表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/38

僕と子猫と二人の幼なじみ

方針上仕方のないことといえ、増え続ける登場人物どうしよう

 僕には幼なじみが二人いる。

 ひとりは、夕陽。同い年の男。

 そしてもう一人は、綺月。ひとつ年下の女のコ。


 僕と彼と彼女の付き合いは、かれこれ幼稚園時代にまで遡り、その付き合いは長い。

 そしてその関係は変わらず続いていて、きっとこれからもずっと変わらないままなのだろう。

 七月頭の、夏の入り口の夕方。

 夕焼けの空を見ながら、僕はそんなふうに思った。





 と、そんな感じのことを口にしたら綺月にものすごい勢いで蹴られた。

 まさか地面を三回転半することになるとは。しかも縦に。首が折れなかったのは奇跡というほかない。しかも巫女服で袴姿だというのにその奥を見せるようなサービスは一切なし。完全に蹴られ損だ。


「ふう……ああ、痛かった」

「いや痛かったで住むような転がり方じゃなかったぞ今のは……」

「まあでも結果的には無事だったわけで」

「結果的には、な」


 夕陽が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。まあ、心配してくれるだけありがたい。

 僕を豪快に蹴り飛ばした本人はというと、自分の仕事に戻ってしまっていた。とはいえ、その手つきは荒い。やれやれ。

 僕は天地逆さまの状態で木を背中にしている状態だ。この木がなかったらもう何回転していたことやら。

 ひょい、と両手で体を持ち上げて、逆立ち。ゆっくりと足を下ろす。

 あたたた、ちょっと腰に来てるなこれ。

 結構な距離を飛ばされたようで、本殿の階段に座っていたのに社務所の奥の森の入り口まで飛ばされていた。相変わらず素敵な脚力の持ち主だ。


 立ち上がって、神社の境内を掃除する綺月へ近寄る。

 先程も言ったように彼女は巫女服を着ている。これはコスプレではなく、きちんとその役職を全うするための服装に過ぎない。

 彼女の父親がこの神社の神主をしており、彼女はその手伝いをしているというわけだ。

 腰まである栗色の髪を頭の後ろで赤い紐でまとめている。背丈は涼莉が人の形をとったときと同じくらいなので、同年代の中でもやや小柄といったところ。

 神職としての自覚があるためか動きの一つ一つが洗練されているのが特徴だ。

 とはいえ、その中身はあくまで歳相応の女のコ。男には決して理解出来ない感情が渦巻いているわけでして。


「ええと、綺月? 一体何がそんなに気に触っ」

「あん?」

 返ってきたのは鋭い眼光。

「なんでもないです……はい」

「お前、弱」

 後ろから着いて来ていた夕陽が僕にだけ聞こえる声でささやいた。

「そう言うのなら夕陽が聞いてきてよ。綺月が怒った原因」

「バカ言え! 今の綺月に俺が近づいてみろ。これ幸いと地面に顔面から埋められるに決まってるじゃねーか!!」


 ああ。あったね、そんなことも。

 というか、僕よりも不思議だよ、なぜ君が未だに生きているのか。

「さて。とはいえ綺月がなぜ怒っているのか、解明できないことには謝ることもできない」

「そうだなぁ。あいつ、とりあえず謝ったらメチャクチャ怒るもんな。そりゃあしっかりしてる部分ではあるけどよ、こうなると厄介だよなぁ」

「そうだね。その上、怒った事についてヒントもなしだし」

 割と理不尽だけれどよくよく考えたら僕の周りにいる女性はほとんど例外なく理不尽な気がする。誰とは言わないけれど姉さんとか。姉さんとか。姉さんとか。まあ姉さんは姉さんだからいいとして。

「いずれにせよ、あいつの機嫌をなおさん事にはこの神社を無事に出ることもできねえか」

「だねえ。無視して帰るとのちのち怖いし」

 女性を怒らせると怖い。そのルールを適用するのに、年下だとか幼なじみだとかは関係ない。むしろ幼なじみだからこそ容赦なく報復されることさえある。けれどちょっとまって欲しい。これは果たして報復と呼ぶべきなのだろうか。むしろ報復するは我にありなのでは。いえ、しませんよ。しませんけどね。別に綺月の持つ能力とか加護が怖いわけではなく。

