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俺の見た秘密

 「いや大丈夫だぜ。それより、耳ってどう言う事?」


 「こう言う事」


 飯綱は帽子を取った。するとぴょこんとふさふさした茶色の獣耳が姿を現した。


 「え、何それ・・・キツネ?」


 「へへ、なんかいざ見せるとなると、ちと恥ずかしいや」


 飯綱は普段の様子からはあり得ないくらい恥ずかしそうにもじもじしてる。


 「飯綱はいわゆる、お狐様とか化け狐って呼ばれる種族の一人なんだ。本来なら人間への擬態は完璧に出来るのが普通らしいんだけど、飯綱の場合は少し苦手みたいでね、耳がどうしても隠せなかったんだ」


 「おいらこう見えても頑張ってんだよぉ!?足とか腕とかも人間だし、いっちばん苦労したのはやっぱ尻尾さね。ここも気を抜いたらほれ!」


 『ポン!』


 飯綱はガチのキツネになった。


 「あ、戻りすぎた。まぁいいや、疲れたし〜」


 そして俺の頭の上に乗っかった。


 「んお!中々の座り心地!!髪ちゃーんと洗ってる証拠さね!」


 「こら!人の頭に乗らないの!」

 「はーい」


 三上は俺の横に座り、飯綱は三上の膝の上に座った。


 「さてと、そろそろ本題に入ろうか。こんな感じで僕たちはこう、なんて言うのかな・・・ちょっと訳ありの寄せ集めみたいな感じなんだよね」


 「まぁ、見りゃ分かるわな」


 俺はチラッと零羅を見た。


 「はは、零羅さんも濃いもんね」


 「え?なんの話ですか?」


 そう言うとこだと思う。


 「それより、話は一応零羅さんから聞いたよ。あの時の誰でも無い記憶を君は夢の中で見た・・・先に言っておくと僕の知る永零は男性に違いない。けど、一つだけ疑問に思ってた事があるんだ。少し、あの時の話をしようか。


 第二次世界独立戦争と呼ばれる戦い、そこで永零は自身の記憶と目的を取り戻し、そして達成した。僕は永零に敗北しちゃったんだ・・・けど、僕は永零の目指す世界がどうしても受け入れられなかった。だから彼は、僕に最後のゲームを提案したんだ。僕たちに永零の望む世界が正しい事を証明する為にね。


 永零は君が先生から貰った能力みたいにとある力をもってたんだ。けど、その力を完全に使いこなす事は不可能の筈だったんだよ。


 でも永零は、僕には絶対に到達出来ない力を手にしたと言い、その能力を使った。そしてその後は彼の姿を見た人はいない。その時の出来事がおそらく君が見た夢だ」


 少しだけ理解出来た。


 「永零の能力って、何なんだ?」


 「彼の本来の能力は到達点、自身の求めた結果に行き着くって言うコレだけでもチートにも程があるでしょ?けど、その能力は応用次第で結果のすり替えすら可能になるんだ。簡単に言えば、後出しジャンケンし放題ってとこだ」


 「やば・・・なにその、ぼくのかんがえたさいきょうのてきみたいな能力」


 「だとしても、彼がやれたのは、せいぜいぐーをぱーに変える程度だった。けど、あの時完全な力を得たと言う彼がやったのは、無かった事にしたんだ。あの戦争では多くの死者が出た、数は58万8622人。それだけの数があの時死んだ。その出来事を、永零は無かった事にしたんだ。


 永零は自身の能力で到達してしまったんだ、死者蘇生の方法をね・・・僕には分からなかった。どうやってそんな本当に神様みたいな能力を急に使いこなせるようになったのか・・・ずっと疑問だった。けど三日月君の見たその夢で一つ、可能性が出てきたんだ。あの時、永零の雰囲気が突然変わった・・・三日月君、ちょっとついてきてくれるかな?」


