俺、魔法少女になる
人生の転機と死は突然にやってくる、当たり前のようで当たり前ではない、そんなものだ。
泳げないにも関わらずに溺れている猫を助けた結果、自分が溺れたとしても。
そのまま、気を失って死ぬのを実感しても。
目の前の姿見に写っている自分の姿がどこに出しても恥ずかしくない美少女だとしても、それは一つの転機という訳だ……
「んな訳ねぇだろ!!馬鹿野!!」
鏡の前で絶叫した、てかするだろ目が覚めて起きたらこんな姿になっていたら。
「え!てか、何これ、何これえぇぇ!!」
事の原因に向かって自分を指差しながら怒鳴る。
「君は今日から魔法少女になれるようになった」
「いや、俺、男なんすけど!!性別変わってるんですけど!!」
「すまない、君の体を修復するのにはどうしても必要じゃったんじゃ」
「いやいや……いやいや!せめてロボットだろ!何でこんなフリフリ着けた少女の姿なんだよ!」
「儂は魔法少女の研究しかしてなくての、その応用の結果じゃ」
申し訳なさそうに白衣の老人は首を横に振るう。
「……魔法少女の研究って一体どういったことをしてるんだ?」
様々な聞きたいことがあったが取り敢えずは聞いてみる。
「それは、アニメをみて可愛い服を製作したり、その娘が使っているステッキを作り、この私の科学力で特殊な能力付属させたりと、それは多岐にーーー」
「只のアニオタじゃねぇか!」
「し、失礼な!」
「どこも失礼じゃねぇよ!事実だよ!いいから、元に戻してくれよ……女にできるなら男にもできるだろ?」
「それは無理だ、君の体を修復する時に人体の半分をマジカル少女エキスを使ってしまったからな……それ故、その体を戻すには大量に必要なものがある」
「マジカル少女エキス?!何だその名前頭おかしいんじゃねぇの!?」
「何もおかしくはない。体を魔法少女にする為に必要なエキスでワシの作った中でも最高傑作じゃ」
「やっぱ、頭おかしいじゃねぇか!てか、大量に必要な物ってなんだよ?それがあれば本当に男に戻れるのか?!」
肩を揺さぶりながら尋ねると、重々しく口を開く。
「それはな……」
先程と違う雰囲気に思わず生唾を飲み込み、老人の言葉の続きを待っていると、人指し指と親指で輪を作り残りの指はぴんと伸ばし、こちらに顔を近づけて言った。
「お金じゃ」
次の瞬間に俺の無言のビンタが老人の頬を打った。
「ありがとうございます!」
叫んで床を転げ回る。
「開発費じゃよ、開発費で必要なんじゃよ!」
「何がお金じゃ、だ。散々溜めやがって。いくらだ!いくらあれば俺の体は元に戻るんだ!」
老人の体を揺さぶろうとするが、身長が足りないので揺さぶれずに老人の腰元から見上げる形になる。
「その見上げる感じ、悪くない!よし!最高!」
「おらぁ!」
思い切り、足を上げ老人の股間を蹴り上げる。
「普通に痛い!」
床に足をつき声にならない声を出しながら呻くことしばし、やがて産まれたての子鹿のような動きで立ち上がると、近くの机から電卓を取って金額を打ち込む。
「大体、これぐらいじゃな」
「え?」
もう一度、目を凝らしてよく見るが金額は変わらない、それどころかはっきりと目に入る。
「高すぎるだろ、おい」