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2話 じさん

 今日もまた面s-3(メンズ・スリー)の1日が始まる。今日は2名の応募者がおり、30分ずつ面接をするそうだ。


 コンコンコン


「どうぞ」


「シャス」


 リュックを背負った中年の男性。まあ、言ってしまえばおじさんだ。リュックの中には一体何が入っているのだろうか。


「お名前を教えてください」


被野(ひの) (ごう)と申します。よろしくシャス」


 これを聞いた面接官の1人が笑った。


「『被る』が苗字に入ってるなんて、うちにピッタリじゃないですか!」


「Zzzzz」


 被野は眠っていた。椅子に座るとどうしても眠くなる人間は一定数存在するので、面s-3が怒ることはない。


「被野さん、顔洗ってきますか?」


「ああ、寝てしまっていましたか! いえ、持ってきておりますので、ここで洗わせていただきます」


 そう言うと被野はリュックから洗面所を取り出し、蛇口をひねり手に水を溜めた。じゃぶじゃぶと顔を洗い、洗面所に掛けてあったタオルで顔を拭いている。


「中々やりますね」


「ありがとうございま⋯⋯げほっ。すみません、緊張で喉がカラカラになってしまっていて」


「何かお持ちでしたら、今飲んでいただいても構いませんよ」


「では、失礼して。飲ませていただきますね」


 被野はリュックから持参した食器棚を取り出し、並べてあったマグカップを手に取った。さらに、リュックからキッチン台を取り出し、水道水を鍋に汲んだ。


 チチチチチチチボッ


 コンロに火をつけ、湯を沸かす。その間にシナモンティーのティーバッグを用意し、マグカップに入れておく。そして、沸いた湯を注ぎ1分待つ。


「待ってる間お話でもしましょうか」


 被野が面接官たちに言った。


「それでは、いくつか質問をさせていただきましょうか。はじめに聞きますが、お面は好きですか?」


「ちゅき!」


 ペンを走らせる面s-3リーダーの國丸(くにまる) タンコロ。この株式会社仮面商事の面接において、お面()きというのは好印象なのだ。


「ズズ⋯⋯ふぅー、美味(うま)い!」


 会社中に響き渡る声に、社内の者は皆ヨダレを垂らしていたという。ヨダレが出るタイプの美味さとは違うのだが。


「ズズ⋯⋯うむ。砂糖はスプーン16杯入れるに限る」


「奇遇ですね、私も16杯なんですよ!」


 どうやら被野と串刺(くしざし)は気が合うようだ。面s-3のナンバー2ともなるととにかく頭を使うので、砂糖もたくさん必要になるのだ。


「ふんっ!」


 被野はそう言って頭に力を込めた。すると、2cmほどの髪が無数に面接会場内に飛び散った。そのせいで観葉植物の葉がボロボロになっている。


「私たちが普通の人間だったらどうするんですか!」


 面s-3の3番手、ロンドが言った。面s-3の3人は黒魔術によって生み出された存在であり、仮面をつけることで防御力を上げているのだが、これが普通の人間だったらサボテンのような見た目になって死んでいただろう。


「すみません、シナモンティーを飲んだ時はいつもこうなので」


「ならよい」


 ロンドが笑顔で頷いた。いつもこうなら仕方がないのだ。


「あっ、UFO!」


 被野が指さして言った。


「嘘はいけませんね。この会社には窓がありません。UFOが見えるはずありませんよね?」


「あっ、ネズミ!」


『ぎぃやぁああああああああ! ネズミ〜!』


 面s-3の3人は129.3cm飛び上がり、大慌てで部屋から出ていった。逃げる速度は全員時速129.3kmだったそうだ。


「さて⋯⋯」


 被野は持ってきた(まき)に火をつけた。


「私からも質問させていただきます。あなたにとって人生とは何ですか?」


 誰もいない面接官の机に向かって質問する被野。彼はおそらくキャンプ気分なのだろう。


「それを死神である(われ)に聞くか⋯⋯面白い奴だ。人生とは人の生き様だろう。しかし我は生きていたことも、死んでいたこともない。どちらでもない存在だ」


 机の下に隠れていた死神団の団長が言った。彼はこの会社の暗殺部隊の隊長であり、面s-3直属の部下である。


「タンコロさーん! ネズミなんていませんから、早く戻ってきてくださーい!」


 団長が廊下に向かって叫んだ。


「なんだよ。いねぇのかよ」


 タンコロが不機嫌そうに歩いてきた。


「庭の草めっちゃ伸びてたから草刈り頼むわ。ほら、お前(かま)持ってるだろ?」


 串刺が団長に言った。誰もむしらないので毎年伸び放題なのだ。結局いつも団長が退勤後に1人で草を刈っている。


「へーへ、分かりましたよ」


 団長を部屋から送り出した3人は、それぞれ自分の席に戻った。


「Zzzzz」


 被野は持参した寝袋で寝ている。彼は間違いなくキャンプ気分なのだろう。


 コンコンコン


 次の応募者が来たようだ。


「すみません、少々お待ちください!」


 ロンドがドアの向こうの応募者に言った。


「とりあえずこいつは合格だな。お面好きって言ってたし。ロンド、洗面所とキッチンと食器棚と焚き火と寝袋に入った被野さんを部屋の隅っこによけておいてくれ」


 そう言ってタンコロはロンドの肩を叩いた。


「アイアイサー!」


 被野の持参したものを壁際によせ、寝袋に入った彼を足で蹴り転がすロンド。作業が済んだので、ロンドは部屋の外で待っている応募者に声をかけた。


「お待たせしました、どうぞ!」

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