第3話 スーサイド・ドッグ
「あなたはどなた?」
その問いに普段の自分ならなんなく答えたであろう質問に何の返答も返すことができなかった。その美しさに目を奪われた。キラキラしてみえた、夜空に輝く一番星なんて比較にもならないほど、国中を探して1番の女性を連れてこいと言われたら彼女以外には考えられない。そうとさえ思わせるかわいさだった。かわいいと美しいが両立することはないと思っていた。しかし、実際あったのだ、それ程に魅力的な姿だった。
「あなたは騎士じゃないの?」
声もすごかった。すごいという表現が陳腐なことくらい私だってわかっている。でもそう表現するしかなかったのだ。鈴の音がなるようななどといったそんな生易しいものではない。圧倒的カリスマ性のある声だ。低く威厳がある訳でもないのに、彼女に命令されたら逆らうことなど不可能とすら思えてしまう程、格が違った。
「イエス、ユアマジェステイ」
反射的に片膝を付き、騎士の礼を取っていた。彼女は主でも何でもない、先程会ったばかりの赤の他人だというのに、だ。
「弁えてる方は好きよ、私」
その言葉に喜びを覚える一方でそんなことに喜びを覚えている自分に気持ち悪さも感じた。恋は電撃、出会いは突然なんてばかなことと笑っていたが、今日をもって笑うなんてできなくなってしまった。
「ところで、あのあまり可愛らしくはないペットは何かしら? あなたはああいったものが好みなのかしら?」
少女は困ったような表情でケルベロスをそう評する。ケルベロスといえば危険度も高く、一般人が遭遇すらば死を覚悟するしかないような化物だ。それをあろうことか挑発している。
「いいえ」
「まぁ、いいわ。片付けてしまってもんだいなさそうね」
そう言うと少女はゆったりとケルベロスに歩み寄っていき、それに反応してケルベロスが少女へとその鋭い牙で噛みつこうと頭を下げた瞬間、少女は3度その細剣を突き刺さした。それぞれの頭に1回ずつ。その3度の刺突をもろにくらったケルベロスはそのまま地に倒れ伏して二度と起き上がることはなかった。少女の刺突は正確に脳幹のあたりを貫いていた。恐るべき剣の冴えだ。自分が騎士でなければ何が起きたかもわからなかっただろう。
「すごい……」
「ふふ」
少女は可憐な笑みで私の賞賛に応えた。言葉ではなく、仕草の一つ一つが堂に入っていて、王族と比べても遜色のないくらい、不思議な威厳があった。