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春花粉

作者: 猪口暮露

季節違いですが何となく思いついた物です。


暖かく部屋を照らす穏やかな春の一時。




「ふ…ふ…ふ…」




とある部屋の一室。


そこで、髪の長い女が俯きながら


何かを呟いていた。




「ふ…ふ…ふぇ…」




女の周りにはくしゃりと丸められた


紙が幾つも幾つも散らばっている。




「ふぇ…ふぇ…ふぁっ…」




俯いた女の髪の隙間から見える肌は、


真っ赤に染まっていた。




「…ふぁーっくしょい!!」



堪えられずに出たくしゃみ。


女は花粉症であった。




ずるる…、と鼻をすする音を立てながら、


花梨はティッシュケースに手を伸ばした。


チーンと鼻をかんで、ティッシュをゴミ箱へ投げ捨てる。


…が、それはゴミ箱の縁に跳ね返り、床にぽとりと落ちる。


同じようにしてできたティッシュの塊が花梨の周りを囲んでいた。




「うーー…春なんてキライだぁあ…」




毎日のように思う台詞をまた今日も呟き、


花梨はすっかり赤くなった目をこすった。




のど飴を口内でころりと転がしマスクを装着。


もちろん薬も飲んだ。


花梨は万全の体制で外へと足を踏み出した。




春の日差しは暖かく、ぽかぽかしていてなんだか眠気を誘われる。


ふわぁ、と欠伸を漏らしながら花梨は目的地へと向かっていった。




その日は入学式。


在校生である花梨は早めに学校に行かなければならなかった。


校門を通りすぎれば、風にのって校庭の桜並木から花びらがはらはらと舞い落ちてくる。




「…キレイ」




桜吹雪に一時目を奪われていた花梨だったが、鼻の疼きにあえなく撤退せざるを得なかった。



…これだから春は嫌なんだ。



沢山の花が咲く春にその花をめいっぱい愛でる事が出来ない。


花が好きな花梨にとって春はなんとも辛い季節なのだ。





「…これにて、平成○▽年、入学式を終わります一一一一、一同礼」



長ったらしい校長のお話、それから校歌斉唱、それからそれから。


長かった式が終わり、

花梨はもうあとは帰るだけの状態だった。



「かーりん、今日遊べない?」



「…ごめん、今日は家の用事があるんだ」



これ以上花粉の飛び交う外になど居たくもない。


友達の誘いを断り、行きより酷くなった症状を堪えながら家へと向かった。




その帰り道。


花梨は大きな杉の大木の前を通り過ぎようとしていた。


花粉は花梨の大敵だ。


その中でもスギ花粉は更に相性が悪い。


そそくさと早足でその場を去ろうとした花梨の耳に、「ねぇ、君」聞き慣れない男の子の声がした。




「…?」




足を止めてきょろりと周りを見渡したが、自分とこの大木の他は誰も居ない。




「まさか…このスギが喋ったの?」



「んー…ちょっと違うかな☆」



「へっ?」



「ボクは花粉の精霊なのだ!」



「うわぁぁあ!?」



ポンっと軽い音と共に目の前に小指ほどの男の子が姿を現した。



「はろー!ボクはスギ花粉の精だからぁ…うーんと……スーさんって呼んでね☆」



ふよふよと目の前を漂うソイツはすいーっと私に近づくと、片手を挙げて元気に挨拶した。



いかん、鼻が疼く。



「は、離れ…ふぇっ…ぇえーくしょい!」



「ふおおおぉっ!?」



スーさんとやらは私のくしゃみでどこかへ飛ばされていった。



…花粉症、ツラい。





「まったくヒドい目にあったよ!

こんな小さくて非力なボクを吹き飛ばすなんてさ?ありえないよ!ぷんぷん!」



家に帰った私の目に入った光景は、それこそ有り得ないものだった。


先ほどの自称花粉の精が、居た。


それだけならまだ良い。


その精はふかふかのソファーに埋もれながら、テレビを見ていた。



…そもそもどうやって電源をつけた!?



時々ぐすっと鼻をすすっては、顔を腕で擦っている。



「…?」



ちらりと覗いたテレビには、


ドラ●もんが映っていた。



「ぅぅぅ…主人に尽くすなんてなんていいロボットなんだ…ぐすっ」



…人外の感性はよくわからん。




その後、私に気付いたスーさんは、

酷い涙声で顔を真っ赤にしながら先の言葉を言った。


「まったくヒドい目にあったよ!

こんな小さくて非力なボクを吹き飛ばすなんてさ?ありえないよ!ぷんぷん! 」



「…なんで戻ってきたの…?」



「それはさぁ…

ほら、ボクってとってもいい精だからさ?


花粉に悩む君を放っておけなかったってゆーか?」



「…つまり?」



ひらりと近づいてきたスーさんを

手のひらで押し返しながら尋ねた。



「君の花粉症、治したげる☆」



 ………。



「ほ、ほんと!?」



「うん、まじまじー☆」



「わーーい!」




…なんて喜んでた時期が私もありました。




え?



なんで過去形かって?



それはさ……?











「よし、じゃあ今から君にあるモノを持ってきて欲しいんだ☆


薬を作るために必要不可欠な物だよー」



「うん!任せ……………え?」



スーさんに渡された紙に書いてあったのは。



 ーーーーーーーーーーーーー

 ¦  ☆用意するもの☆   ¦

 ¦             ¦

 ¦ ●友達の縦笛      ¦

 ¦ (上の部分のみ)    ¦

 ¦             ¦

 ¦ ●校長先生の彫像の欠片 ¦

 ¦             ¦

 ¦ ●担任のヅラの髪三本  ¦

 ¦             ¦

 ¦ ●母ちゃんの怒鳴り声  ¦

 ¦             ¦

 ¦ ●弟のエロ本      ¦

 ¦             ¦

 ーーーーーーーーーーーーー



…ほわい?  



「えっ、ちょっと待てスーさん」



「なっあにー?」



「何このチョイス!?

そもそもそれで何つくるつもりなの!?」



「えー?薬とは何のカンケーも無いよぉ?やっぱタダでするとかこの世の中そうそうあまくないですしー?ソレくらいの度胸見せてくれるよね?ねぇ?」

 


「……。」



スーさんは、

そう言って意地悪げに笑った。




…どこか良い精?






【結局スーさんの提案を諦めた私は今日も花粉に悩まされる毎日を送っている。


あの日以来スーさんに会っていない。


あれは、私の願望が見せた幻だったのだろうか?】




…なんて事はなく。



「やっほー花梨!遊びに来ちゃったよっ☆


ドアをあけてーっ!」



「開けんでも

あんた勝手に入ってこれるでしょーが」



いつの間にかすっかり我が家に居着いたスーさん。


ドアを閉めても窓を閉めても入ってくる。


花梨はもう追い出す事を諦めていた。



「はぁ…」



「知ってるー?溜め息つくとシアワセが逃げるんだよ☆」



「…誰のせいだと?」  






その後、花梨はスーさんが付きまとってたおかげで結果的に花粉への耐性が付いたとか付かなかったとか。








       「終ーわりっ☆」





最近私の鼻もムズムズする。


これはきっとスーさん達のせいやもしれん。

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