私の友達
家に向かう道中、私はぷらっと百均に立ち寄った。ボールペンの赤があんまり無かったのを思い出したからだ・・・あったこれだ、私の気に入っている赤のボールペン。値段の割に持ちやすくて、基本的に最後まで使い切れるから気に入ってる。
「アイヤー?ミツキちゃんネー!」
・・・誰だ?この女・・・糸目で頭にお団子2つ、こんなコッテコテなエセ中国人みたいな人知らんぞ?
「・・・・・」
「チョーイ!ワタシヨ!?忘れちゃったネ!?同じクラスだったじゃんヨーッ!!」
すまん、マジで分からない。そもそも友達と呼べるやつなんかあの学校にはいない。故に去年のクラスの奴の名前もほとんど覚えてない。
「ごめん」
「アイヤー・・・あ、髪型変えたからかネェ?あとはそっか、喋り方変えたもんネー。ほら、これなら分かるでしょ?」
あ、髪下ろして急に標準語になった・・・あー覚えてるかも。名前は確か、
「確かチャンさん、でしたっけ?」
「アイヤー!1年も一緒にいたのにさん付けネ!?ワタシは内・张ヨ!!おねーちゃんって呼んでって1年ずっと言ったヨォ!?」
そう言えば言ってたな。クラスで明るくて私はあんまり関わろうとしなかったがな。こいつはまた髪をお団子に収納した。
「で、何の用なの?」
「ンー?たまたまいたからネ。今日休み最後じゃん?で、家にいたらやれ掃除ニ洗濯。最後の日くらいのーんびりさせてヨーって飛び出して来たのネ。デ、そう言えばボールペン買い忘れターってなって、百均来たらミツキちゃん発見ってワケヨ」
うん、やってる事が殆ど私だな。
「デネ?それからが重要デ、それから今日友達と遊ぶ約束してたのにヨ?そいつったら、宿題やってない〜って、ドタキャンしたのネ。だからどっしよーってなったネ。でさミツキちゃん!今日これから予定アル!?」
顔近ッ!?
「い、いや・・・ないけど・・・」
「なら一緒に遊ぼーネ!!おんなじ外国人同士なんダシ!!で、友達になろうヨ!!急がば進め〜!!」
「あちょっ!?」
え〜・・・適当に頃合い見つけて家帰ったら、アニメ一気見しようと思ってたのに・・・
今朝適当に嘘言ったのに、何だかんだ本当になっちまった。
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「それよりミツキちゃん、その服サ?なんでボロボロネ?ダメージ加工って奴?」
あ、そう言えばこんな格好だったな。
「いやこれは、さっき盛大にコケて・・・」
「アーイーヤー!?ケガ大丈夫だったネ!?」
「う、うん・・・なんとか」
言えない、変な怪物に襲われた事とか、桜蘭さんの不思議な力で治してもらったとか。どう説明すれば良いのかも分からないし。
「なら、にゃっふふ!!ワタシが新しい服買ってあげるネ!!」
「え、ぇえ!?」
コイツいきなり何を言い出すんだ!?
「そんな、良いですって・・・」
「遠慮はナーシ!!ワタシ服買うの好きなのネ!それで将来の夢はファッションデザイナー!!けど、ワタシまだ誰かのコーデ考えた事がないヨ。だからお願いネ!!ワタシにミツキちゃんのコーデ考えさせてネ!!」
あ、熱い・・・コイツめっちゃ熱い人だ・・・私は別にファッションなんて興味ないのに・・・けど、変に断れないこの雰囲気・・・
「じ、じゃぁお願い・・・」
「ヤッタ!!ミツキちゃん良いスタイルしてるからネー、アレが似合うカモ」
わー、私が普段入らないような店だー・・・てか待て、コイツのファッションセンスってどうなんだ?いや、大丈夫・・・将来の夢がファッションデザイナーなら・・・いや、けどパリコレみたいなふうにされたら・・・
「チョイ待ちネー!!服探してくるヨー!!」
私は試着室の前に待たされた。
「あの、すみません。その試着室使って良いですか?」
「あ、はい」
やべ、この位置は邪魔だったか・・・私に声をかけたのは、えっと・・・女の子?いや、声男だったよな。服装も、一応男だな。隣の大きな帽子被ってるのは確実に女の子は分かるけど・・・何故甚兵衛?
「おいらこれ着たい!!」
「わ、何だそれ!?流石に学校生活でそれはダメ!!」
「えーっ!?かっこいいじゃん!!」
兄妹か?仲良いな・・・妹の方、弟と同じくらい歳だろうけど、あいつもアレくらい可愛げがあればなぁ。それにしても帽子の子の選んだ服、何だあれ?鎖帷子か何かか?
