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1話-1 真王サマに僥倖!

 両腕を背に縛られてなお、少女―ロミアの目は力強く反逆の意思を示していた。視線の先には南の国(サウザンドアイランド)の王、ロバーツ。彼の心臓を貫くはずであった剣は既に、敵兵に没収されてしまっていた。


西の国(イーストディク)の民、ロミアよ。貴様は我が国の兵に斬りかかったそうだな。言うまでもなく、許しがたき罪だ」


 王の声が聖堂内に響くと、ロミアを囲む兵やその場に立ち合った南の国の重役達が皆彼女を責め立てるように声をあげる。

 ロミアはなお黙してロバーツを睨みつけるのみ。


「だが我も鬼ではないのでな。なぜそのような行いをしたのか、動機だけでも聞いておこうか。我が城の門番は誠実な男だ、まさか先に貴様に攻撃を行ったというわけではないのだろう?」


 ロバーツの問いかけにロミアはしばらく応えないでいたが、おい、と兵士に小突かれ苛立たし気な口調で話し始める。


「‥‥‥私は、お前に会いに来た」

「ほう、我に」

「あいつが、素性の分からない者を通すわけにはいかないと阻むから押し通ろうとした。それだけだ」


 結果その門番に敗北し、取り押さえられ今に至る。門番の方には傷一つなく、今この瞬間も王城の門をしっかりと守っている。


「では、謀らずも貴様は望みを果たしているというわけだ。一体何のために我に会おうとした?」


 次いでロバーツはロミアの言葉の真意を明かしにかかる。やはりロミアはただ睨むだけですぐに話そうとはしなかったが‥‥‥


「まさか、この我の姿を一目拝みたいがために事を起こしたというわけでもないだろう?」

「ふざけるな!」


 彼の軽口に激昂したのを機に一気にまくしたてた。


「私の目的は、復讐だ! 5年前のあの日、貴様らは私の友を攫った! あの日から私は、貴様を討ちヤツを救うことを夢見て剣を振るい続けた!」

「なるほど、随分陳腐な理由だ‥‥‥だが、なかなかにいじらしいではないか。その友の為にうら若き少女が5年もの間剣を振るい続けたなど‥‥‥」

「馬鹿にするな!!」


 口の利き方に気をつけろ、口を慎めと彼女を囲む兵が責める。ロバーツはそれを制して更にロミアを問い詰めた。


「貴様‥‥‥見たところまだ二十歳にも満たない妙齢に見えるが、それでも剣を握るほどにその者が大事であったのか」

「だったらなんだ!」

「その者は男か? それとも女か?」

「は‥‥‥? どちらでもいいだろう!」

「その者との関係はどんな風だ? それほど大事に思っていたと言うのだから、さては幼馴染――」

「お前、さっきから一体何を言っているんだ!」

「真王様」

「ん‥‥‥すまない。少々話がわき道に逸れたな」


 執事のエリザベートに咎められ、ロバーツは一つ咳払い。改めてロミアに冷たい眼光を向ける。


「しかし、ロミアと言ったな‥‥‥その、攫われたという貴様の幼馴染の男」

「幼馴染とも男とも言ってないだろう」

「最早生きていないと考えるのが自然だろうな」

「なっ!?」


 初めて動揺を見せるロミア。

 ロバーツはロミアの変容を気にも留めず淡々と語る。


「そもそも我は誘拐など指示したこともない。勿論末端のならず者の兵士が独断で事を起こした可能性はあるが‥‥‥国では管理などしていないし、生きているとは想像しがたい」

「う、嘘だっ! 私は聞いた! 5年前の戦争を生き抜いた兵士が、あいつが南の国の老いぼれ兵士に連れていかれるのを見たとな!」

「だからそれは‥‥‥待てよ、老いぼれ? そうか、あいつの可能性があったな」


 希望を潰されたくなくて、必死でロバーツに食って掛かるロミアには最早当初の体を拘束されているにもかかわらずの勇ましさは見当たらない。

 しかしその彼女の言葉を聞いてロバーツは「大切な存在」の候補一人を思い当たった。その男が誘拐されてきたという認識をしていなかったが、彼の出身は西の国であったし、彼を拾ってきたのは「老いぼれの兵士」と称されてもまあ納得がいく存在であったからだ。

