第二十九話 大討伐
俺は今、途轍もなく焦っていた。
その理由は、
ついさっき「大討伐の日」が今日らしく
それに気がついた女の子が
俺に申し訳なさそうな顔で言ってきたが、
それを言われた直後、
松明?の明かりらしき光が約50m先から
段々こちらに近づいてくるのを確認したからだ。
幸いな事に
ここは松明が壁に設置されておらず、
暗くなっており向こう側からはこちらの姿を
確認できないだろう。
そして明かりとなる松明も、
女の子の手にはない。
道の途中で
明かりがなくてよく周りが見えるなあ。
と思い質問したところ、
どうやら獣人族の中でも
特有の種族だけが持つ「目」を持っている為、
俺のように夜や洞窟に
明かりがなく暗い中でも
周りを確認出来るらしい。
夜目は俺の種族だけの特権だと思っていたので、
少しがっかりした。
「ど、どうしますか…!?」
女の子が相手に気が付かれないように、
ひそひそ声で話す。
俺は焦りながらも、
出来るだけ急いで考えを回した。
松明の光を見る感じだと
相手は3人か、
多くて5人ってとこだろうか。
これも先程道の途中で聞いた事だが、
こういった洞窟に入る際は、
基本的に先頭と後衛しか
松明を持たないらしい。
理由は、
全員が持っていると眩しいし、
松明を持つ最後尾と先頭は魔法の使い手が多く、
戦闘になった時のみに
魔法で光を生成するからだそうだ。
じゃあ、先頭に前衛を置いてもいいんじゃない?
となるとそれも違うらしい。
「俺ら前衛、装備重いなぁ…
松明持っていると、疲れるなぁ……あ!そうだ!
魔法の使い手は装備が軽いから、
松明持ってくれよ!」
という理由から、
道の先を照らす先頭と
後方の安全確認の最後尾しか、
松明を持たないらしい。
ということなので、
先頭と最後尾の間が
どれだけ空いているかで
どのくらいの人数がいるか大体見当がつくのだ。
俺は思考を一旦落ち着かせたあと、
女の子に今一番大事な事を手早く聞いた。
「ごめん、急いでるから単刀直入に聞くよ。」
「は、はい…!」
「君は俺が人を殺しても平気?」
「……」
女の子は黙り込んでしまった。
その間にも、
相手との距離はどんどん近づいていく。
そして、辛うじてこちらの姿を
確認できるかもしれない距離まで近づいた相手が
こちらを見ようとしてきた瞬間、
俺は静かに女の子に声をかけ、
物陰へと急いだ。
「このままでは……ひとまず、ここから隠れよう…!」
「……っ…はい」
俺達は相手から気が付かれないように移動し
さらに後方に距離をとり、
瓦礫が山になっている所に隠れた。
俺が何故、
とっとと相手を殺さず
わざわざ女の子に確認を取ったかというのは
当たり前なことが理由である。
その理由は、
俺が何も聞かずに抵抗もなく
女の子の同族である人類を
バッサバッサと殺していったら、
果たして女の子は何を思うだろうか
というものだ。
女の子が魔物である俺を、
仮でも信用したのは
恐らく人の言葉を喋るからという
理由だったのだろうが、
結局、人を殺すただの賢い魔物だった。
仮でも信用したのが間違い。と
思われるのが目に見えている。
だからわざわざ確認を取ってまで、
女の子に問いたのだ。
今一番いいのは戦闘せずに通り過ぎることだが、
生憎とこのまま後ろに下がり続けても
狭い一本道になってしまい、
ますます見つかる危険性が上がるのがオチだ。
かと言ってここに隠れていても、
通り過ぎてこちらを振り返って見ると
ハリボテのように
姿を確認できてしまう欠陥隠れ場所だ。
じゃあもう選択肢が2つしかないという訳だ。
1つ目は発見されて、
人類である女の子は助かり、
俺は魔物だから反感をかわないように
大人しく殺される。
2つ目は相手を全員殺す。
峰打ちなどで殺さない手もあるが、
そんなのは練習してないから
できるはずがないし、
そもそも使うとは思っても見なかった。
どっかにでかい盾持った女の子でもいたら
話は別だが。
さらにだ、
これらを実行するにも難点が幾つかある。
1つ目に関しては俺が我慢すればいいが……
まあ……死にたくないよ。
相手が冒険者となると
どうしても血気盛んな大男の集団って
イメージがあるから、
万が一にも見逃してはくれないだろうしな。
2つ目は女の子がOKしてくれないと出来ないし、
勝手にやっても女の子の信用度が下がり、
スキルのために協力してくれなくなって
キャンプにも連れて行ってもらえなくなる訳だ。
最悪敵対してきたら
殺さないといけなくなる
羽目になるかもしれないし、
俺としてもそれは避けたい。
しかも、
相手がどのくらいの強さかわからん。
俺が悩みに悩んでいるあいだにも、
折角離れた冒険者集団との距離も縮まっていく。
このままでは本当にまずいと思った時、
質問の答えが返ってきた。