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河原にて

 ジェイクは河原を歩いていた。この国を流れる唯一の川はすべての者をすがすがしい気分にさせたが、今のジェイクはそんな気分とは程遠かった。ここはかつて恋仲だったジェイクとアメリアがよく2人で歩いた場所だった。なぜか今日に限ってジェイクはここに足を向けていた。ここに来ても昔に戻れるわけはないのに。


(一体、いつまでこうしているのか・・・)


逃げるのに疲れたジェイクは河原に腰を下ろした。そして右手に石をつかむと、川に向かって投げた。その石は川面にはねることもなくそのまま沈んでいった。彼を襲う閉塞感は日に日に強くなり、やるせない思いは強くなっていた。


「また会いましたな。」


ジェイクは後ろから声をかけられた。あわてて振り返るといつぞやの老人が立っていた。彼は微笑を浮かべてジェイクを見ていた。


「あなたでしたか? この前は失礼しました。急にあなたの寝ていた小屋に隠れたりして。」


ジェイクは声をかけたのが追っ手ではなく、あの老人であったのでほっとしていた。


「いや、いいのじゃ。それより次の日にあなたを訪ねてきましたぞ。王女様が。」

その言葉にジェイクは慌てて立ち上がった。またここから逃げようと・・・。だが装人はそれを手で止めた。


「いやいや。あなたの居場所を訴える気はない。安心なさい。」


ジェイクはまたそれを聞いてまた腰を下ろした。その横に老人が座った。


「それより王女様があなたを仇と狙うとは不思議ですな。儂にはあなたがそんな人間には見えぬ。なにか仔細があるのでしょう。よかったら話して下さらんか。話せば気が楽になるかもしれませんぞ。」

「わかりました。すべてをお話しします。」


ジェイクはいつのまにか老人に気を許していた。彼は今までのいきさつを話し始めた。


       ―――――――――――――――――――


 勤めを終え、帰りが夜になったジェイクは廊下を歩いていた。そこで怪しい人影を見た。それは王宮の奥の方に向かっていた。そこにはマルーテ女王とコースラン公爵のいる部屋の方だった。


(怪しい!侵入者か!)


ジェイクはその後を追っていった。その人影は部屋に入っていった。


(王女様が危ない!)


とっさに思ったジェイクは部屋に入った。そこにはその人影があった。


「止まれ!何者だ!」


ジェイクが叫ぶと、その人影は斬りかかってきた。とっさに剣を抜いて受け止めたが、その時、背後から頭に打撃を受けて倒れた。別の誰かに後ろからやられたようだった。

 薄れいく意識の中で、その人影は自分の剣をしまってジェイクの剣を手に取った。そして奥の部屋に入っていった。


「うわー!」

「ぎゃあ!」


マルーテ女王とコースラン公爵の大きな悲鳴が響き渡った。ジェイクは目を覚まし、ふらふらになりながらも何とか立ち上がった。そして奥の部屋に行くと、そこは灯りが消されていた。その中でコースラン公爵は血みどろになって倒れていた。マルーテ女王は頭に剣を受けて血を流して倒れ、人影は串刺しにしようと剣を振り上げていた。


「やめろ!」


ジェイクはその人影に向かっていった。もみ合いながらジェイクは血まみれになった剣を奪い取った。するとその人影は部屋の外に逃げて行った。


「待て!」


ジェイクは剣をもって追いかけて行った。すると廊下に出たところでダービス公の家来のケルベスと出会った。


「女王様と公爵が何者かに襲撃された。見なかったか?」


だがケルベスは血まみれの剣を握っているジェイクを見て叫んだ。

「その剣はなんだ!」

「侵入者が・・・」


とジェイクは言いかけたが、ケルベスは奥のドアが開いたままの部屋に2人が倒れているのを見た。


「貴様!よくも女王様と公爵を!」


ケルベスは剣を抜いて斬りかかってきた。


「いや、違う!」


ジェイクはそれを避けて後ろに下がった。その大きな騒ぎに侍女たちが廊下に出て来た。ケルベスは彼女らに言った。


「ジェイクが女王様と公爵を手にかけた! 奴は血の付いた剣を持っている! 気をつけろ!」

「きゃあ!」


侍女たちは悲鳴を上げた。そして彼女らも奥の部屋でマルーテ女王とコースラン公爵が血みどろで倒れているのを見た。


「女王様!」

「公爵様!」


侍女たちはそのそばに駆け寄って泣き叫んでいた。


「反逆者め! ここで斬り捨ててやる!」


ケルベスは剣で向かって来た。ジェイクは何とか剣で受け止めていたが、ケルベスの剣の勢いに自分の剣は弾き飛ばされた。


「やめろ!私じゃない!」


ジェイクはそう叫ぶが、ケルベスは殺気を放って剣を振り下ろしてきた。ジェイクは間一髪、避けながら逃げ回った。そのうちに兵たちが駆け付けてきた。それを見てケルベスが叫んだ。