 俺は三上に付いて行った。


 地下室、三上がさっきまでここで何かをしていたらしいけど。俺たちは地下に続く階段を降りていく。


 「僕にも、何で君たち姉弟が僕らの件に巻き込まれてるのかはまだ分からない。けど、スミレ先生は巻き込む気満々みたいだし、バケモノも悪魔も、何かの拍子にまた現れるかもしれない。改めて聞くけど、君はその力を使って戦う?」


 三上は俺をじっと見た、そして俺は懐中時計を取り出した。


 「こう言うのは、乗りかかった船って言うんだろ?戦うに決まってんだろ」


 「そう、なら修行も付けないとだね。さてと、ここだ」


 上の洋館からは想像つかないメカメカしいドア、どっかのゾンビゲーか?三上はそのドアの前に立つとすーっと静かに開いた。


 その先、俺の目に飛び込んできたのは細いやつから太いやつまで色々なケーブルやら配線。そこに繋がれたモニターとキーボード、そして配線の行き先はドア枠みたいなやつに集約されていた。


 「これは?」


 「前に話したよね。僕が参加させられた実験場所、これはそこに繋がる転移装置だ、一ヶ月で作ったからケーブルとか散らばってる。足元注意してね?」


 ただもんじゃないとは思ってたけど、まぁとんでもないもん作ったな、ハリボテ感が無い。


 「なぁ、その実験場所って、結局何処にあんだ?」


 「ここでは無い空間、場所、環境、僕はこう呼ぶのはそこまで好きじゃないんだけど、異世界なんて呼ばれたりするね。異世界間転移装置、これがこの機械だよ」


 「異世界・・・」


 またバカ姉が喜びそうな事だな。


 「そ、本来ならまだ転移装置は存在してるんだけど、今その全ては永零の手中にある、僕らはそれを使ってここに飛ばされたんだ。


 そして彼らと戦うにはもっと簡単に安全かつ、大規模にこの世界との行き来を容易に出来る技術が必須だった。それで僕はここに来てこれを作り、今日ようやく完成した。まずこれが一手・・・そしてこのまま、次の一手を打つ」


 三上は更に奥にある部屋に向かった。


 「ここは?」


 「ROD日本支部、ここがその拠点なんだ・・・紹介するよ、この人たちが僕たちの仲間、先遣隊のメンバーだよ」


 部屋の中は上とはまた違う会議室のような部屋だ。そしてその中に複数の人影がいた。


 「まずは彼女から紹介しようか、キャロライン ガイアさん。ガイアグループって呼ばれる財閥の令嬢様」


 「おーほほほ!!!聞いておりますわ。あなた、あの褐色庶民の弟君ですわね?」


 「あ、どうも・・・確か、ガイアって父ちゃんから聞いた。何かと向こうじゃ世話になってるみたいで・・・」


 散々迷惑かけたらしい・・・


 「あら、あなた物分かりが良いですね。よござんす!!このわたくしが褒めて差し上げますわ!!」


 濃いなぁ・・・


 「さて、その隣にいるツートンのプリンみたいな金髪の人が馬喰 一兆さん」


 「あ、その名前・・・噂で聞いたことある。学校を乗っ取った不良の名前が確かそう」


 「あぁ、意外と物知りなのな。そうです、俺が噂の学校なんか乗っ取っちまえで有名な馬喰 一兆だ」


 思いの外気さくと言うか、少し抜けた印象・・・


 「それからこの背が高くてゴツい人が神崎 零さん」


 「あぁ」


 これ一瞬で分かった、雰囲気だけで分かる。ヤクザの人だ・・・で、さっきから気になるのがその隣、このヤバい奴の巣窟に似ても似つかない奴が1人いる。


 腹でパツパツの制服に、くるくるアフロレベルの天然パーマとこれみよがしに見せつけてくるメガネ。何だこいつ?