 ロバーツはエリザベートにその男を連れてくるように命じると、それから程なくして入ってきた男にロミアは大層驚く。


「ただいままいりました、真王様」

「ジュリアス‥‥‥ジュリアス! お前、どうして‥‥‥」


 ジュリアスはロバーツの側近。ロミアの言う「5年前の戦争」の際に瀕死になっていた所を南の国の兵士が助けたのがきっかけで側近に取り立てることになった。

 ロミアは彼の姿を見て「ジュリアス」の名を何度も呼んでいる。そうか、やはり彼女が言う男は。ロバーツは確信する。


「まあ待て、ロミアよ。貴様は少し勘違いを――」

「ジュリアス。どうしたんだよ‥‥‥なんであんな奴に従ってるんだ! そうか、洗脳されているんだな! 待ってろ、すぐに私が解いてやる!」

「洗脳などしていないが!? 人聞きの悪いことを言うな!」

「辛かっただろう‥‥‥ごめんな、5年間も一人にさせて‥‥‥強くなるのに、こんなに時間をかけてしまった‥‥‥」

「貴様門番に先制攻撃して負けて0人抜きで今に至るよな?」

「もう大丈夫だから‥‥‥帰ろう、ジュリアス‥‥‥もう、あいつの傀儡でいる必要はないんだ」

「自分が両手縛られたままなの分かってるのか?」


 先ほどまでとは一転、目から涙を流し優しい口調でジュリアスに話しかけるロミアは彼以外の何もかもが見えなくなっているようで、ロバーツは薄々気づいていたがここに来て確信する。このロミアという女は、あほの子なのだと。


「だが、そうだな‥‥‥エリザベート」

「‥‥‥真王様」

「やはり、幼馴染同士のCPというのは萌えるな!」

「ああ、やはりまたそれですか、真王様‥‥‥」


 そして彼の秘書であるエリザベートもやはり早い段階から気づいていた。このロミアという女は、ロバーツ王にとってあまりに美味しすぎる存在であると言うことを!



 大陸オースの南の国、サウザンドアイランドの国王ロバーツは、民に寄り添う優しさと敵国に対し毅然とした態度で構える力強い冷たさを併せ持った真なる王、「真王(まおう)」として優秀な為政者であったが、同時に些細な事象、例えば街中でたまたま居合わせた二人組、とある人物とその者が名前を出した人物との二人、同じタイミングで部隊長に就任した二人などといったありとあらゆる二人組をすぐに恋仲であると想定して妄想し楽しんでしまう「カプ厨」でもあった!

 おまけに上司と部下、少年とその友達の姉、などといった関係性だけで燃えに萌えてしまえる「関係性フェチ」でもあった!

 幼馴染などという関係性は全ての恋愛脳人間の大好物である、このワードが出てしまうともはやそれだけでロバーツにとっては十分。正確にはロミアが「大切な存在」を「幼馴染」であると認めていないにもかかわらず「年端もいかない少女が大切な人を助けたいがために剣を取り、5年もの間研鑽を積み危険を顧みず奪還を果たそうと乗り込んできた」というシチュエーションがあまりに美味しく、そこからずっとニヤニヤが止まらなかったのだ!


「しかも、その相手が、まさか、ジュリアス! そんなことがあるか!」

「落ち着いてください真王様」

「いい男ではあると思っていたがどうにも女っ気が無いと思っていたのだ。あんな幼馴染がいたとはなぁ‥‥‥あいつ、過去のことは何も話したがらないので触れてこなかったが、失敗だった!」

「いや気遣い自体は正しいと思いますが」


 よもやロミアの「大切な存在」が姿を見せることなどないだろうと、死んだ物として考えて落ち着こうともしてみたが、大切な存在が存外近くにいるとは。まさか自身のお気に入りのジュリアスであったとは。こんな僥倖、そうそうない!

