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プロローグ9

普通に戦ってはまず勝てない、そんなことは明らかだ。


圧倒的に実力が離れた相手と戦うときは、自分の得意分野で戦うしかない。


「ついてこいよ!蛇野郎!!」


俺は目の前の蛇型の「害獣」を挑発し、走り出した。


落ちこぼれの俺が得意だった唯一の事、それはは「知識」と「脚力」だ。


兄を恐れ家に閉じこもり手にした本から得た「知識」。


兄から逃げ切る為に山道も坂道も必死に走り抜ける為に密に鍛えた「脚力」。


どちらも情けない理由だったが、俺の18年の人生で力を注いだ二つの取り柄だ。



以前に本で読んだ蛇型「害獣」の特性。


蛇型は「直進には強いが、曲線だとスピードが落ちる」というものだ。


直進に走ればさっきのように簡単に追いつかれるがジグザグに走れば容易には追いつかれないはずだ。


俺の作戦はうまく注意を引き付けこの蛇型「害獣」をイヴから遠ざける。


「シャアアアア!!!」


蛇型「害獣」は挑発にのったのか、作戦通り俺を追いかけていた。


「ハヤト!!!!」


イブの声が遠くから聞こえたが、今の俺にその声に反応している余裕はない。


少女の為に俺が出来ることは走り続ける事だけだ。


「シャアアアアア!!!」


もう振り向くことも許されない。


俺のスピードと蛇型「害獣」のスピードはほぼ互角。


一瞬でも足を止めればその強烈な牙に体は引き裂かれる事だろう。


「うおおおおおおおお!!!」


俺は必至に走り続けた。







 いったいどれくらいの距離を走ったのだろう。


薄暗かった森には太陽が昇り始めていた。


「シャアアアアア・・・・・・」


「さすがのお前も疲れたか?」


俺は蛇型「害獣」の前に倒れこんでいた。


もう足が言う事を聞かなかったのだ。


道中の木々で擦りむいた足の切り傷は無数にあり。パジャマも原型の絵や文字がわかなくなるほどに破れていた。


体はボロボロだが俺には達成感があった。


生まれて初めてかもしれない。


やると決めた事を最後までやり切れた事は。


「へへ、みたかくそ兄貴」


空を見上げながらそう呟いた。


「シャアアア!!」


さあ捕食の時間だ。


後悔はない。


イブはそろそろ「寮」に辿り着けたか?


道中、別の「害獣」に襲われたりはしてないか?


記憶は無事に取り戻せたか?


そういえば別れの挨拶とかなんもしてねーや。


でも、もういいんだ。


「シャアア!!」


喰われる!!




ーーースパンーーー。




瞬間、開かれた大きな口の2本の牙が折れたのだ。


「え」


「グシャアアアア!!!」


悲鳴のような叫びが蛇型「害獣」から漏れる。


何が起きたのか俺には全くわからなかった。


「お前、よく生きていたな」


隣を見上げると黒い剣を持った一人の男が立っていた。


俺はその男を知っていた。


俺を船から突き落とした奴だ。


「お前、なんで・・・・・・」


「目の前で人が死ぬのは見ていて気持ちの良いものじゃない、それだけだ」


男は果敢に蛇型「害獣」に向かっていった。


その剣捌きはとても鮮やかなものだった。


一切無駄のない動きから、相手を切りつける。


目をえづり、胴体を切り裂き、喉を潰した。


俺の兄貴なんて比にならない剣術だ。


「しゃぁぁぁぁ」


蛇型「害獣」はいまにも消えそうな声を上げ、地面に倒れこんだ。


「す、すげえ」


これが願いを叶える為に命を懸けた来た男の剣技なのか。


「お前すげーよ!一瞬で倒しちまうなんて!!」


ふらふらな足で男に駆け寄った。


「・・・・・・いや、まだだ」



ズドドドドドドドド!!!!!!!!



男がそう呟いた途端、倒れた「害獣」の後方から地響きのような音が聞こえた。


「な、なんだ!」


周りの木々をなぎ倒し俺達の目の前に現れたのはこの世のものとは思えない光景だった。


倒した蛇型「害獣」と同じ姿の「害獣」が7匹現れたのだ。


さらに、その7匹の害獣と倒した「害獣」は一つに繋がっていた。


その姿は、神話の害獣「ヤマタノオロチ」そのものだった。


男が倒したのは「ヤマタノオロチ」の一部に過ぎなかったのだ。


「下がっていろ!!!」


焦り一つ見せなかった男の声色が変わった。


だが、俺はその場から動くことが出来なかった。


体と心は「恐怖」の感情に締め付けられ言う事を聞かないのだ。


「おい!!何をしてる!」


男の緊迫した声が俺を責めるが体はピクリとも動かない。




ぐらあああああああああああああああ!!!!!!!!




「ヤマタノオロチ」の怒涛の咆哮が辺り全体に響き渡った。

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