「ミツキちゃーん!!良い奴いっぱい見つけたヨー!!」
さて、こっちもか・・・って!?ぎゃーむ!!何だあの服の量!!
「にゃふふふふ!!!さぁファッションショーの開幕ネ!!」
その後はコイツに着せ替え人形の如く服を着せられた・・・
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「にゃふ!?決めた!!コレネ!!」
「え、こっ、こんな格好!?は、恥ずかしい・・・」
み、ミニスカートだと・・・生まれてこの方履いた事なんて無いぞ。それにこんなニーハイ、上はなんかフリル付いてるし・・・袖長くない?後、割と気に入ってた方目隠しのこの髪型もついでに弄られた。
「えー!?可愛いじゃんネ!!ねぇぼく・・・ぼく、か?あれ、ごめん女の子だった?」
さっきの兄妹にも意見を求めてる。にしても兄の方、マジで分からんな。コイツが今一瞬キャラ忘れたのがその証拠だろうな、
「あ、僕は男です・・・あと、似合ってると思いますよ?いい感じで大人っぽさが出てると思います」
「おねーちゃんかわいいー!!」
普通に褒められた・・・これで似合ってるのか。いくら捻くれてる私とは言え、純粋に褒められるのは悪い気はしない。
「おふたり見る目あるネ!!よっし!!今日はこれ着て最終日遊ぶぞーい!!ファッションチェックありがとネー!!」
「うん、どういたしまして。二人とも楽しんできてね」
わー、爽やか笑顔・・・最早貫禄すら感じる。
私たちはその兄妹と別れてゲーセンに向かった。
「ねっ!!一緒にプリ撮るネ!!」
プ・・・プリクラ・・・陽キャを代表する設備じゃないか。隠キャの私からすればこれは拷問・・・か、覚悟を決めろ。
「顔硬いネー、ほらニッコリするヨロシ!!」
むにー・・・
私は後ろから頬をむにーって上げられ、そして撮られた。その後は成る程、所謂盛る工程はこれか。
「こうしてこうして・・・出来たネ!!」
誰だコレ・・・世の中って恐ろしいな、こう言うので男を騙くらかして、マッチングアプリとかで金を巻き上げるんだろ?この写真はそれが通用しそうな程だ・・・怖い怖い。あ、10万・・・
嫌な奴思い出した・・・
「ミツキちゃんめっちゃかわ!!我ながら頑張ったヨ!!」
「ど、ども・・・」
「ギャハハ!!また落としてやんの!!」
「うっせー!!」
げ、この声・・・脳裏によぎった瞬間か、1日で2回も見る事になるとは。
「アイヤー?霧島君たちネ。ワタシあんましあの子たち好きじゃないヨ。あんなにうるさくしたら迷惑じゃんネ?」
それな!!!分かってるじゃないか!!私は一瞬興奮した。
「ん?」
やべ、目が合った?いや大丈夫だ、賭けよう。今の私はさっきの私では無い、変装したのだ。そう思って堂々としてろ・・・
「うーん、そろそろお腹空いたからお昼食べに行くネ?」
「うん」
よし、今のうちに離れよう。
そして向かうのは某有名ハンバーガーチェーン。頼むのはフィッシュフライの入ったやつ、たまに無性に食べたくなるんだ。
「ワタシはチーズバーガーでヨロシ!!ポテトセットネ!」
初めてな気がする・・・家族以外でこうやって誰かと何かを食べるのなんて・・・いや、小1の頃にはそれくらい仲がいい奴が居たな。けど1度引っ越したからそいつとは疎遠になっちゃったっけ、懐かしい・・・
「ねぇ、ミツキちゃん。今、楽しい?」
「え?」
突然神妙な顔してどうした?
「いや、チョイとぐいぐいやり過ぎたかなーって思ったネ・・・迷惑も考えずさ・・・だから」
「い、いや・・・最初は驚いたけど、けど・・・こ、こんな風に誰かと遊んだ事なんで無かったから・・・楽しいとか、よく分からなくて・・・」
今の私の気持ちを30文字以内で答えなさい。頭がそうやって命令して来た。けど、出来ない・・・言葉が浮かんでは文章に出来なくて消えていく。何をどう答えれば正解だ?
「ごめんネ?こんな事聞いてサ、さっきから笑ってくれないからちょっと心配なのヨ」
あ、笑って無かったからか・・・けど、どうやって笑えば良い?分からん・・・だから人付き合いは嫌いなんだ。
「ご、ごめん」
「アイヤ!謝らないデ!!雰囲気悪くなるの一番だめネ!!」
「そうでござる!!」
なんだ?今の相槌・・・てか、誰だ?このデb・・・丸い天パは?
