3話 玄米
「失礼致しますワン!」
本日2人目の応募者は人ではなかった。見た目は完全なイヌ。しかしなぜか日本語を話せるようだ。
「お名前と出身大学を教えてください」
「はい、山村 逸雄と申します。〇〇大学出身ですワン!」
「え、名門じゃないですか! すごーい」
面接官からすでに良い反応を引き出している応募者。このペースで合格を勝ち取ることが出来るか!?
「どうぞお掛けください」
「⋯⋯⋯⋯」
山村は聞こえていないかの如く反応を示さない。なにか不都合でもあるのだろうか。
「あの⋯⋯イスにどうぞ」
「⋯⋯⋯⋯」
機嫌でも損ねたのだろうか。
「あっ、分かった。おすわり!」
「ワン!」
山村は笑顔で返事をし、イスに座った。
「いきなりですが質問です。はいかいいえで答えてください。〇〇大学出身って嘘ですよね? 卒業生にイヌがいる大学なんてあるはずがありませんし」
「はい、嘘ですワン」
あっさり嘘と認めてしまった山村。やはり嘘をつかないのはインド人だけなのだろうか。
「嘘をつくのは良いことです。我々のように仮面を被る日々を過ごしていると、嘘をつかなければならない場面は多々ありますからね。しかし、嘘が下手なのはマイナスポイントですね」
「ちっ、うっせぇな」
「何か言いましたか?」
「いや、この部屋寒いなぁと思いまして⋯⋯ワン」
ぶるぶる震えるアクションをする山村。それに対し、面s-3リーダーの國丸 タンコロが口を開いた。
「自分を食べ物に例えると何だと思いますか?」
「玄米ですワン」
なかなか渋めの回答をする山村。冷房を切ってあげる気のない國丸。
「なぜですか?」
「歯ごたえがあることで満腹感を感じられて、栄養もあり、しかも血糖値が上がりにくいからですワン」
「なるほど⋯⋯」
タンコロは不満そうな顔をしている。
「そろそろ終わりにしましょうか。ありがとうございました」
「ワン⋯⋯」
あまりの手応えのなさに不安の表情を見せた山村。寂しげな背中を見せながらトボトボと帰って行った。
「確かみんな猫派だったよな」
「はい」
「ええ」
「じゃあ不合格だな」
3人はこの後猫カフェに160時間居座ったという。