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2話‐1 「真王様の友達!」

「ほえー、まさかジュリ君にそんな子がいたとはねぇ、道理でマオー様も機嫌がいいわけだ」

「ああ、アガらないでいられるわけがない! そうは思わないか、ロマンよ!」

「うん、分かる、分かるよ! やっぱ幼馴染っていうのは鉄板! でもそういう関係の男女って年を経るごとに中々見なくなっていくもんねぇ‥‥‥二十歳前後の幼馴染以上恋人未満の男女なんて、いっちばん美味しいやつじゃないのさ!!」

「‥‥‥おい、私は一体何を聞かされているんだ。物凄く不快なのだが?」


 南の国王城への突入から一夜明け、ロミアはロバーツに呼ばれ王室を訪れていた。そこで目にしたのは、ロバーツと親し気に話す、昨日は目にしなかった一人の女性。王族には見えないが、その瞳はキラキラと輝いていて彼女の様子は正に水を得た魚の様だ。


「お主はそうだな、付き合う前が一番美味しいと常々言う」

「そうだよ~、ウチが読んでた漫画とかも大抵付き合う前が一番面白いんだ。描いてみて分かったよ、付き合ってからの展開で面白くしていくのは難しい! マオー様は一貫して即付き合っちゃえ~って感じだよね~」

「一番分かりやすい幸せの形が恋人関係、及び夫婦だ。やはり当人たちが幸せであるのが一番だ!」

「そっかぁ、マオー様はナマモノ一本だもんねぇ。そりゃあそういう考え方になるかぁ」

「おい! 聞いてるのか!」


 マンガ、だのナマモノ、だの聞きなれない単語が飛び出しいよいよ置いてけぼりにされそうになり、ロミアが強引に二人の間に割って入るとロバーツはすまんすまんと謝り、ようやく話していた女の事を紹介してくれた。


「おお、悪い悪いロミアよ、少し話しに熱が入りすぎたな。この者はロマン、うちの宮廷魔術師によって召喚された別の世界の人間だ」

「よろしくね~、ロミアちゃん」

「‥‥‥は?」


 ロマン、26歳女性。フルネームは恋石(こいし)浪漫(ろまん)。OLとして働く傍ら趣味として漫画や小説等、自分の好きな作品の同人活動に勤しんでいた、取り立てて特別な所もない一般人だ。

 ある日突然南の国の宮廷魔術師、アレウリーの魔法の暴発によってこの国に呼び出され、おまけに元の世界に戻す方法も分からないとのことなのでそれ以来王城で過ごしている。


「召喚‥‥‥別の世界‥‥‥? 何を言っているかさっぱりだ」

「そう言われてもな‥‥‥我の目の前で召喚されたから、疑う余地もないのだが」

「いや~あの時はビビったよね。訳も分からず知らないところに来たと思ったら『曲者!!』って言われてさ。なんでもアレウリーちゃん、魔獣を呼び出すつもりだったって言うじゃん? それが出てきたのがただの人間で、周りの兵士共は『曲者だ! 殺せ!!』って、なんなの? なんであの人たちは口癖が『殺せ!』なの? よくないよそういう物騒なの」

「分かる。我も物騒が過ぎると思う」


 殺せ、が口癖の物騒な兵士達に関してはロミアにも覚えがあった。ロマンに同意するロバーツに対しては「お前が引いてどうする」とツッコミを入れたかったが。


「ウチも焦ってさ~、たまたま持ってた小説の原稿をマオー様に渡して『こういうものです!!』って言ったんだよ。いや、うん、意味不明だけどね? テンパってたから仕方ない。でもその小説、うちの世界で人気だったアニメ‥‥‥えっと、冒険譚に出てくるお姫様と騎士のイチャイチャを書いたやつがマオー様にはまって、事なきを得たって訳」

「今では我の良き友だ。時々我が世みたい小説やマンガを描いてもらっている」

「いや~、ウチの世界とこことで使われてる文字や文化レベルが大体おんなじでほんと助かったよね‥‥‥スマホがあんのには流石にびっくりしたけど」


 ほら、これ、とロマンが最初に渡した原稿と同じ内容のものをロミアに渡す。確かに渡された紙に書かれた文章は、自分たちも使う文字で書かれており、少々理解しがたい箇所に関しては住む世界の違いから生じる文化の違いかとも思う。だが‥‥‥


「‥‥‥いや、分からんぞ‥‥‥召喚獣の魔法は研究が進んでいるのは知っているが、異界から、人間を召喚だなんて、聞いたこともない」

「ああ、我もアレウリーも聞いたことがない、暴発だったのでな。公には彼女は『自分のことを異界人だと言い張る地元のエンターティナー』として通している」

「その扱い自体は納得いってないからね?」

「しょ、証拠みたいなものはないのか? この女がこの世界の人間ではないという証拠は!」

「証拠か‥‥‥それこそ、これでいいのではないか?」


 未だにロマンが異界の民であることを信じられないロミアにロバーツが渡したのは、以前ロマンに描いてもらった漫画だ。


「なんだ‥‥‥? これは」

「マンガ、だ。ロマンの世界で人気の娯楽文化だ」

「本当だったらもっとちゃんとした人が描いたやつを持ってきたいんだけどね~、じゃあロミアちゃんに漫画の読み方を教えてあげよう!」


 先程から度々言葉は出ていた「マンガ」、ロミア達が暮らす世界にはどこにもない文化である。文字だけではなく絵も合わせて物語を紡ぐ、その独特の表現技法を操れるという事実は確かに、少なくとも自分達とは異なる文化圏で過ごしている証になるかもしれない。


「‥‥‥分かった、信じよう。というか、別に君が異界人でもそうでなくても私からするとどちらでも構わないのだけど」

「それより、折角読んだんだから漫画の感想を聞かせてほしいな!」

「なんというか‥‥‥大変そう‥‥‥だな、描くの」

「分かる~~~~~!?」


 内容自体は二人の男女が同じベンチに腰掛け、互いに愛の言葉を交わすというものでロミアには少々恥ずかしいもの。なんとかストーリーに触れない感想を口にすると、ロマンはそれはそれで大層ご満悦な様子であった。


「そんなことより、ロバーツ。私をここに呼んだのはなぜだ。どうして私に彼女を紹介した」


 話が脇に逸れすぎた、とロミアが改めてロバーツに要件を聞く。


「ああ、そもそも貴様にロマンを紹介した‥‥‥というよりもロマンに貴様を紹介する目的で呼んだのだ。ロマンにロミアのことを知ってもらいたかったからな」

「は?」

「どうだね、ロマンよ」

「うん、うん、もう創作意欲湧きまくりだよ!! やっぱり実際に会ってみないとイメージも湧いてこないからね~!!」

「‥‥‥まさか、私を題材に、そのマンガ‥‥‥やら、小説やらを描かせるつもりか!?」

「そうだが?」

「~~~~~~~!!」


 未だ感じたことのない恥辱にロミアはその場で悶えるのだった。

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