「蒼翼のライ」 ~番外編~ 勃発シャーリィVSラライ 女の闘い!
いろいろ突っ込みどころ満載なエピソードになりますが。
温かい目で見ていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします
「えーと、なになに、男の人の胃袋を掴め?」
掃除中、アタシはシャーリィが投げ出していた雑誌を拾い上げ、開かれていたページの見出しに目を止めた。
ここは、宇宙海賊デュラハンの宇宙船。
乗組員は、居候のアタシを含めても全部で4人、・・・にしては広すぎる食堂の中で、繰り返される掃除と洗濯の日々に、いい加減アタシは飽きていた。
ああ、なんて可哀そうなアタシ。
いくら居候だって言ったって、これじゃあ家政婦どころか小間使いじゃない。
だいたいにして、掃除やら洗濯やら、掃除やら洗濯やら、とにかく何でもかんでも面倒くさいことを押し付けられていた。
ん、掃除と洗濯しかしてないって?
それだけで十分大変でしょうが!
それ以上なんて出来ないわよ。
ちぇ。
本当なら、もうちょっとまともな生活を夢見ていたのに。
現実っていうのは、なんて厳しいモノなんだろうなー。
折角、苦労の末に宇宙海賊をやめたはずなのに、たどり着いた先がやっぱり宇宙海賊の船で、しかも居候だなんて。もう、神様の意地悪としか思えない。
なので。
多少はサボっても、罰は当たらないよね。
アタシは堂々とチェアに腰かけて、紙面を覗き込んだ。
男の胃袋を掴め、なんて書いてあるから、ストマックにボディブローをねじ込んで、そのまま内臓を握りつぶす光景を想像したが、まあ、違っていた。
普通、・・・違うか。
「美味しい、は最高のラブサイン・・・ねぇ」
けっ。
料理の話か。
食べるのは大好きだけど、料理は苦手なんだ。
まあ。・・・実際のところ家事全般が苦手だ。
ってーか、嫌いだから、そもそもしたくない。
本音を言ってしまえば、こんな家政婦みたいな事をしているってのが、自分自身でも信じられないし、どうにかして待遇向上をしてはもらえないかと、日々、機会をうかがっている。
一応、自分自身の名誉のために言っておくけど。
決して働きたくないわけじゃない。
やりがいがあって、人に胸を張って生きれるような人生を送りたいだけ。
なの・・・よ。
「はあ~」
っと、ため息をついていると。
「おーい、掃除もしないで何やってんだー」
口うるさい継母・・・ならぬ、宇宙海賊デュラハンの美人パイロットにして、チームの「姐さん」こと、シャーリィが姿を見せた。
「掃除してますよー、疲れたんで一休みしていただけですー」
「あんたは、いっつも休憩中だな~」
彼女は冷蔵庫からよくわからないダイエットドリンクを取り出して飲み始めた。
彼女の趣味は通販で、いつも変ったものを頼んでは後悔している。
そのダイエットドリンクも、確か三箱ぐらい届いていたけど、絶対二箱は永遠に倉庫に眠り続ける運命になるだろう。
賭けてもいい!