 ジュリアスに熱心に訴えかけるロミアを置いてロバーツは大興奮だ。


「気が強いあほの子と堅物クーデレ男子が幼馴染‥‥‥素晴らしい!」

「ツボに入ったのは何よりですが」

「身長差も丁度‥‥‥肩の辺りくらいか? なんだこれは、役満ではないか!」

「さいですか」


 しかし当のジュリアスはロミアを一目みてから動かず、彼女の言葉にも何の反応も見せない。


「‥‥‥分かりました、真王様」


 しばらくして、ボソッと、冷たい声でジュリアスがロバーツへと言う。


「俺に、この女を殺せと命じられたのですね」

「!?」

「いや言ってないが!?」


 あまりの衝撃で固まるロミア、それ以上の驚きで思わず取り乱すロバーツ、ジュリアスは一人平然だ。


「門番が何者かに襲撃を受けたという話は聞いておりました。その犯人が、この女なのでしょう。あなたへの侮辱も許しがたい」

「お、おい、ジュリアス! 私が分からないのか! 私だ、ロミアだよ! お前が一目で分かるように、髪だってあの頃と同じツインテールに整えてきたのに!」

「何を言っているのか分からないな」

「そんな‥‥‥貴様、ジュリアスの記憶を奪ったのか‥‥‥!?」

「まだ真王様を侮蔑するか!」

「お、おい? ジュリアス? 落ち着け?」


 ロバーツの静止も耳に入らずジュリアスはロミアに剣を向ける。暫く置いてけぼりであった周りの兵士たちはジュリアスの行動を機に「やっちまえ!!」と再び盛り上がる。


「そんな‥‥‥ジュリアス‥‥‥」


 ロミアは絶望の顔を涙で濡らし、両腕を縛られたまま抵抗することもできないが、やがて覚悟を決めるように目を閉じる。


「‥‥‥元より、お前を助けられなかったときは、死ぬのだと‥‥‥覚悟はしていたよ。他の誰かの手にかかるよりも、寧ろ、マシな最後かもしれないな‥‥‥さぁ、やってくれ!」

「‥‥‥潔いな」

「おい、本気か? ジュリアス? え、もしかして、ほんとに面識無い? 赤の他人? そんなことある?」


 もはやロバーツの静止の声は周りの兵士の歓声に阻まれて届かない。目を瞑り震えながらその時を待つロミアの前でジュリアスが勢いよく剣を振り降ろした。


「!!」


 振り下ろす瞬間、沈黙が走る。剣は、ロミアに届かない。

 周囲の様子に違和感を感じたロミアが目を開くと、そこにいたのは自身の頭上に剣先を伸ばしながらダラダラと汗を流し、なんなら先ほどのロミア以上に震えるジュリアスの姿だった。


「‥‥‥ジュリアス?」

「黙れ! 俺の名を呼ぶな!」

「ジュリアス?」

「待っていてください、真王様。今にこの女を始末しあなたの期待に応えて見せます!」

「我してねーんだわそんな期待」


 口ではそう言いながらジュリアスは剣を振り降ろすことができない。見ていられない程に震える腕に握られた剣は、なんなら震えで揺れに揺れてちょくちょくロミアの髪をかすめている。


「ジュリアス? おい、ジュリアス。ジュリアース!!」

「ああああああああああああ!!!」


 ロミアを殺すなと止める王の声が、女を殺せという厳命に聞こえる。ジュリアスの震えはますます大きくなる。


「いたっ」

「!!」


 いよいよもって大きく揺れた剣先がロミアに軽く、軽く当たる。漏れ出た彼女の悲鳴とも呼べないほどの「痛い」を聞き留めたジュリアスは――


「っっっ申し訳ございません真王様!!!!!」


 大声で謝罪の言葉を口にしながら逃走するのだった。


「‥‥‥いや殺したくないのに何故自ら率先して殺そうとしたのだ」

「真王様、ロミア嬢の処遇はどうされましょう」

「あー、一先ず牢に入れておこう」

「かしこまりました」

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