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転生ガチャSSR引いた

 制服への思い入れは人それぞれ。

 その場その場のシチュエーションで変わったりもする。


「セシリオ兄さま、すごく格好良いです!」


 キラキラとした瞳で俺のことを見つめてくるのは8歳になる妹のミーアだ。

 柔らかにうねる長い黒髪に、ルビーのような煌めきを放ついまにも零れ落ちそうなほど大きな瞳、白いまろやかな頬、リアルお人形さんかな?と疑ってしまうほどの愛らしさ。

 ミーアを前にすると誰もがメロメロになってしまう。我が家の小さなアイドルだ。


「ご立派でございますよ。セシリオ様。一から仕立てて正解でしたでしょう」


 家令のクレメンテがカフスボタンを着けてくれながら頷いている。


「うーん、まあ。私としては父上のお下がりでよかったけどね」


 ちらり、と背後を窺うと笑顔の母親と満足げな父親の姿が視界に入る。

 二、三年程度しか着用しない制服をわざわざ新調する必要などないと思っていたのだが、愛しの妹も嬉しそうだし、クレメンテも誇らしげにしているし。まあ家族サービスの一環ってところか。


 そういえば日本(むこう)の両親も同じ表情をしていたな。


 ふっと脳裏におぼろげな記憶が蘇る。

 節目節目、入学式や卒業式の時など。目の前(こちら)の両親と同じ表情をして微笑んでいた。

 親というものはどんな世界でも一緒なんだなぁ…なんて、少し感傷に浸ってみたり。


 さて、唐突だが自己紹介をさせてほしい。

 俺の名前はセシリオ・サン・マルティン16歳。

 建国から200年ほどの歴史を持つナーニャ王国の、筆頭貴族であるサン・マルティン家の嫡男である。

 此方の世界には当然だが日本なんて国は存在しない。剣と魔法のファンタジーな世界だ。

 もちろんこちらの世界の人々にとって剣も魔法も存在していて当たり前のことなので、それがファンタジーだと思っているのは多分俺だけ。


 俺には日本という国で庶民として暮らしていた真木良太という名の少年の記憶がある。

 これが脳内で作り出した幻想なのか、はたまた前世の記憶というやつなのか。本当のところはどうなのかなんて俺にはわからない。

 この世界にも輪廻転生の概念はあるがはっきりとは証明はされていないし、そもそも異世界というワードが存在していない。

 これはあれだろう。

 真木良太が好んで読んでいたラノベでよくある異世界転生というやつに違いない。

 その方が面白いし、自分が妄想癖が激しい精神疾患者であるとか考えたくもないし…


 俺自身よく覚えていないのだが、幼いころから自分には真木良太の記憶があったようなのだ。

 母親が目の前にいるのに母親を探して泣いたり、とにかく意味不明な事を言う幼い息子に不安を覚えた両親は占師に相談したらしい。

 占師曰く、前世の記憶を持ったまま生まれてくる子供はまま存在すること。物心が付く頃には忘れてしまうので心配いらないということ言われたそうだ。

 占師の言う通り、俺が可笑しな言動は年を重ねるごとになくなっていった…と思っているのは両親だけである。

 本当のところは周囲の困惑した雰囲気を察した俺が空気を読むようになっただけだったりする。

 この真木良太の記憶というのが厄介で、赤ちゃんの俺が前世の記憶をフル活用してチート無双!とか都合の良いものではなかったんだよな。

 俺の成長に合わせて良太の記憶も徐々にアンロックしてくタイプだった。

 つまり今の俺が16歳なので、今俺が知りえる真木良太の記憶も16歳までなのだ。

 正直言ってあんま使えない。俺と良太の記憶が別物だと理解できるようになるまでいろいろと大変だったし。


 …とまあこの辺の話はおいおいするとして。


 真木良太の記憶があろうがなかろうが俺は俺の生活がある。

 この春から王立学園に通うので学園の制服を試着しているのだ。

 良太と違って俺にとって初めての学校である。

 今までは家で雇っている教師とか、王族専属の教師だとかに教えを受けていた。

 良太だった時にはただ怠いだけだった学校生活だったけど、今の俺からしたら同年代のコミュニティーって大事だ。適度に属さないとなんかこう、健全じゃない気がするんだよなぁ。

 同年代の友人も増やしたいし、あわよくば女の子ともお近づきになりたい。

 自分で言うのもなんだけど、そこそこモテるんじゃないかと思ってるんだな。

 なんたって侯爵子息ですよ?跡取り息子ですよ?うちより格上ってなると王族くらいなわけよ。モテないわけがない!


 新しい環境への期待と少しの下心。

 どこかそわそわとした気持ちは久しぶりである。

ありがとうございます

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