「へー、あんたも料理に興味が出てきたのかい?」
アタシが何を見ていたのかを知って、彼女はにんまりとした。
「違いますよー」
「だってさ、あんたバロンの事、気になってるんだろ」
「な、なにを言っちゃうんですかー、やだなー、アタシがそんなワケ、ないじゃないですかー」
アタシは真っ赤になった。
彼女が口にしたバロンというのは、デュラハンのメンバーの一人で、タコ型の宇宙人類種だ。
外見はちょっと、まあ、普通の人から見たらアレだけど、腕利きのパイロットだ。
そして・・・。
タコなのに。
タコのくせに。
アタシの事を好きみたいなのだ。
それだけならばまだ良い。
問題なのは。
いつの間にか、アタシも彼の事を男性として意識してしまっている、という困った状況だ。
シャーリィは、いち早くその事を見抜いて、いつもこうやってアタシをからかってくる。
「そうなのかい」
そんなわけないよねーって顔で、彼女はそう言った。
まあ、ここまではいつものやり取りだ。
だけど、今日に限っては、彼女は余計な一言を口にした。
「だけどさー、まあ、確かにアンタの料理じゃ、男の胃袋を掴むどころか、そのまま地獄へ叩き落しそうだもんね~」
あはははは、と、シャーリィは笑った。
なぬ。
それは聞き捨てならないぞ。
確かにアタシ、炊事は得意な方じゃないけど、ちょっとそれは言いすぎじゃない。
アタシだってね、一応は女なんですから。
その気にさえなれば、料理だってやってみせるしー
美味しいって、言わせるくらい、簡単だしー。
だいたいね、料理なんて、 プレーン(巨大ロボット?)のオイル調合と同じようなもんでしょ。
「おや、どうしたんだい?」
アタシが怒りでプルプル震えていると、彼女はさらに楽しげな顔になった。
「シャーリィさん、アタシだって、ちょっとぐらいは出来るんですよ。そういうシャーリィさんこそ、本当は料理なんて苦手なんじゃないんですか」
アタシは言い返した。
シャーリィは、ふーん、って感じで、少しだけ上から目線でアタシを見た。
「あたしはちゃんとできるさー」
「そうなんですか? だって、シャーリィさんが調理当番の時って、たいていレトルトが出てきますよね。それに、それ以外の時だって、結局バロンさんが作ってるじゃないですか」
「あれはだな、バロンがやりたいっていうから、やってもらってるだけだよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
アタシ達は、睨み合った。
これは、ちょっと後には引けないぞ。
アタシのプライドの為、そして、アタシの今後の生活向上のためには、一度このシャーリィをぎゃふんと言わせなければならない。
「じゃあ、勝負しませんか?」
「勝負?」
「そうです、アタシとシャーリィさん、どっちがおいしい料理を作れるかの勝負です!」
彼女の眼に、一瞬だけ迷いがよぎった。
この反応は、たぶん。
いやそうだ、絶対、彼女は料理が不得意だ。
だけど。
彼女はうなずいた。
あの顔は。
・・・・。
料理は正直言って得意じゃないけどー、アタシが相手だったら勝てんじゃねー
みたいな表情だ。
むかつくー。
「よし、じゃあ、今日の夕食で勝負しようじゃないか。審査員はバロンとキャプテンだ、それでいいな!」
「望むところです!」
アタシの闘志に火がついた。
いくらこの身を家政婦もどきにやつしたとしても、アタシはかつて「蒼翼のライ」とまで呼ばれた、元銀河の英雄よ。映画のモデルにだってなったのよ!
本気のアタシを見て、恐れおののくが良いわ。
と、燃え上がっていると。
「ただ勝負だけじゃ、面白くないねえ―」
彼女は言った。
「何か、賭けをしようじゃないか」
「良いですよ、じゃあ、アタシが勝ったら・・・」
アタシは頭脳をフル回転させた。
今のアタシに必要な物、それは・・・・。
お金だ。
「もし、アタシが勝ったら、小遣いを2倍・・・いや、3倍にしてもらいます!」
「なんだってえ~!?」
ちょっとだけ金に煩いシャーリィは大袈裟に驚いた。
だってさ。
アタシの今の収入ってば、働いてないから、月に8万ニート(3万5千円くらい)のお小遣いだけだよ。
少なすぎると思うでしょ。
「だって、住み込みフル勤ですよ、そのくらい良いじゃないですか!」
「何言ってんだい、三食昼寝おやつ付きの、有閑マダム並みの生活しやがって、世の中の子育てパートお母さん達に比べたら、よっぽどいい待遇じゃないか」
「アタシは上を目指して生きるんですー」
「口の減らない子だね~」
シャーリィは、前髪をかきあげた。
「いいよ、それじゃあ、その条件飲んでやるよ。ただし、こっちもそれなりの条件は出させてもらうけど、良いんだね」
負ける気なんて毛頭ないし、アタシは頷いた。
「よし、じゃあ、あたしが勝ったら、お小遣いは2か月間無しだ」
「なっ・・・!」