 「で、彼が・・・」

 「拙者!!この世に存在する全ての二次元と三次元の食事を愛し!!異世界アダムスより帰還せし勇者!!麗沢 弾なりぃぃぃっっ!!キリ・・・以外、お見知りおきを」


 眼鏡のデブこと、麗沢 弾はキリッとメガネをくいっとさせて決めポーズを取った。


 「あ、うん、そう」


 また別のベクトルで濃い奴だな・・・


 「まぁ麗沢君は置いておいて・・・後は君も知る零羅さんと飯綱、そして」


 「黒乃 純連、改めてよろしくね?」

 「うわっ!?先生!?いつのまにか後ろに!?」


 気がついたら俺の後ろに先生が立っていた。


 「先生、何でいつも背後から現れるんです?まぁ、今ここにいるメンバーと後もう一人の合計八人が、僕たち先遣隊って呼ばれるメンバーなんだ。あ、それともう一人・・・」


 「チョー!!三上君!!おトイレの場所何処ネー!?」


 こいつは、バカ姉の友達の・・・って事はあの来客用の靴はこいつのか。


 「アイヤー?弟君ね!なにサー、やっぱりお姉ちゃん心配で来た感じネ?」


 ネー・チャンって変な名前の奴。ネーチャンはニヤニヤとほくそ笑んでいる。


 「チャンさんも昨日の事があってから、今日僕のとこに来たんだ」


 「まーネ、流石にそのまま何もしませーんは、出来ないヨ。ミッちゃんも自分に出来る事しなきゃって、今日も軽音ちゃんのとこお見舞いに行ってるのヨ?」


 へぇ、あのバカ姉が・・・あいつ、そう言う人と関わるのは嫌いだとか言ってたのにな。


 「と言うよりトイレ!!何処!?漏れちゃうネ!!」


 ネーチャンは相当ヤバいのか足が震えてきてる。


 「フォックス!!連れてってあげて!!」


 「あいさ!!」


 飯綱とネーチャンはトイレへと駆け込んだ。


 しばらくしたら戻ってきた。


 「ふぃ〜」 

 「ふぃー」


 飯綱は人間の姿に戻って満足げな顔だ、お前も行って来たんかい。


 「さてと、みんな席に着いてくれるかな?今日こうしてみんな呼んだ訳を話そうと思う。そして、これからの作戦を立てる」


 場の雰囲気が一気に変わった。俺も座席に座る、隣には零羅が座った。


 「まずは、僕たちに課せられた課題の一つ、異世界間転移装置が完成した。スミレ先生のお陰で向こうとの時間のズレもなくここまで来れたのは嬉しい誤算だね。


 ヒソヒソ

 (異世界って言うのは普段はここと時間の流れが違うんです。ここでの一年は、向こうで十年経ってしまうんですよ)


 隣で零羅がヒソヒソ話で三上の話の補足をしてくれた。


 「あぁ、ただクロノスがこっち側に付いたのは永零にとっても誤算かもしれねぇが、だからと言って奴を完全に出し抜くには浅すぎると思うぜ?あいつはとことん自分で背負い込むタイプだ。そう言うやつのイカサマってのはかなり用意周到だ。何百年もこのタイミングの為に芝居打ってた奴だぜ?この程度では、まだ出し抜けねぇと思うな」


 馬喰 一兆が三上に発言した。この男、見た目以上に頭脳タイプだ。


 「そう、この程度ではまだまだ、確かに向こうの技術をこっちに大量輸送出来るのはかなり強いけど、出し抜くのは不可能だろうね。そこで、今日の本題に入ろうと思う」


 「本題?」


 神崎 零が聞き返した。


 「そう、輝夜 ミツキさん。そして三日月君、この姉弟が見た夢。そこで僕はとある予測を立てた。その予測とは指宿 永零の真の目的・・・」


 三上が発言すると周囲が一気にどよめき立った。


 「三上殿?永零殿の目的はこの世界の全てを一度死と言う罰を与え、そして全員が不老不死となり生き返る事では?」


 麗沢 弾が疑問を呈した。


 「そう、それは間違いないけど、それは一つの手段だ。それだけでは彼の平和は実現しない・・・僕は独自に指宿 永零を調べた。そしてニヒルさんについてや、アウロの実験の数々・・・」


 ヒソヒソ

 (アウロってのはね、敵さんの組織の名前なのさね)