「反逆者だ。女王様と公爵様がやられた。斬り殺しても構わぬ!」


兵たちは剣を抜いて丸腰のジェイクに斬りかかってきた。身の危険を感じたジェイクはそのまま王城から逃れていった。


         ――――――――――――――――――――


「その日から私は追われる身になった。愛し合っていたアメリアの仇として・・・」


ジェイクは目を伏せた。


「なるほど。そういうわけか。」


老人はうなずいた。ジェイクは話しを続けた。



「コースラン公爵は亡くなられたが、女王様はなんとか一命をとりとめた。だが意識がはっきりしない状態だと聞いている。本来ならば王女であるアメリアが政を引き継ぐのだが、彼女はそれを顧みず、私を討ち果たすことを大事としている。だから政は乱れ、国内の不満が高まっている。だがアメリアは何もしようとしていない。」


ジェイクは、また石を拾って川に投げた。それもずぶずぶと川の中に沈んでいった。


「犯人を突き止めたいと思っている。だがこのような状態ではそれも叶わぬ。いっそのことアメリアに討たれて、彼女にこの国の政に取り組んでもらった方がよいとも考えるようになった。」


ジェイクは明らかに疲れ果てているようだった。心も体も・・・もう投げやりな気分になっていた。だが老人はジェイクの目を見て老人はきっぱりと言った。


「あきらめてはいけませんぞ。悪事を天は許さぬはずじゃ。きっと真実が白日の下にさらされる日が来る。王女様があなたを信じる日が必ず来る。」


その老人の言葉はジェイクの暗い心に光を差した。彼の表情はいくらか明るくなった。


「ああ、そうだな。ありがとう。何か気分が明るくなった。」


すると老人は急に何かを感じたようで辺りを見渡した。そしてジェイクに言った。


「うむ・・・。あなたはすぐにここから姿を消しなさい。誰にも見つからぬようにな。そして明日もここに来るのじゃ。それがあなたの運命を変える。」

「わかった。ではまた。」


ジェイクはなんのことやらよくわからなかったが、すぐに河原から出て行った。


 そこに入れ替わるようにアメリアが護衛の兵を連れて現れた。ジェイクは何とか彼女に出くわさずに逃れたようだった。

 老人は笑顔でアメリアたちを見ていた。それが何か気になったアメリアは一人で老人のそばに寄って尋ねた。

 

「ここに若い男がいなかったか?」

「いや、見なかったな。」


老人は首を横に振った。アメリアはその老人に見覚えがあった。確か、小屋にいた老人のようだった。あの時、取り乱してしまったことを思い出した。


「先日は失礼した。気が立っていたので。」

「いやいや、気にしておらぬ。それより何か気が立つことがあったのかな?」


老人は微笑を浮かべ、優しく問うた。


「いや、別に・・・」


アメリアは言葉を濁した。本のことを言えばまた感情が乱れると思ったからだった。老人は「うんうん。」と何度もうなずいた。それはまるでアメリアの心を見透かしているかのようだった。


「そうか。では儂は占いが得意じゃ。気になることがあるなら占って進ぜよう。」老人は懐から水晶玉を取り出した。アメリアはそれに興味をそそられていた。


「では頼む。探して欲しい者がいる」。

「ほう。どなたかな?」

「私の仇だ。どこにいるか占ってほしい。父を殺し母に危害を加えたジェイクという者だ。」

「よかろう。」


老人は水晶玉をしばらく見つめた。


「その男のことが見えてきた。」

「一体どこにいる?」


アメリアは身を乗り出した。老人は水晶を見ながらアメリアに告げた。


「ふむ。その男はあなたのことを思っている。誰よりも大事にな。しかしあなたに仇と思われ苦悩しておる。」

「何を言い出すのだ! ジェイクの居場所を占ってくれと言っているのに!」


思わぬ老人の言葉にアメリアが大声を上げた。だが老人は言葉を止めようとしなかった。


「ジェイクはあなたの仇ではない。本当の仇は今のあなたを見てほくそ笑んでいるだろう。もう一度言おう。ジェイクは今もあなたのことを愛している。」


その言葉にアメリアの心は乱れた。ジェイクが仇のはずだと・・・彼女は立ち上がって、さらに大声を上げた。


「愚弄しているのか! もうよい!」


アメリアの威嚇にも老人は微笑んでいた。


「落ち着きなされ。アメリア王女。それならば、もう一つ本当のことを言おう。」


老人は水晶玉から目を放し、顔を上げてじっとアメリアを見た。アメリアは何か追い詰められている気になっていた。だがここで逃げることはできなかった。彼女はまた大声を上げた。


「何だ!」

「あなたもジェイクを愛している。その愛ゆえに板挟みで苦しんでいる。」


老人は平然として言った。その言葉はアメリアの心に突き刺さった。今まで支えてきた壁に何か穴が開いた気分だった。彼女は必死に耐えて、そして大声で叫んだ。


「違う! 違う! そんなことはない!」


アメリアは顔を押さえて走って行ってしまった。


「ふむ・・・」


老人はため息をついてその後ろ姿を見送っていた。


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