そうきたか、いや、この位予想の範疇だ。
「だけど、それだけじゃあなんだな、そっちは期限なしの3倍ってことだしね・・・」
シャーリィはちょっとだけ思案顔になった。
いや、無理して考えなくていいよ。
2か月小遣い無しでも、十分厳しいから。
「よし、こうしよう!」
彼女は、不気味な笑みを浮かべた。
これは、ロクな事では無い。
「あたしが勝ったら、2か月のお小遣い抜きと、アタシが選んだスペシャル水着で撮影会の刑に処す! どうだ!」
いや、どうだ・・・って、言われても。
「そんな写真撮って、誰得なんですか? シャーリィさん、変な趣味あったんですか?」
「馬鹿者。あたしの趣味なわけあるか。だけどね、あんたのそういう写真なら、意外と買い手が居そうなんだよね~、ほら、ハイロウシティの情報屋とか」
うげ。
野郎か・・・。
それは、嫌だ。
「決まりだね。じゃあ、お題を決めよう。ここは、分かりやすく、カレー勝負といかないか?」
「カレーですね。いいですよー」
カレーなんて、小学生でも作れるアレでしょ、そんなの楽勝だわ。
「勝負は、簡単に、どっちが美味いカレーを出したか。それで良いだろう」
アタシは頷いた。
よし、今度こそ、彼女をぎゃふんと言わせてやる。
アタシのハートは真っ赤に燃え上がり、彼女を倒せととどろき叫んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
そして、対決は始まった。
審査員席には、0点から10点までの得点板を持ったバロンとキャプテンが、所在なさげに座らせられていた。
若干ウキウキ顔のバロンと、なんで俺はここに居るんだ、という心の声が滲み出てきそうなキャプテン。
二人はまだ、これからここで、何が起きるのかを知らない。
「料理タイムは60分でやんす、じゃあ、スタートっでやんす!!」
バロンがストップウオッチを押した。
アタシはには、勝算があった。
カレーとは、そう、スパイスが命。
そして、最高の素材を贅沢に生かして、超豪華なプレミアムカレーに仕上げて見せる。
まずはスパイス!
ターメリックにクミン、それにコリアンダー。
コリアンダーって、確かパクチーの事よね。
あとなんだっけ・・・さっき調べたんだけど。
まあいいや。
アタシは次の工程に進んだ。
それを6:3:4の割合で入れてっと・・・。
これ、合計で10超えちゃってるけど大丈夫よね。
それに、水を加えて、煮込むと・・・。
うん、なんだか良く分からないけど、臭いのする液体になった。
アタシは異常に気付いた。
あれ、これって全然とろみ無いや。
カレーのとろみって、なにでつけるんだ? それに、辛くも無さそうだぞ・・・。
アタシの脳細胞がフル回転を始めた。
そうか、辛くてとろみがあって、黄色いモノ。
閃いた!!
簡単な話よ。・・・それは、〈からし〉よね。
なんで気づかなかったんだろう。
アタシは鍋にチューブの〈からし〉をたっぷりと投入した。
うん、目に染みる匂いになってきた。けど、まだとろみがないな・・・。
固めれば、いいのかな。
アタシはキッチン内を見回した。
あった!
これだ。
ジェリーパウダーって書いてある。
さらさらさらー。
うん、いい感じに固まってきて、プルンプルンしてる。
・・・。
ま、いいか。
スープよりはそれっぽいでしょ。
アタシはそこで、はっと気づいた。
そうだ。
野菜と肉を忘れた。
アタシは冷蔵庫を開いて、玉ねぎとほうれん草を発見した。
ほうれん草カレー。
なんかどっかで聞いた事ある。
これは、いける!!
アタシはほうれん草と玉ねぎをフードプロセッサーで砕いて投入。
分離してるけど、まあ、素材の味がわかっていいだろう。
で、もって、肉か・・・。
これはアレよね。
贅沢に行くべきよね。
最高の食材は、その味を素直に引き出す、それが料理の神髄よね。
アタシは最高級のとっておきSSS肉を、冷凍のままスライスした。
よし、出来た。
あともう一つ、隠し玉のソースを作れば。
もう、勝ちは見えた。
何だか、反対側の方から、やけに良い匂いがしてきた。
これは、シャーリィね。
あ、こっちを見てほくそ笑んでる。
見てらっしゃい、ほえ面をかかせてあげるわ。
むこうのは、幾ら匂いが良くても、なんだか普通ね。
アタシのカレーは・・・なんかちょっと臭いけど、くさうまって奴よ。きっと。
アタシは最後のひと品をミキサーにかけ、全ての工程を修了した。
彼女も、終わったようだった。
「さあ、勝負よ!」
アタシはビシッと、彼女を指さした。
・・・・・・・・・・・・・・・・
判定の時が来た。
「えー、まずは、姐さんのカレーからいくでやんす」
「あたしが先で良いのね。じゃあ、これよ、題して、シャーリィ様特製デュラハン海賊カレー」
こっ、これは?
何の変哲もないカレーに、エビフライが一本ずつ乗ってる・・・!?
