第4話 グラジュエイト
「まずは救っていただいたことに感謝を。ありがとうございます、レディ。それでは、名前をお聞きしても?」
「私の名前? そうね……十彩は発音しづらいでしょうし、トールとかでもいいわよ」
「レディ、トア。私にはこの発音の方が好ましい。許していただけますか?」
「ええ、構わないわ。それより……」
少女、トアは、話を遮り、私の方へと水を向ける。
「貴方が私を呼び出したのでしょう?」
いきなり核心を突いてくるトア。ここで嘘や隠し事をするのは騎士として恥ずべき行為だと考えると率直に答える。
「ええ、代償魔術を用いて、この通り、左手を捧げたらトアが現れたという訳です」
先程までは死の気配が濃すぎて、左手を失くした痛みをほとんど感じることはなかったが、こうして命を繋ぐことができ、左手を動かしたことで痛感が機能し出してしまったようだ。出血量的にも倒れてもおかしくはない量だ。だが、この場で気絶することはないとはっきり分かる。なぜなら、この王のような雰囲気を持つ少女がいるからだ。倒れることなど許さない、許されない。それがひしひしと伝わってくる。
「時間もないし手短にしましょう。あなたは私に命を救われた。というこたはあなたの命は私のモノ。だから、あなたは私の騎士になりなさい」
「イエス、ユアマジェステイ」
「さて、少し寝てなさい。あなたの主になった記念で私の騎士に褒美をあげるわ」
そう言われた次の瞬間には手刀で首を強く打たれ、気絶させられてしまい、私はそこで意識を手放した。
目が覚めると天井の木目が視界に入った。ここはどこだろうか、分からない。全て夢だったのではないか、そんな安易な考えが頭を過ぎった。しかし、そんな訳もなく、痛みに目を向ければ左手を失ったままだった。
「……私の主、か」
「呼んだかしら?」
まだ非現実感が抜けきっていなかったのか、夢見心地のような感覚で声を漏らせば、その声に我が主様からの返答があった。
「おはよう、私の騎士。止血して縫合してもらったから良くはなっていると思うのだけれどどうかしら?」
「そうですね、痛みはまだありますが不思議とこれくらいならすぐに動けそうな気がします、マイレディ」
「そう、それは重畳ね」
左手を失ったことにより剣のことや日常生活のことも含めて、考えるべきこと、やるべきことは山積みだが、そう悪くもない。なぜかそんな気分だった。