◆第七話『ワープゲート』
「こんなところに連れ出してどうした? 決闘か?」
「まさかわたくしたちを大衆の前で辱めるつもりでは」
「お前たちには普通の感性がないのか」
ダンジョンの依頼が受けられなくなってから4日後。
ジェイクはディアナたちと都市内の広場に来ていた。
建物の間を埋めるために作られたのか。
そこまで広くはないうえに雑な造りだ。
ただ、今回の目的には最低限の条件を満たしていた。
気になるのは、そばの通りを人がまばらに往来していることぐらいか。とはいえ、大半が《異端者》や《殺戮王女》とわかった途端にそそくさと去っていくのだが。
「試したいことがあってさ。エルミ、これをつけてくれるか」
「腕輪、ですか」
指3本分の幅を持った腕輪だ。
帯には中央に大きな赤い魔石が埋め込まれ、残りには等間隔で小指の先程度の小さな魔石が幾つも埋め込まれている。
「好きなほうにはめてくれればいい。ちなみに俺は左腕にはめてある」
言いながら、左腕を軽く掲げる。
こちらもエルミに渡したものと同じ腕輪を装着していた。
「では、わたくしも同じほうで」
エルミが装着したのを機に、ジェイクは腕輪に魔力を流す。
と、エルミの腕輪と揃って大きな魔石が淡く輝きだした。
「ひ、光りました……」
「俺が魔力を流すことでそっちも反応するようになってるんだ。小さい魔石はどうだ?」
「一個だけ光っています」
「それを取って、少し先の地面に放ってくれ」
エルミが指示どおりに外した魔石を放った。
地面に衝突すると同時、ぱりんと簡単に割れる。
直後、その上に紫色の靄が出現した。
大きさは余裕を持って人を覆えるほど。
円形状で奥行きはほぼない。
「な、なにか出てきました……」
「なんだかすごく禍々しいな」
淡々と驚くエルミに、警戒するディアナ。
そんな2人の反応を横目で見つつ、こちらも同様の流れで紫の靄を出現させる。
「近寄りさえしなければ危険はないから大丈夫だ。ディアナ、そこらに落ちてる石を軽く放り込んでみてくれ」
「了解だ」
「いいか、下投げだからな。絶対に上投げするなよ!」
「い、言われなくてもそのつもりだ」
何食わぬ顔で腕を下ろすディアナ。
言わなければ間違いなく上投げだった。
改めて下投げで小石を放る。
と、その小石が靄に触れた先から見えなくなった。
「き、消えたぞ……!?」
「はい、消えましたね」
揃って目を見開くディアナとエルミ。
ディアナに至っては靄の裏側まで確認している。
「ディアナが投げたのはこっちにあるぞ」
ジェイクは手に持った小石を見せつけた。
ディアナが目を瞬かせたのち、困ったように笑う。
「いくらわたしでも騙されないぞ」
「まあ、信じられないのも無理ないか。そんじゃもう一回だ」
こちらが出した紫の靄に手に持った石を放り込んだ。
直後、今度はエルミの出した紫の靄から出てきた。ディアナが小石を落とさずに掴んだのち、2つの紫の靄を交互に見やる。
「どうなってるんだ、これは……?」
「期待どおりの反応で嬉しいぜ」
苦労して完成させたかいがあるというものだ。
「これは《ワープゲート》って異なる2つの空間を繋ぐ魔法だ」
「さらっと言っていますが、かなりすごいことなのでは」
「ああ、かなりすごい。といっても基礎だけはずっと昔からあったんだけどな。それを組み上げて、魔導具に落とし込んだのは俺が初めてだが」
思いきりふんぞり返った。
幾人もの王宮魔導師が挑戦しては実現に至らなかった超高位の魔法だ。少しぐらいは自慢しても問題はないだろう。実際のところは単純に罠魔法との相性がよかっただけの話なのだが。
「最近、1人でこそこそなにをしているのかと思っていたが、もしかしてこれを造っていたのか」
「そういうことだ」
もちろん腕輪は自作ではない。
魔導具店の店主と相談しながら造りあげた。特注品とあってなかなかの出費となったが、その分だけ大きな見返りを得られたのは間違いない。
エルミが改まって深々と頭を下げてきた。
「申し訳ございません、ジェイク様」
「い、いきなりどうした?」
「いえ、ジェイク様が行き場のない欲求を口にはできないような場所で発散しているものとばかり」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「エロ魔導師です」
「よしこの話は終わりだ」
これ以上続けても居心地が悪くなるだけだ。
そうして早々に話を切り替えようとしたとき、なにやらディアナからきらきらとした目を向けられた。