って、もしかして。いや、そうよね、絶対。
確かに良い匂いだし、おいしそうだけどさー。
「あ・・・姐さん?」
バロンがためらいがちに言った。
「これって、レトルトカレーでやんすよね。それにこのエビも・・・」
「ああ、冷凍のエビフライだよ。ほら、エビフライって頭ないだろ。首なし騎士のあたし達にぴったりかなーって」
なるほどねー。
って、違うでしょ!!!
「シャーリィさん、レトルトなんて反則じゃないですか、これじゃ、アタシの不戦勝で決まりですよ!」
アタシが呆れ気味に言うと、シャーリィは、ふふん、と笑った。
「レトルトで何が悪いってのさ。あたしは、どっちが美味しいカレーを出すか、で勝負するって言ったんだよ。手料理の腕で勝負なんて、一言も言ってないよ」
「え・・・!」
ず。・・・ずっる。
「た、確かにでやんす!」
いやね、バロン。
確かにー、じゃないでしょ。
そこは突っ込むべきところでしょ。
「ともかく上手いか不味いか、それが問題だー。バロン、キャプテン、さあ、得点はどうなんだい!!」
キャプテンとバロンは、顔を見合わせた。
そして・・・。
得点が決まった!!
キャプテン!
1点! (10点満点中)
―理由。だってレトルトだし。でもまあ、良く温めてあったので1点。
さすがキャプテン!
道理をわきまえてらっしゃるわ!
でもって、バロンは!?
バロン!
2点! (10ッ点満点中)
-理由。まあ、レトルトでやんすしねー。でもでも、エビフライの洒落が良かったので2点。
合計…3点!!!
シャーリィは、愕然として項垂れた。
しかし、これが結果。
結果が全てなの!!
おほほほほほほほ。
悪が栄えたためしはないのよシャーリィ。
この船の男どもは、ちょっと身なりはおかしいけど、倫理観はあるのだ!
「じゃあ、次はラライさんの番でやんすねー(わくわく)」
「待たせたわね・・・!」
アタシは得意満面で、至高の逸品を差し出した。
温かいご飯の上に。生のステーキ肉。そして、ほうれん草と玉ねぎのピューレが載って、そこに崩したジェリー状のカレー!
ほら、なんだか見た目も豪勢じゃない。
「こ・・・これは、何でやんす・・・か?」
カレーに決まってんでしょーよ。
何言ってんのよ。馬鹿じゃないの。
「ラライちゃん特製、厳選素材の贅沢極みカレーよ」
アタシは最高の笑顔を決めた。
「うわ、自分でちゃん付したよ・・・・」
ぼそっと言う彼女の声が聞こえた。
うっさいわねシャーリィ。そういとこ突っ込まないの。
何故かはわからないが、おそるおそる、二人はスプーンを出した。
「あ、ちょっと待って、まだもう一つあるの!」
アタシは最後の決め手、スペシャルソースを取り出した。
ふふ、アタシは知っているのだ。
この二人が、時々カレーにソースをかけているのを。
彼らが好きなのは、ただの統一感ではなく、時折舌を刺激する味変!
それを、演出してみせる。
アタシはミキサーにかけたそれを、カレーの上にかけた。
「ささ。今度こそ食べてみて」
「わ・・・わかったで・・・やんす」
微かに声が震えていた。
なんだか、失礼ねー。
食べてもいないうちにその態度。
きっと驚いて泣きだしちゃうくらい美味しいに決まってるわ。
バロンが口をつけようとした瞬間。
「!!!!!!!」
キャプテンが。
あのキャプテンが・・・・。
スプーンを取り落とし、そして・・・倒れた!?
これは・・・一体何が!?
まさか、シャーリィが、勝てないと思ってアタシのカレーに毒を・・・!?
「きゃ、キャプテン、い・・・生きてるでやんすか!?」
バロンが震えながら訊いた。
キャプテンは微かに指を震わせ、最後の力を振り絞った。
キャプテン・・・
1点!(10点満点中)
-理由。一応手作りだから。
さすがキャプテン、仕事をやりきった。
だけどね。
「えー、一点って事ないでしょ。美味しすぎて得点板間違っちゃったんでしょ!?」
アタシは詰め寄ったが、なぜかキャプテンの意識は戻らなかった。
仕方ない。
役に立たないキャプテンは放っておいて、勝負の行方は、このバロンにかかっている。
彼が、たった3点を入れてくれれば、アタシの勝ちは決まるのだ。
バロンは、アタシの手料理を食べるのがそんなに嬉しいのか、歓喜に身を震わせながら、涙までにじませながら、カレーを・・・・食べた。
「#%$‘&(%’)&#$%“&‘&%&$%&$#$」
彼は何かを叫んだ。
そして。
「げふっ・・・・」
キャプテン同様、屍のように地面に倒れこんだ。
おーい。
アタシの得点は―?
