◆第ニ話『旧友との再会』
こちらは名乗っていない。
にもかかわらず名前を言い当てられた。
どうやら間違いないようだ。
彼女はセティス・メイエン。
王立魔導学院時代の同期だ。
「やっぱりそうか。昔と雰囲気が違ってて、まったく気づかなかった」
「当然でしょ。だってあれから10年も経ってるのよ。っていうか、あなたいままでどこに――」
セティスは口にしかけた言葉をいきなり止めた。
咳払いをしたのち、引き連れた兵士たちに言う。
「少し外してもらえますか」
ただ、なかなか兵士たちは動かなかった。
おそらく魔導師の格好と〝ジェイク〟という名から正体に至ったのだろう。こちらに訝るような目を向けている。
「メイエン卿、まさかその男……」
「大丈夫よ。彼はみんなが思ってるような人ではないわ」
セティスのはっきりとした物言いもあってか。
渋々ではあるが、兵士たちは離れていった。
「ごめんなさい。彼らも悪気があったわけじゃ……」
「慣れてるから気にするな。それよりさっきの答えだが」
「そうよ! 本当になにをしてたの!? あれから連絡をとろうとしても居場所がわからないし、もうどうしたらいいのってずっと悩んで――って、いまのなし! 忘れて!」
勢いよく詰め寄ってきたかと思うや、顔を真っ赤に染めて引っ込んでしまった。忙しいことこのうえないが、昔のセティスを思い出させてくれる姿だった。
「まさかあのセティスが俺を心配してくれるとはな」
「い、一応同期だったんだもの。気にして当然よっ」
魔導学院に通っていた頃のセティスは、誰よりも周囲の人間に気を配る優しい人間だった。どうやらあの頃から変わっていないようだ。
「いまは冒険者っぽいことをしてる。で、最近の活動拠点がここだ」
「……ねえ、もしかしてトロールの群れを迎撃したのって」
「ん、ああ。俺がやったぜ」
こちらの返答にセティスが目をぱちくりとさせる。
その後、妙に納得したように微笑をこぼした。
「そう、あなただったのね」
「厳密には俺ひとりでってわけじゃないんだけどな。都市の警備兵や冒険者。なにより仲間のおかげだ」
「仲間……?」
セティスが首を傾げた、そのとき。
ディアナがわざとらしい咳払いをしつつ、隣に並んできた。
「盛り上がっているところ悪いが、わたしのことを忘れてないか?」
「あぁ、セティス。さっき言ってた仲間のひとりだ。名前は知ってるとは思うが――」
「ひ、姫様っ!?」
セティスが目を見開いたまま固まってしまった。
どうやら紹介するまでもなかったようだ。
「あ~、そうか。王宮魔導師なら顔を見る機会もあるか」
「それだけではない。彼女にはよく話し相手にもなってもらっていたのだ。歳の近い者が少なかったからな」
ディアナが懐かしむようにそう口にした。
当のセティスはいまだに唖然としたまま硬直している。
「どうした、ショックボルト食らったみたいな顔して」
「ど、どんな顔よそれっ!」
打てば響く。
昔と変わらずいい反応だ。
「だ、だって姫様がいたことも驚きだけど、まさかジェイクの仲間だなんて……」
「仲間ではない。相棒だ」
「あ、相棒!?」
「戦闘の、だ。変な意味じゃないからな」
ディアナの〝相棒〟発言にすぐさま補足する。
どうも相棒を恋人と勘違いする者が多くて困る。
同志あたりに言い換えるべきではないか。
そんなことを考えていたときだった。
これまで静観していたエルミが前に出てきた。
「そしてわたくしはジェイク様のメイド、エルミです」
「メ、メイド!?」
「毎夜、『今回はどんな形で俺の欲望を満たしてくれるんだ、げへへ。がはは。じゅるり』と興奮するジェイク様の要望にお応えしております」
「ジェイク、あなた……」
「いいか、こいつのことは真に受けるな」
そう弁解したものの、蔑む視線は止まらない。
久しぶりの再会だというのに、早々に最悪の印象を与えてしまったようだ。……と、思いきや、セティスはくすりと笑みをこぼした。
「もうなにがなんだかわからないけど……でも、元気にしてるみたいでよかったわ」
「そっちも夢が叶ったみたいでよかったな。昔っからずっと言ってたもんな、王宮魔導師になるって」
王立魔導学院の門が開かれるのは6歳。
その頃からセティスとは、ずっと同じ学び部屋だった。
「誰かさんより4年も多くかかっちゃったけど」
「そもそも俺は入ってないけどな」
「あらごめんなさい、異端者ジェイク・オルトレームさん」
「……お前、やっぱ変わったな。昔は『むかつく!』ってすぐかみついてきてたのに」
事実だったことを思い出したか。
セティスは開きかけた口を閉じると、恥ずかしそうに顔をそらした。
「あ、あの頃は余裕がなかったのよ……」
「じゃあ、いまはあるってことか」
「ええ。きっと万年次席の称号から解放されたおかげね」
「じゃあ俺は意図せず最高のプレゼントをしたわけか」
「最高なわけないでしょ、ばか」
言葉とは裏腹に、向けられたのは柔らかな笑み。
本当に心配してくれていたことがありありと伝わってきた。
「ねえ。もしよかったらでいいんだけど、今夜――」
「これはこれはディアナ王女殿下。まさかこのような場所におられるとは思いもしませんでした」
セティスがなにかを言いかけた、そのとき。
1人の男が声をあげながらディアナの前に立った。




