第三十一話 無我
俺は右前脚の爪で
最後尾の魔術師の首を左斜め下に刎ねた。
その直後一切の間を開けず
近くの瓦礫に身を潜め、
次は最前列を狙うべく視線を向けた。
冒険者の集団は最後尾の彼女が
殺された事に気がついていなかった。
彼女は何故だかは知らないが、
彼らから少し距離を取っていたし、
彼女の死体は近くの瓦礫に持たれて
倒れた時の音を発生させなかったからだ。
俺は次のターゲットを決め
瓦礫の物陰から出ようとした瞬間、
盾持ちの緑の長髪の男が声を発した。
「おい!後ろは問題ないんだろうな!?」
質問に対しなんの返答もない。
「後ろ」と言ったことから
恐らく最後尾の女魔術師に声をかけたのだろう。
返答がないのは当たり前だが、
これでは振り返って見た際に
殺されたことがバレる。
俺はまずいと思い、
先頭の魔術師に突撃した。
「うわ!なんだこいつ!」
「馬鹿な!気配が無かったぞ!」
最初に盾持ちが、
次に弓持ちが驚愕した表情で叫ぶ。
そして最後に俺に殺される先頭魔術師が、
目を見開き叫ぶ。
「しまっ…!」
突撃したお陰で移動速度が上がり、
既に先頭の目の前に立っていた俺は
先程の魔術師と同じように
先頭の首を刎ねていた。
その魔術師の顔は恐怖で歪んでおり、
体と離れても数秒は表情を維持していた。
「っ……!!」
仲間の首を刎ねられたことを目の前で確認した
冒険者達が戦慄する。
同時に明かりを持っていた者が死に、
辺りが暗くなる。
俺は次の行動に移るべく、
また近くの瓦礫の物陰に隠れた。
残るはあと3人。
盾持ち剣士と弓持ち、
さらに詳細不明のローブだ。
盾持ち剣士は恐怖しつつも
足元に転がる死体の近くにある松明を拾った。
松明の光でゆらゆらと確認出来る表情は
今にも泣きそうだ。
そこから察するに、
彼らは恐怖に耐性がない
初心者冒険者なんだろう。
足元の松明を拾った際に
慌ててフードの下が顕になった弓持ちの表情も、
盾持ち剣士の表情と同様のそれだ。
未知数なのはローブだが、
これも鑑定してしまえば分かってしまうことだ。
だが今はこの2人が邪魔だ。
俺は彼ら3人の死角から
まずは盾持ち剣士の首を、
次に弓持ちの首を躊躇無く刎ねた。
驚く隙もなく、
盾持ち剣士と弓持ちは
音を立ててその場に倒れ込んだ。
さて、ローブの様子だが全く動く気配が無い。
さらにおかしな事だが敵意が全く感じられない。
俺は気になって仕方なくなってしまったため、
こいつを先程までと同じように殺す前に
物陰から出て、
ローブの正体不明の深く被ったフードを
取ってみた。
フードの下を見て、俺はびっくりした。
そこには顔が無かったのだ。
俺はすかさずそれを鑑定した。
「か、鑑定!」
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【名称】エンダーンアルマトゥーラ
【強度】6600/7000
鑑定不能
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なんだこりゃ。
俺は鑑定しても
頭にはてながつくものを見ながら、
これをどうするか考えていた。