「何があったかは存ぜぬが、ご友人との食事は楽しく!!せっかくのハンバーガーぞ!?このチープな味わい!この景色!いや、懐かしき!!」
「おい何してんの?デブ、早く注文しろ」
「悪いな嬢ちゃん、俺のツレが迷惑をかけたみてぇだな」
どう言う組み合わせだ!?あのデブのツレって、1人はまぁ分かる。けど似合わなさ過ぎだろ!思いっきり不良じゃん!!で、もう1人の保護者っぽい人・・・どう見ても筋の人にしか見えないけど!?
「いや、何か不穏な雰囲気を察し、拙者居てもたってもいられず・・・お、それより注文でござるな?あ、すまぬがまずハッ◯ーセットを3人分で、お?男の子用?否、女の子用ので!!それから・・・」
私たちはしばらく様子を眺めてた。そしてあいつら3人のトレーの上には大量のポテトとハンバーガー。そしてデブ、ヤンキー、筋の人の手元には女の子向けのおもちゃが握られてた。
「・・・・・ぶふぅっ!!!!!!」
耐えられなかった。しばらくしてたら突然、頭が笑えと命令を出しやがった。2人の死んだ目とキラキラなおもちゃのギャップに耐えられなったんだ。
「くっ・・・くく!!くっ!くけっ!!!かかきくけっ!!!」
堪えろ・・・流石に失礼過ぎだろ、けど、ダメだ。さっきまで笑い方が分からなかったのに、今は逆に止め方教えてくれ。ツボに入った!!
「おいデブてめぇ、笑われたじゃん。どーすんの?シュール過ぎるだろコレ」
「仕方あるまいではないか!!此度のこの玩具の出来はかなりのもの!!そしてファンの1人である拙者は揃えねば無作法と言うもの!!」
「いや人の趣味にとやかく言うつもりないけどね?ほら、さっきの子・・・めっちゃ笑ってんだけど?」
ごめーん!!てか、やばい・・・目付けられた?
「ひえーごめんなさいネー!!」
私を代弁して謝ってくれた。
「いや別に謝らなくても良いんだけど。ま、楽しかったんなら良いんじゃね?じゃ、俺たち行くわ」
「食事は楽しく!!では拙者もいざ参らん!!」
行った・・・
「アイヤー・・・あの人確かここら辺じゃ有名な不良ネ・・・怖かったアルヨ・・・」
「ふー・・・ごめん、なんか、ツボ入って・・・」
不良の事は詳しくないけど、やっぱマジの人なんだあいつ。
「けどなんか思ってた以上に優しかったネ。それに、初めて笑ってくれたヨ。ワタシそれで十分ネ!」
ニッコニコ笑顔。私もこんなにコイツが笑ったの初めて見た・・・いや、そもそもこうやって人の顔をじっくり見たのが初めてな気がする。
「ありがと・・・」
「それ!!そうやって笑ってくれると嬉しいネ!!アイヤー、終わりよければ全て良きかナ!!後さミツキちゃん、すっごい笑い方するネ」
「あ、アレは・・・その、ツボ入るとキモい笑い方になっちゃうって言うか・・・」
「にゃふふふ!!!そんなの誰だってそうネ!!ワタシもこんな変な笑い方になっちゃうもん!恥ずかしがる必要なんてないヨ!」
恥ずかしがる必要はない・・・言われてみれば、確かに変な笑い方するなコイツも・・・
「アイヤー・・・なんで去年ミツキちゃんにもっと話しかけられなかったんだろネ?ワタシもなんか今日、いつも以上に楽しいのヨ。そうだ!ね、改めてだけど、ワタシと友達になってくれないかな?」
友達・・・そんな響きがこんな日に聴けるなんて思いもしなかった。今ようやく理解した。今あるこの感情、嬉しさだ。それはイコールになってもう1つ感情を教えてくれた。楽しい・・・コイツとなら・・・ネー・チャンとなら、なんだか仲良くなれる。そんな気がする。
「わ、私も・・・今日楽しかった。だから、チャンさん。と、友達になって貰って良いですか?」
「ぶっ!!にゃふふふふふふっ!!!!硬い硬い!チョー硬いネ!!ワタシは呼び捨てで良いヨ!!あ、そうネ!!じゃミツキちゃんの事ミッちゃんって呼んで良い?それが呼びやすそう」
あだ名・・・これまで付けられたあだ名とは格段に聞こえが良い。心地が良い響き・・・
「な、なら私も・・・えっと、どうやって呼ぼう?」
「おねーちゃんデ」
「変・・・けど、呼びやすいのは確かにそのまま。ネーちゃんって呼んで良いかな?」
「オッケー!!じゃ!!コレからヨロシク頼むネミッちゃん!!」
「これからよろしくねネーちゃん」
こうして私に、初めて友達が出来た。