 飯綱も教えてくれた。


 「あ、そう言えばヨーロッパ支部の方とよく連絡取り合ってました!あれってこの事だったんですね」


 そして零羅が手をぽんと叩く。


 「そう、やっぱりこっちの世界は調べれば色々出て来たよ。今まで分からなかった事も一気にね。その中僕はアウロのある実験が気になったんだ。逆異世界転移・・・この実験の結果は知ってるよね?」


 「えぇ、以前フロンティアで聞きましたわ。向こうの世界の人がここの世界に来てしまうと身体のホルモンバランスが崩れ始め、身体の性別が崩壊し、やがて死に至ると」


 「そう、男性は女性に、女性は男性に変わろうとしてしまう。実験はこの結果を受けて凍結した・・・けど、ここにこそ意味があったんだ。そしてそれはグレイシアがここの世界で異常が現れない事にも通じてる。


 そもそもあの世界はこことは逆な部分が多い。けど、何より一番逆なのは、女性がやたらと強いんだ」


 「おぉ!!確かに言えてるでござるな!!アリア殿なんかも怒らせるとまぁ恐ろしいのなんの!!」


 麗沢がブルブル震えてる。やべー女なのか?


 「最初僕はそう言う文化なんだと思ってた。けど、違う。この世界で力の強さは腕力、つまり筋肉において他ならない。つまり、肉体が力の象徴なのがこの世界なんだ。けど、向こうの世界では肉体的な力が絶対じゃない。魔法、つまり精神力を力とする事が出来るんだ。そして魔法の扱いに関しては女性の方が圧倒的に扱いが上手いと言う結果がある。


 永零はそこに目を付けた。そしてそれを自身に適用した。つまり永零は、何らかの方法であの時、自身の肉体を完全なる女性に変えた・・・」


 「バカ姉喜びそう・・・」

 「ミッちゃん喜びそー」


 俺とネーチャンは同時にぼやいた、よく分かってんなこいつ。あいつ、性転換モノにハマってた。そしてあいつの部屋で見てしまった・・・女性が男性に性転換した、いわゆるBL本を・・・


 俺はふと思い出して顔が青ざめた。


 「あ、彼女やっぱりそう言う趣味あったんだね・・・まぁ、聞くだけならギャグみたいな話だけど、そうもいかない。女性化はおそらく、セカンダビリティにも影響を与えた筈なんだ。僕が思うに今の永零は、手がつけられないくらいの強さになってると思う」


 「ならどうすんだ?俺たち覚醒者はあんたと違ってこっち側にいる今はろくな戦力にならねぇ、セカンダビリティは使えるが、魔法はほとんど使えねぇんだ。まともに戦えるのはあんたと零羅の神破聖拳ぐらいだぜ?」


 一兆は手元になんか変なカードを取り出してすぐしまった。


 「そこに関しては手は打ったよ・・・多分そろそろかな?」 




 『ジリリリリリリン!!!ジリリリリリリリリリン!!』


 


 突然電話が鳴った。


 「まずはこれが、あの戦争の時僕が立てた永零を欺くための第一の手段。あの時の死者は58万8622人・・・この数字はあの戦いで死んだ全ての人だ。アダムスも、アウロも関係なく。()()()()()()()()が生き返った。ごめんね、僕はこうやってすぐみんなにも嘘ついちゃってさ。けど、そのお陰で彼女は秘密裏に行動できた」


 「彼女?」


 神崎が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。


 「そう、それでようやく準備出来たみたいだ。ゼロ、嘘は吐くもんじゃないって言うけどさ、予め明かすつもりなら僕は、平気で嘘を吐く。そうでもしないと、永零は欺けないだろうからね」


 「お久しぶりですね。みなさま」


 ドアが開いて誰かがやって来た。零羅と同じくらいの女の子だ、長い銀髪を後ろでふたつ結びにしてこの時期なのにマフラーを巻いてる。


 その子がここに来た瞬間、全員驚いた顔で固まっていた。


 「そう、リリア アンダーソンすら、永零は生き返らせてしまったんだ・・・」

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