転生悪役令嬢はチヤホヤされたいっ!
息抜きに短編を久しぶりに。
ゆるい感じで読んでください……。
高熱を出して目を覚ましたら、幼い少女の意識を前世の大人の女の意識が塗り潰しているとか、本当に洒落にならないと思う。というか、自我が薄い女の子だったのか、それともよほどこの世に希望みたいなものがなかったのか。むしろ譲り渡されるように私はこの少女の身体を手に入れた。
私、というかこの身体の名前はアリアーナ・ミスティ・クレッセント。侯爵家の次女である。
アリアーナの家族構成は父親、歳の離れた兄姉。アリアーナを産む時に母親は亡くなっており、それを原因としてアリアーナは家族に疎まれている。それでもまぁ、令嬢としてそれなりに生かされているのは同い年に王子がいるからだろうか。高貴な生まれであるから選ばれる可能性も高いし。
そんなわけで、アリアーナになった私は侯爵令嬢としての生を始めたんだけど、めちゃくちゃキツい。前世でも容姿に恵まれなかったこともあってそれなりにアレな扱いだったけれど、今世ではこれだけの美少女なのに腫れ物扱いだ。教育はきついのに優しい言葉ひとつかけられない。それはそれとして平民になってたら衣食住しっかりと持ててた自信ないからそこはまぁ……。うん。でも、個人的には甘やかされたい。せっかく可愛く生まれたんだからチヤホヤされたい!しかし生まれがそれをはしたないとブレーキをかける。……婚約者ならアリじゃない?家族はもうこの感じじゃ仕方ない。そもそも私が生まれたせいでお母さん死んだわけじゃなくて、そもそもを言うと子供産むにはちょっと年齢的に危ない感じだったのに避妊してないのが悪いんじゃん。生産側から冷たい態度取られるのはなんか納得いかないんだが。
そんなことを考えながらも子供にできることなんて親の言うことを聞いていい子でいることだけだ。だからいざとなったら簡単に自分のこと切り捨てるだろうなとわかりきった家族ではあるけれど、毎日笑顔で健気で可愛い女の子として頑張って修行した。いや、だってこんなの教育というより修行じゃん。飢えたり殴られたりがない身分だからそういう自己プロデュースの元受け入れて生活できてるけど、生前だったらグレてたわ。ん?でも現代日本でも容姿が整ってたらそれはそれで怖いことも多いかな?人間って怖い。
「はじめまして、私はクローディス・カイザル・ブランだ」
14歳になった頃、私はいきなり父親にお城へと連れてこられた。娘に何の連絡もなく、侍女たちに外出の用意をされている時に「ああ、何かしらあるのね。孤児院の慰問とかかしら」とか思っていた。「行くぞ」が「王城に行くぞ」という意味だとわかる人っている?私にはその察しの良さなかったナー。
そこで花々の咲き誇る庭へと案内され、尚且つお茶会の用意がされているのを見てようやくマナーの復習くらいしたかったな、と思えた。家庭教師のおかげで振る舞いはそんなに悪くないと思うけど、自分が娘を外に出してないせいで私には知り合いがほとんどいない事を自覚して欲しい。
令息もいるが、令嬢の数が多いように見受けられるのは、このお茶会で王子様の婚約者が決まるなんていう噂があるせいだろう。まぁ、その噂すら令嬢たちのコソコソ話で把握したのだけれど。何も知らないまま放り込まれたので、私が王子様を射止めるとか期待されてないんだろうなぁ、と思いながら遠くの席に腰を下ろせば、何名かずつに分かれて席に座ってそこに王子が回ってくる仕様らしい。なぜか私のいるテーブルには誰も近付いて来ないな、と思いながらお花とお菓子を楽しんでいれば、クローディス第一王子が現れた。少し疲れているようにも見えるが、そこは私も貴族なので優雅に笑みを浮かべておいた。
「お初にお目にかかります。わたくしはクレッセント侯爵家が次女、アリアーナにございます」
習ったカーテシーを披露して、そう返すと、どこかホッとしたような空気になった。なんでやねん。みんなやってるでしょ。
そのあとはニコニコ微笑みながらゆっくりとたわいもないおしゃべりしてお別れした。あー、一仕事終えた!とか思ってたら数日後まさかの婚約者内定した。その時の父も淡々としていたのでもしかしたら出来レースだったのか?
出来レースを疑いながら第一王子の名前を思い出すと、引っかかるものがあった。少しの間考えて、考えて前世でやっていたゲームの攻略対象だということを思い出した。同時に私は自分が悪役令嬢であることも思い出して納得した。まぁ、こんな家庭で育って厳しいだろう王子妃教育も受けて浮気までされたら、そりゃあヒロイン殺したくもなりますわぁ。
まぁ、私はゲームのアリアーナよりも人生経験がある記憶を持っているので家族への期待とかはない。厳密に言うと性格も違うと思うし。それに妙な強制力がない限りは王子との関係性だってヒロインより有利に運べるはずだ。そう、私の望む甘やかしてちやほやしてくれる王子様になってもらうことも可能なのでは?
モテに関して前世の経験なんてまるで役に立たないので、私はひたすら自分磨きとお勉強に加えて二人きりの時にポロッと弱音をこぼして頼ってみたりとか、甘えてみたりだとかを試した。あとは好意に関しては徐々に伝えていく。本当に反応を確かめながらゆっくり仲を深めていった。他の攻略対象?知りませんねぇ、そのルートの悪役令嬢に任せます。私は自分の伴侶を理想にするのに忙しい。
今の家族には期待できないんだから将来の家族に少しくらい期待してもいいでしょ!?ねぇ!?
すると数年後、乙女ゲームの舞台となる学園に行く年齢ではすっかりアリアーナLOVEの激甘彼ぴが出来上がった。年月の勝利である。クローディス様のおかげで私の美少女っぷりも磨かれて年々最高を更新している。父は母親に似てきた娘に時折何か言いたげな顔をしているけれど、あんまり興味がない。
ヒロインは逆ハーでも狙ってるのか、クローディス様以外の男全員落としてる。クローディス様には近づけていないけど。やっぱり、関係性が変わるとヒロインへの態度も変わるんだなぁ、としみじみ思う。
「アリア、邪魔をしてくるあの子に何かされてはいない?」
「クローディス様に守られておりますもの、何もございませんわ」
軽く首を傾げて見上げると、優しく微笑まれる。
というか、ここまでくるのに私めちゃくちゃ努力したんだから、今更ヒロインってだけで攻略対象の男全員自分のものとばかりの人間に取られるのは嫌だわ。少しも靡いてないので良いんだけど。
ちなみにヒロインは私に関していろんなヤバい噂を流そうとして立太子したクローディス様の逆鱗に触れ、卒業することなく退学させられた。ついでに「自分の婚約者以外の女性に尻尾を振る側近は必要ないね」と攻略対象もほとんどお早めに排除された。どこの家にもスペアはいるものだ。仕方ないね。