俺の師匠
第二幕 THE DREAMIG CHILDREN
ゴールデンウィーク明け、俺のいつもの日常が始まる。けど、なんかモヤモヤする。理由は明白、バカ姉も言ってた事だ。
どこからどこまでが夢だったんだ?あの京都での出来事、これまでの非日常のレベルがバグって俺の精神が追いついていない。永零が女だったのは本当だったと思う。えっとその前は・・・朝飯食ってて、あそうだ。飯綱が俺の分まで平らげて・・・いや、それは夢か。って事はアレも夢か。
思い返せば思い返す程どこが夢だったのか分からなくなる。こんなんじゃ駄目だ。せめて、区別つけられるレベルに到達しねぇと・・・その為にはまず修行が必要だな。って思ったけど、どうやったら良い?三上んとこ行くか?いや、あいつは今相当忙しそうにしてたからな・・・どうしたもんか。
てな訳で一日終わった放課後。
「おーい、三日月〜」
そんな事考えてたら霧矢がサッカーボール持って来た。
「んー?」
「サッカーやろーぜー」
「あぁ、やろーぜ」
俺の取り柄と言えばサッカーか?いや確かに得意だが、実力は正直悔しいが霧矢が上だ。前リフティングしながら道に迷って山登りしても尚ボール落とさずに帰宅しやがったからなあいつ。
「ん?おーい零羅と飯綱もサッカーやるー?今日人手少ねーのー」
霧矢はどう言うわけか零羅と飯綱も誘いだす。確かにいつものメンバーは塾やら家の用事やらでいない。やれやれ、小学生から塾は行きたくねーな。
「え?サッカーボール・・・良いのですか?」
「おいら蹴鞠は得意だぞ」
蹴鞠っていつの時代だ。まぁそんな飯綱はまだいいけど問題は零羅だ。サッカーって単語を初めて聞いたような顔してるぞ。まさにお嬢様だな・・・って待て、零羅がボール蹴ったらどうなるんだ?
「ちょーっと待ったー!!あんたら!!よってたかって零羅ちゃんたちイジメる気でしょ!?と言うより!!放課後はさっさとお家に帰りなさい!!」
空気読まない、いきなりうるさい声、うちのクラスの委員長だ。名は仙石 茜。
「えー、俺そんな気ないけどー?あ!委員長もサッカーやるー?」
相変わらず霧矢は能天気。
「誰がそんな遊びしますか!!零羅ちゃん!嫌なら嫌ってはっきり言わなきゃだめよ!?」
「いえ、わたくしは面白そうかなと」
零羅はキョトンとした顔で反応する。
「え、そうなの?ぬぬぬ・・・こうなったら!!男子対女子で対決よ!!」
あ、これさっさと帰らなかった俺たちのクラス全員巻き込まれるパターンだ。委員長のやつ熱入るとすぐこうなる。
「いいよー」
「私もやるー。暇だったしー」
それでも割とその委員長を煙たがる奴はそこまでいない。クラスを纏める能力は高いんだろうな。だからメンバーが普通に集まった。男子対女子の対決が今・・・って待て待て待て、これが普通の学校の奴らなら良いけど、相手零羅だぞ?いや、多分大丈夫。流石に加減は知ってる筈・・・
「良い?行くよー」
てな訳でキックオフ。ボールは女子チームに渡る。委員長ガリ勉に見えて意外と動けるんだよな。下手な男子よりドリブルとパスが上手い。案の定ボールは零羅にパスが行った。
「零羅ちゃん!!シュート!!」
「はい!!てりゃっ!!ってあっ!?」
・・・・・はいはい、予想はついた。加減ミスだ。零羅のか弱い女子みたいな掛け声で蹴ったボールは、風船を割ったような炸裂音の後、ゴールポストにめり込んでいた。
一同ポカンだよ、俺も含めてな。
「も、申し訳ありません!!加減間違えました!!」
「う、うん・・・」
零羅はめり込んだボールをポコンと外した。
零羅のあのパワーもどうやってんだろ?明らかに蹴り方は素人だ。けど確実に足はボールの芯を捉えてた。戦い方、零羅に教わるべきか?っと、その前に・・・
「いい感じよ零羅ちゃん!!これきっと男子にも勝てるよ!!」
「「「おーっ!!」」」
委員長め、このゲームにかなり力入り始めた。
