第5話 とびきりの報酬
ケルベロス襲来からはや3日経った。万全とはほど遠いものの、体の扱いにも多少慣れ始めなんとか片手で剣も振れるようになった。ただし、今も剣を素振りしてるのにはいつもの日課以外に理由がある。
あの日、彼女の騎士となった日のことだ。彼女はこの国のことを、このセカイのことを知りたがった。寝ているだけしかできない間もトアと話せば気が紛れることもあって、彼女に色々な話をした。そして、私の話をある程度聞いたあと彼女はこう言ったのだ。
「ユリシス、私はこの世界を手に入れようと思うのだけれど」
驚いて何も言うことができなかった。そうではない。驚いた訳ではない。確かに突拍子もないのは事実だが、この少女ならそれくらいやってのけて当然だ。それくらいの凄みがある少女だった。だから本当は違う。驚いたから何も言えなかった訳じゃない。
「私の全力をもってあなたを王にします」
「良い返事ね。それと、私のことはこれからサクラと呼んで頂戴。こっちのが名前も覚えられやすいし、なにより、この国を統べるものに相応しいでしょう?」
「はい、サクラ様」
「……ふふ」
仕えるべき主を求めていた。憧れていた騎士になった。誰よりも鍛錬した。騎士団に入れた。だが、私の求めた主はいなかった。騎士団で出会った姫、私の仕える主はルミナスと言った。ルミナス・チェリー・ブロッサム。それが姫の名前だった。
「あなたたちは民のためにあるのです。王がいて民がいるのではなく、民のがいて王がいるのです。古来から伝わる言葉にワンフォーオールといいうものがあります。1人はみなさまのために、王は民のため、みなさまはそれぞれがみなさまのため、その想いが、愛すべきこの国を守り、発展させていく原動力があるのです!」
そこで回想を打ち切った。あの姫ではなかった。私が求めるのは帝王のような独裁的で狂気的なリーダーシップを持つもの。サクラと名を変えた上辺では完璧な笑みをその裏では猛獣をも越える獰猛な獣を宿す姫。彼女だ、彼女しかいない。彼女こそ私が仕えるべき主だ。
「それでは私は騎士の誓いを果たしにいくとします。常に守ることの出来ない非礼にお詫びを。その代わり、私にできる最善の一手を打ちましょう」
「なるほどね、わかりました。私には種を蒔いておくことにします。どれだけの種が花をつけるかしら……」
彼女はそう言うとにっこりと笑った。ここから始まるのだ。世界征服が。