愚かだな。一つ勘違いをしているぞ?私は荻山 軽音の身に起こった事を再現するつもりだが、そこに彼女は必要ない。君らで再現しようと思う。さぁ、未練を残して死にたまえ。なぁに、恐れる必要はない。どうせ生き返るのだからな。せいぜい死に方のサンプルを残していってくれたまえ」
戦うのは無理だ。軽音の違法電気バトンでもダメージは無かったんだ。私のこの銃でどこまでやれるか・・・
そして悪魔が現れた。
『オマエノツミハナンダ?』
「ひっ!」
東郷がビビってたじろいだ。仕方ないよな。あんな不気味な奴、恐怖が真っ先に来る。けど、私は一歩踏み出した。息が荒い。手はガタガタ震えてる。足もおぼつかない。けど、私は前に出る。そして銃のハンマーを降ろした。
「まずは君からか・・・輝夜 ミツキ」
「うおおおおおおっっ!!!!」
まだだ!堪えろ!!ギリギリまで貯めて撃て!!
『ギャァァァァァッッ!!!」
っ!?なんだ!?悪魔が突然断末魔を上げて私の前で倒れた。
「ふぅ、異空間突破、実験は成功です」
「お前は!?」
チャールズが今までにない驚きを見せた。私も驚いた。ぴたっとしたバトルスーツ的な服の上に長いフード付きマフラーを巻き、右腕にはゴツいガントレットを付けた少女だ。
「天正市スーパーヒーロー大作戦。第二段階、敵幹部の捜索及び撃破。まさかこんなに早く決行する事になるとは思いませんでした。今朝のようにバケモノや悪魔の実証実験をもう少し繰り返すものと思ってましたから。ですが、ミツキさんのお陰でこうも早く辿り着けましたよ。キーセブンの一人にして、わたくしの父・・・チャールズ アンダーソン」
「・・・まさかお前が私の前にやってきてくれるとはな。嬉しい誤算だ我が娘、リリア」