プロローグ6
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
「ねえ、大丈夫?」
息切れが激しくなる俺をみて不安になったのか、少女が口を開いた。
2度目の「害獣」と遭遇してからどれくらい逃げただろう。
頭の中は酸欠状態で何も考えることが出来なくなっていた。
「っやべ!」
大樹の大きな根っこにつまずき抱きかかえた少女ごと俺は地べたに倒れこんだ。
仰向けで空を見上げるともう太陽は沈んでおりあたりは真っ暗だ。
このままこんなとこで倒れていれば俺も少女も間違いなく食われて死ぬ。
頭ではわかっているはずなのに体はピクリとも動かなかった。
「ごめんな」
腕の中で少女にそう謝りながら俺は意識を失った。
子供の頃を思い出していた。
顔は瓜二つだったが双子の兄と俺は全く違う人間だった。
たいした努力もせずなんでもそつなくこなす兄に対して俺は何をしても結果がだせない落ちこぼれだ。
「じゃないほうの風間」周りの人からはそう呼ばれていた気がする。
兄は俺を嫌っていた。
同じ顔なのによく泣くし、よく失敗する。
自分の顔で情けない姿を周りに見られるのが心底嫌だったのであろう。
だから、兄は徹底的に俺をいじめた。
俺とこいつは同じじゃない。
そう、周りに見せつけ訴えかけるように。
逃げても逃げても追いかけられ捕まっていじめられた。
それが俺「じゃないほうの風間」の日常だった。
「・・・・は!」
夢を見ていた子供の頃の。
生きてて一番つらかった頃の夢だった気がする。
まあ、夢だからもう覚えてはいないのだが。
辺りを見渡すと洞窟の中にいた。
相変わらず視界は暗いがどうやらまだ生きているらしい。
「おは!」
少女が俺の視界に入り込んだ。
少女も無事だったようだ。
「お前が「この洞窟」まで運んでくれたのか?」
「うん!」
「嘘だろ!?ははは、すげーな」
自分の倍以上の対格差がある俺を洞窟まで移動させた少女。
現実味はないが「まだ生きている」それが実感出来るだけで何故か笑えてきた。
「なあ、名前教聞いていいか?俺はハヤト、速く翔けるで速翔」
「はやと?はやと、はやと、、、ハヤト!覚えた!!ハヤト!!」
幼い少女はまるで初めて言葉を覚えるかのように何度も何度も名前を口にした。
「それで、お前の名前は?」
「・・・わかんない」
少女は俯きそう答えた。
「もしかして、記憶がないのか?」
少女は頷いた。
「まじかよ、じゃあなんでこの島にいるのかもわからないのか・・・」
「うん記憶があるのはは2日前にこの島に着いて・・・」
「っな!2日前だと!」
ありえない、この子は一人でこの島を1日生き延びたっていうのか?
それだけじゃない、メタトロンが招待したのは最初で浜辺でみた50人ほどの人じゃなかったのか。
だとしたら、今、この森にはいったい何人いるんだ・・・
「あ!思い出した」
突如少女が声を上げた。
「この島に着いたときねお空に浮いてるお姉さんから名前を呼ばれたの!!」
「名前を?」
お空に浮いたお姉さんは間違いなくメタトロンだ。
少女の記憶とメタトロンが関係しているのか?
「なんて言われたんだ?」
「えっとー、確かね 、、、、お帰りなさい、イヴ、って」