「っしゃ!!三日月!零羅徹底マークな!!んで山本は飯綱マーク!!」
そしてこっち側もだ。いつもぽやんな霧矢が指示出し始めたぞ。零羅のあり得ないパワーはなんのその。みんなしてスイッチ入ってしまった。他ごと考えてる余裕無くなっちまったな。
普通に考えりゃ男子の方が生物学的に力は上だ。けど、それを帳消しどころか上回ってくるのが向こうに2人もいる。
「えい!」
零羅の蹴りは掛け声とは裏腹にえっぐい音を立ててボールがネットに絡まるような圧倒的攻撃力を発揮する。
「はーっはっはっはー!!ゴールしたきゃおいらを倒してから行けー!!」
そして何処に行っても先回りしてくる飯綱の防御力。
「オッケー!オッケー!!美奈子ちゃんは後ろさがってー!!うん!そこで三日月君マーク!!」
更には委員長の統率力。正直このメンツ、中学生相手にやるよりも楽しいかもしれねぇ。俺たちが全力出してもギリギリ勝てるか分からない試合だ。
けど、男としてのプライドもある。俺たち全員ガチモードだ。お陰で今得点は2対2でゲームが進んでる。時間も忘れるレベルだった。
「零羅ちゃんゴール!!3対2!!」
ちくしょう、また零羅に点を取られた。
「くーっ!!取り返すぞー!!」
「「「おっしゃぁっ!!」」」
俺たちのテンションはピークに来た。その時だ。
「おーい、白熱してるとこ悪いけどよ霧矢、お前何か忘れてねーか?」
突然聞こえてきたクールな声。あ、霧矢の兄貴だわ。
「うん?あ、兄ちゃん?なんだっけ?」
「・・・はぁ、親父が今日夜いねーからさっさと帰れって言われてたろ」
「あ!やべー!忘れてた!!ごめんよ兄ちゃん!」
何忘れてんだよ。
「ったく、お前らもそろそろ帰れよ?もう遅いぜ?」
「「「はーい!!」」」
霧矢の兄貴、結構イケメンだからな。女子組は目がキラキラしてやがる。それよりも、一つ気になる事が出来た。
「なぁ、霧矢の兄貴。それ竹刀か?」
霧矢の兄貴は肩に長細い袋を担いでいた。竹刀袋ってやつだ。
「お前は確か、三日月君だっけ?弟からよく話は聞いてる。随分と世話してもらってるらしいな」
「兄ちゃん、しれっと俺をディスるのやめてくれるー?」
「事実だろうが霧矢。いつもこいつの方向音痴に付き合わせ貰ってわりーな」
「いや、こいつのおかげである意味大冒険になる事よくあるんで、それはそれで楽しんでるぜ。なんだかんだちゃんと家には着くし」
「ふっ、こいつの帰省本能は半端ねーからな。この間も北海道で迷子になってこいつ1人飛行機乗り遅れてもしれーっと次の日帰って来たからな・・・それよりこの竹刀は、夜道場に行って剣道やってんだ。それ用のやつだ」
「へー、霧矢の兄貴剣道やってたんだ。霧矢はやってねーよな?」
「うん。兄ちゃんだけー。兄ちゃんすげーんだぜ?中学だと剣道部のしゅしょうってやつなんだってさー」
剣道部主将・・・こいつだ。俺が学ぶべき人は多分この人だ。
「な、なぁ霧矢の兄貴・・・こんな事いきなり聞くの変かもしれねーけどよ、その道場見学って出来るか?」
「なに、興味あるのか?」
「あぁ、ちょっと訳あってな。辿り着きたい場所が出来てよ・・・」
俺は霧矢の兄貴の目に向かって話した。
「へぇ・・・お前伸び代がありそうだな。いいぜ、夜7時に公民館に来てくれ。なんならついでに霧矢も連れて来てくれねーかな?こいつ1人留守番は流石に危なそうだからな」
「えー、俺ちゃんとやれるけどー。ぶー」
霧矢の意見より兄貴の意見がごもっともだ。こいつ1人で留守番は、赤の他人の俺でも気が気じゃなくなる。
「にしてもサンキューな。いきなり無理言ってよ。改めて、輝夜 三日月だ。宜しく頼みますぜ」
「か・・・」
なんだ?一瞬妙な空気が・・・
「どした?」
「いや、京也だ。霧島 京也。よろしくな三日月君」
へー、霧島 京也か、なんかカッケー名前だな。あれ?なんか聞いたことあるような・・・気のせいか。