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序章

勢いで書いているので、更新は不定期です。

 青の英雄が死んだ。

 戦士の村が消えた。

 そんな噂を耳にした。


「本当なのか、それは」


 俺は酒場で、隣に居た獣人ミロタウロスの服を掴んだ。通称ミロは、俺の剣幕に牛顔を狼狽の色に染めている。

 彼は身長を3メートルを優に超える筋骨隆々な男だ。見た目と裏腹に心優しい良い奴だと、俺はよく知っている。

 そんな友人を、俺は宙に吊り上げんばかりに掴んでいる。

 俺は身長175センチだが、ミロの胸元の服を支点に、彼の巨体を僅かだが持ち上げた。

 酒場に居た他の連中が、俺の顔を見てひっと声を鳴らす。恐らく今の俺の顔をみれば、歴戦の戦士でもちびるだろう。

 ミロはまともに殺気を浴びて、牛顔に冷や汗を垂らす。


「ほ、本当だ。目撃者と何人か話したんだ、間違いない。急いでリザに伝えるために、ここに来たんだよ」

「……そうか。すまん、苦労をかけたな」


 俺はミロを下ろした。ミロは、リザって怒ると怖すぎだっての、と言いつつ粗雑な椅子に座った。俺も座る。

 酒場の空気が元に戻り、喧騒が戻ってくる。

 ミロは適当に酒とつまみを頼んだ。俺は水だけを頼む。

 

 品を待つ間、先ほどのミロの言葉を反芻した。

 ……青の英雄、か。

 そう呼ばれるほど有名な奴は一人しかいない。いないが、信じたくない。

 俺の、大切な人だ。

 

 店員が怯えつつ、酒と水、つまみを運んできた。

 ミロが酒をすすめてきたが酒を飲む気にはなれず、冷たい水を煽る。少しばかり落ち着いたところで、俺は口を開いた。


「で、噂は本当だってのは分かった。……いつの話だ?」

 

 実を言うと、まだ疑っている。否、信じたくない。

 あいつが死ぬなんて、ありえない。


「半年程前だときいたな」

 

 半年前?

 半年前に、何か起きただろうか。 

 記憶をさぐろうとすると、ミロは首を振った。


「サタンの領地の近くの話だ。ここは無関係に等しいさ」

「……」

 

 サタン。

 ありとあらゆる魔族(ミディアン)を統ベる王だ。魔族は昆虫以下から人に近いものまで様々。共通点は、人に害をなすところか。

 サタンは強大な力を持ち、非常に賢く不老不死のチートじみた奴だそうだ。

 が、100年前に戦争を起こして以来何もしていない。戦争の理由は人を殺したいという最悪なものだが、人間側が一人の生贄を捧げたところ、すぐに終戦へと向かったそうだ。ちょろい。

 以来定期的に生贄を捧げることで、戦争を起こすのを思いとどめさせているそうな。

 そんなちょろいサタンは、この大陸の最北東に根城を構え、周囲を統治しているらしい。

 

 それで、サンペスタ国との国境ともいえる場所に青の英雄が住んでいた戦士の村があり、俺達は遥か遠い上砂漠を挟んだ南西のメリディエス国に居る。

 頭の中で地図を思い浮かべて、ため息をつく。

 遠すぎる。

 いくらなんでも遠すぎる。

 8ヶ月で辿りつければ優秀な方だろう。

 だが。


「なあ、ミロ。砂漠を越えるのに何日かかった?」

「2ヶ月。これでも急いだつもりだ。途中に集落もあるし、意外と楽だったぞ」

「めっちゃくちゃ早えじゃねえか……」

 

 ミロは、見た目通りタフだ。それを今目の当たりにした気がする。

 タフなのだから、大丈夫だろう。

 今から頼むことも。


「ミロ、サンペスタ国へ行こう」

 

 たった3日前に砂漠越えをしてきたミロは、牛面に苦笑をうかべた。

 仕方ない、とばかりに。

 俺は塩辛いつまみを口にほおりこみ、にやりと笑った。

 相当な悪人面になっていると思う。


「悪ぃな、あっちに着いたら旨い酒おごってやるから」

「そりゃ、魅力的だ」


 

 数日後、俺達はその町から出発した。



***



 騒がしい。

 ぴくり、と座ったまま眠る少女の瞼が震えた。

 ゆっくりと目を開ける。

 背後から夕日の赤い光が差し込んできている。

 いまは、黄昏時か。

 はっとする。

 いけない。眠ってしまっていた。

 少女は、大きな十字架に預けた背中をゆるゆると起こし、立ち上がった。


 ああ。

 騒がしい。


 眼前を埋め尽くすは無数の墓。

 背後には5メートルもあろうかというほどの、巨大な十字架。その先には、断崖絶壁。

 切り立った崖に、無数の墓があるというわけだ。


 じわり、と。

 森の奥から滲むように。

 今日も奴らはやってくる。

 彼女は墓守。 

 死の匂いにつられてくる魔族(ミディアン)どもから、墓を守るのだ。 


「低俗な獣どもめ」

 

 吐き捨てる。

 彼女の周囲の空気がぐにゃりと歪んだ。

 

「墓には、触れさせない」 


 今日も、彼女は墓を守る。

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