横から、シャーリィが覗き込んできた。
「なあ、ラライ、この最後のソースって何なんだ?」
「これですか。オイスターソースですよ」
「オイスター、にしちゃあ、変な匂いだぞ」
「本物を食べたことが無いんですねー、シャーリィさんったら」
アタシは得意げに胸を張った。
「オイスターって、牡蠣の事なんですよ。だからアタシ、生ガキをミキサーにかけて、とんかつソースに混ぜたんです。これ以上のオイスターソースなんてないでしょ!」
えっへん。
シャーリィは。
なぜだか、うえっ、って顔をして、気の毒そうにバロンを見た。
バロンは、なんとか震える手で、得点板を選ぼうとしていた。
「バロンさん、お願い、アタシのお小遣いがかかってるの!」
「あ、それ言っちまうの、ずるくねー?」
シャーリィがアタシに向かって吼えた。
何とでも言うが良い。
アタシは勝って、小遣いをアップさせるのだ。
ふふふ。
バロンはアタシの絶対的な味方。
絶対にアタシの立場が悪くなるような選択はしない。
そうよね、バロン。
彼の手が、3点と書かれた得点板に伸びた。
その時だ。
「あーあ、あたしが勝てば、ラライのスペシャル水着撮影会ができたのになー」
シャーリィが・・・言いやがった。
まさか。
あの条件を出したのって・・・この、為かー!!
バロンは、得点板を手にした。
バロン・・・
1ッ点!(10点満点中)
-理由。本能には勝てなかったでやんす。
したがって・・・・。
勝利者は、シャーリィ!!!!!!!!!!!
そ・・・・そんなああああああああああああああああああ。
アタシは奈落の底に叩き落された。
ぎゃふん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうして。
戦いは一つ終わった。
アタシがどんな水着を着せられて、どんな写真をとられたかは、今のところアタシとシャーリィだけの秘密だ。
ってーか。
いっそのこと秘密になんて、しなくていいのにさ。
秘密にするから、みんな余計な想像して、欲しがっちゃうんじゃない。
これが、あんたの手か。
シャーリィ、どこまで計算高い女なのよ!
と、思いつつも。
アタシはバロンの部屋のベットの上で、女王様よろしくフルーツジュースを飲んでいた。
ここ数日。
アタシのお小遣いを無くしてしまった事に責任を感じたバロンは、アタシの仕事を全部してくれて、次の街に行った時には個人的にアタシにお小遣いをくれると言い出した。
まあ。
だったら許してあげよう。
裏切りは代償がつきものだもんね。
ガラッとドアが開いて、悪の権化シャーリィが姿を見せた。
「あー、また、ぐーたらしてんのかい。あんたは。この分だと、バロンは掃除か?」
「洗濯の方だと思いますよー」
「ったく、いっつも人にやらせてるんだから」
「だって、やってくれるって言うんですよー」
彼女は髪をかきあげて、呆れたようにアタシを見た。
「あんたさー」
「なんですか?」
「居候って言うより、バロンのヒモだよね・・・」
「へ?」
「働きもしない、食う寝る遊ぶ、挙句の果てに、お小遣いまでもらってさ・・・」
「・・・・!!!!!」
た、確かに!!
言われてみれば、その通りにしか思えなくなってきた。
「そのうち、愛想つかされるぞ。まあ、あたしはどうでも良いけどな」
彼女はそれだけ言って、去っていった。
アタシは、食べかけのクッキーを落とした。
シャーリィの言う通りだ。
これじゃあ、アタシ、居候どころか、まるで寄生虫じゃないか。
駄目だ。
こんな生活をしていては、アタシは駄目になる。
アタシは少しだけ青くなって、慌てて彼の元に走った。
やっぱり。
この船は居心地が良すぎて、アタシはどんどん堕落してしまう。
どっかで、船を降りて、ちゃんと働き口を探さなきゃ。
本気でそう思った。