プロローグ8
緑で覆われた森は強烈な咆哮の後一瞬で真っ赤に染まった。
「ハヤト!ハヤト!ハヤト!」
背中からイヴの声がする。
だが、これだけの大量出血したのだ俺は確実に死んだ・・・・・・
「ぼーっとしないで!!」
両頬を親指で力いっぱいひねられた俺はそこで初めて正気に戻った。
「いいいいいいってええええ!!!!!・・・・・・え」
頬の痛みを感じる。
俺はまだ死んでいなかった。
それどころか体に大きなけがはなかったのだ。
「え、え、え?」
一度深呼吸し、俺は状況を整理した。
強烈な咆哮、胴長の蛇型「害獣」、あたり一面の血。
これは夢でもない現実の話だ。
しかし、俺に大きな外傷はない。
「お、おれの血じゃないのか???」
「ばか!!!」
イヴの大きな声が耳の鼓膜で反響している。
どうやら俺はまわりの血を自分の血と勘違いし失神していたようだ。
はずかしいなこれは。だいぶ。
だが、そんなことを引きずっている余裕は俺達にはなかった。
ピンチは継続中だ。
「逃げるぞ!!!」
俺はイヴを背負ったまま蛇型の「害獣」とは真逆の方に走り始めた。
が、その「害獣」は胴体をうまく回転させると俺達目掛けとつげきしてきた。
「ハヤト!追ってきてる!!」
「まじかよ!!」
途端、後ろを振り返るとその「害獣」との距離はすぐそこまで迫っていた。
顔立ち、姿は蛇そのものだがサイズ感が異常におかしいその「害獣」は頭だけで俺の身長をゆうに超えていたのだ。
それだけじゃない、こいつもあったのだ。
目と目の間に「三つ目」の目がーーーーー
「シャアア!!!!」
「害獣」は怒涛の咆哮とともに大きな口をひらけ2人を飲み込もうとした。
「うあああああああああああああ!!!!」
俺はその死を感じさせる咆哮に悲鳴をあげると、足がからまりその場に倒れこんだ。
「うぎゃ!」
背中のイブも衝撃で宙を一回転し短い悲鳴とともにその場に倒れこんだ。
「シャアーー!」
短い威嚇と共に態勢を立て直した「害獣」は俺達と少し距離をあけ完全に戦闘モードだ。
ここまで視界にはいってしまえば逃げ切ることは不可能だ。
終わりだ。
相手は武装した人間を1秒で食い殺す「害獣」。
こちらはパジャマの臆病者と記憶喪失の少女。
ここで俺の18年間の人生は終わってしまうのだ。
思い返せば漫画の脇役のような人生だった。
欲しい物も、賞も、好きな女性も何もかも兄貴に奪われ。
兄を引き立てる為の存在としてずっと生きてきた。
親からも友からも期待されず。
本を片手に空想を広げる毎日だった。
仮に生きて帰れたところで俺の帰りを待っている人間なんていやしない。
なんならここで死んで新しい命に生まれ変わったほうが幸せかかもしれない。
そうだ。俺の人生はここで終わっていいんだ。
そう、終わっていいのは俺の人生だけだ。
でも、イブは違う。
記憶をなくし、自分が何者かもわからない少女。
自分が誰かもわからないまま死ぬなんてあんまりじゃないか。
少女には過去を見つけ、可能性ある未来を生きる義務がある。
その義務を守れるのは俺だけなんだ。
今、臆病な風間速翔はいらない。
人生一度くらい主役のヒーローになってもいいじゃねえか。
「こいやああああああああああああ!蛇やろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」