1話 緊張
コンコンコン
ピッタリ13時にそれは始まった。
「どうぞ」
「失礼いたします!」
そう、面接だ。スーツを着た爽やかな青年はドアの方を向き、ガチャドォン! と丁寧にドアを閉めた。面接官たちの目に映るその後ろ姿は、スラックスのお尻の部分だけが切り取られており、そこには綺麗なプリケツが輝いていた。そのプリケツには、ニコちゃんマークの顔が描かれていた。
「ふむ⋯⋯」
面接官の1人がペンを走らせた。
「本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。よろしくお願いいたします!」
「はい、よろしくお願いします。どうぞお掛けください」
「失礼いたします!」
面接官の指示でパイプ椅子に座る青年。椅子に浅く座り、背もたれを存分に使い、天を仰いでいる。
「御社のクリエイティブな姿勢に惹かれ⋯⋯はっ! 失礼しました!」
練習してきたであろう受け答えを、聞かれてもいないのに口走ってしまう青年。よほど緊張しているのだろう。
「大丈夫ですよ、リラックスしてください。今からいくつか質問させていただきますね」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
面接におけるリラックスとは何か。それは心のリラックスである。心がガチガチに緊張すると、その緊張が身体に現れ、全てがガチガチになってしまうのだ。この青年は身体のリラックスを優先してしまったため、まだ緊張がほぐれていなかったのだろう。
「いきなりですが大事な質問です。先程あなたが後ろを向いた時に綺麗なプリケツが見えました。あなた、ノーパンなのですか」
「いえ、ブリーフを着用させていただいております。そのブリーフもスラックスと同じように切り抜かせていただいております」
先程とはうってかわり、堂々とした態度で答える青年。面接官の言葉で緊張がほぐれたのだろう。
「では、出身大学とお名前を教えてください」
「大学は出ておりません! 名前はございません!」
面接官たちが書類に何やら書き込んでいる。
「お疲れ様でした。これで面接は終わりです。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
青年は立ち上がり、尻に椅子を貼っつけたまま退室していった。
「どうです? あの子」
面接官の1人、ロンドが2人に聞いた。彼はこの3人の面接官の中で1番新しい男で、いつも最初に他の者の意見を聞くのだ。
「そうだな、面接が終わったところまでは良かったんだがなぁ」
3人の面接官『面s-3』のリーダーである國丸 タンコロがそう言った。
「そうですね、まさか椅子を尻に貼っつけて持って帰ってしまうとは⋯⋯」
タンコロの右腕である串刺が同調した。
「ああ、尻がベトベトのやつなんか雇えねぇよな。不合格でいいか?」
タンコロが2人に確認する。
「ええ」
「私もそれでいいと思います」
かくして青年は不合格となったのであった。今日の面接予定は彼だけだったので、面s-3の3人はこれで退社出来るのだ。
「よし、飲みにでも行くか!」
タンコロを先頭に3人は歩き出した。この日は自社ビル内の喫茶店で朝までお湯を飲んで過ごしたという。