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抽象玉座物語  作者: 木島別弥
第二篇
8/12

第八部 幾何学都市

  幾何学都市


 抽象作家は、幾何学都市にやってきた。計画都市として建造されたが、計画にいくつか失敗があったという。失敗した都市である。数学者と建築家がよく訪れるという。こんなところに玉座があるのだろうか。

 抽象作家の玉座探索はつづく。また、隠された玉座が見つかるかもしれない。抽象作家は期待に胸が躍った。

 幾何学都市というくらいだから、数学的に面白い設計がされた建物が多い。こういう都市も嫌いじゃないな、と抽象作家は思った。



  無限階段


 階段があった。無限に上下に続いているという階段だ。迷い込んだらどうなるんだ。抽象作家はビビった。

 抽象作家は、無限階段を登っていき、頂上までたどりついた。無限じゃないじゃないか、と抽象作家はつぶやいた。

「正しい階段を選ぶと無限にたどりつくんですよ」

 おばさんにいわれた。



  倒れてしまった斜塔


 次は、倒れてしまった斜塔だ。六階建ての塔が倒れている。倒れたら、斜めじゃないから、斜塔じゃないんじゃないか。と、抽象作家は指摘したかった。この倒れてしまった斜塔は、斜塔なのか、ではないのか。

「最初から斜めに建つように建造されたのだけど、完成したら倒れてしまった」

 おばさんがいっていた。

「斜塔の耐震性はどのくらいだったんですか」

 抽象作家が聞くと、

「幾何学都市で最高の耐震性でしたよ」

 とおばさんが答えるので、それはたぶん嘘だろうと思った。



  不完全な建築物


 幾何学都市の建物の半分は規則正しく、半分はわざと崩してある。抽象作家は、なかでもいちばん奇妙だと思う不完全な建築物の前に来た。

 ここに何かある気がする。気になる。

「ここはどういう建物ですか」

 と抽象作家がたずねると、

「片目をイメージした建物ですよ」

 と教えてくれた。

「へえ、これがねえ」

 抽象作家は、不完全な建築物に入ることにした。



  片目屋敷


 不完全な建築物の名前は、片目屋敷だった。この建物の中は、いろいろなものが片目だ。非対称が織りなす不思議な建築。



  数学が趣味の女


 片目屋敷には、数学が趣味の女がいた。机に、計算機と紙とシャーペンとボールペンを置いている。考えては書き、書いては考えている。

「何をしているんですか」

「数学です」

「どんな数学ですか」

「異端数学」

 すごそうな女だ。

「なぜ数学を」

「ただ数学が好きで」

 これ以上は、抽象作家に理解できないので語ることはできない。

 未解決問題と、暫定意見、模範解答、さらには、解答の演出まで考えているらしい。



  組み立てる前の玉座


 玉座は唐突に見つかった。組み立てる前の玉座だ。玉座の部品がバラバラに置いてある。この玉座を見て何をしろというのか。不思議な玉座だ。



  椅子の組立職人


 玉座の前に立っているのは、椅子の組立職人だ。組み立てる前の玉座を見て、何か考えている。たぶん、彼がこの玉座の王なのだろう。たぶん、ものすごい斜め思考をしているんだろう。



  無言の報告の解読


 抽象作家は、組み立てる前の玉座に送られてきた無言の報告の解読を始めた。

 何もいわないのに、伝わるものがある。報告はただ、無言だ。何も告げない報告。要注意だ。興味深い。この組み立てる前の玉座に、いったい何を報告したのだろう。この無言の報告に、おそらく、組み立てる前の玉座の目的があるのだ。

 抽象作家は、黙々と解読を試みた。



  数学の究極的解明が目的の国


「無言の報告は解読できたか」

 椅子の組立職人が抽象作家に聞いた。

「ええ。組み立てられる前の玉座は、数学の究極的解明を目指すことです」

「わかった。」

 抽象作家の解読に、椅子の組立職人が答えた。


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