 まあ僕の思考の暴走はさて置いて、彼女の報復は地味に効く。報復は手早く的確に、さらに他人を巻き込まないあたり律儀で誠実だ。報復という行為の是非はさて置いて。置いてばかりだな僕。そのうち一時退避メモリがいっぱいになりそうだ。なのでさっさと問題を片付けるとしよう。



「ということで」

 場所を移して本殿の裏。時間と方角の関係で日は当たらないけれど、今日は少し暑めなので過ごしやすい方だ。

 表は相変わらず綺月が掃除にならない掃除をしているし、何よりも秒速で駆け抜けるプレッシャーの肥大速度が止まらない。即ち僕らの胸のドキドキも止まらないああどうしてくれようこの胸の高鳴り。

 命かかってるおふざけはこれくらいにしよう。綺月の気の高まりに呼応して回りの木々もざわついているし蝉の鳴き声も止まってしまっている。やべぇ超ヤベェ。

「綺月が何に怒っているのか、それを突き止めて和解しようと思います」

「そうだな。謝罪するかどうかはまだわかんねえし」

 謝罪を強要しないのは美点のはずなんだけれど、考えを汲み取ることを強要するくせはいい加減直して欲しいと思う。チャームポイントといえばそうなので、その部分が完全になくなると寂しい気もするけれど、命は賭けたくない。

「でも正直、僕としては彼女の気に触るようなことを言ったつもりはないんだよね」

「まあ俺もそう思うぜ。けどあいつがいきなり怒るのなんていつもの事じゃねえか。ほら、先週も俺、いきなりポストに頭突っ込まれたしさ」

「あれはどう曲解しても夕陽が悪いよ」

「えー」

 えー、じゃねえよ。

 好奇心で宝物庫の鍵をいじるとか馬鹿か。小便かけて錆びさせようとか阿呆か。しかもどう頑張っても開かない事を社務所の休憩所でお茶を飲んでいた僕と綺月相手に愚痴をこぼすとかもう言葉もない。


『あんたはせっかくいい雰囲気だったのにそうやってばかみたいな事をばかみたいにこのばかばかばかー!!』


 確かにあの日は夕陽が和室を染めていい雰囲気にしていた。それをブチ壊しにされた怒りは僕も大変理解できる。

 ちなみに逆上錯乱して結構いい具合に骨格歪めたオブジェを前に涙を浮かべる綺月は、僕の中のサディズムをいたく刺激した。

 さてまた置くよー、僕の性癖とかどうでもいいものについてはとにかく遠くへ置いとくよー。


「とにかく、僕の発言の何かが、彼女の中の地雷を踏んづけた事は間違いがないんだ。順番に考えていこう」

「ああ、そうだな。だけどな、順番つってもそのステップが少ないあたり俺は既に絶望してるぜ」

 夕陽が遠い目をする。そんな表情もキマって見えるのはもはや嫌味かとさえ思ってしまう。

 まあとにかく、最初から考えてみよう。





 僕ら三人が集合するのに場所もルールも制限はない。時にはハイキングコースの頂上に自由な時間に集合、勝手に解散なんてこともした。

 とはいえ、比較的多く使われる場所も当然あって、綺月の家であるここ、通津水城神社はそのひとつでもある。

 集まった理由はなんとなくで、学校が終わってそのままの流れでなんとなく集合。綺月はさっさと着替えて家業の手伝いを始め、ふたりでそれを眺めながらなんとなく雑談をしていた。

 巫女装束をまとい神社の参道を掃除する綺月は、なんというか、とても絵になる。似合っているというよりはハマっているという言葉で表すべきだろう。彼女が神社という空間に、すぽりと違和感なく一体化しているように感じるのだ。あるいはそれは、彼女を守護する神々がそう魅せているのかもしれない。

 それは昔からずっと変わらない。出会った最初の最初から抱き続けた印象だ。ここにいる彼女が『本物』なんだと。

 だからだろうか。なんとなく、僕の話題は昔の事、そして今の事へと流れていき、夕陽もそれに付き合っていた。綺月もたまに、僕らの会話に参加した。

 そうして、あれである。

 長距離の跳躍からのローリングソバット。巫女服でやる動きじゃねえ。さらにいうなら年頃の女の子の行動としても苦言を呈したい。


「会話の流れからして、昔の話が問題だったのかなぁ」

「いや、それだったら最初に止めに入ってるだろ。大体、昔の話をしてぶっ飛ばされんならとっくに俺たち揃って墓の下じゃね」

「そうだよねえ。昔の話なんて気が向いたら出てくるわけだし。となると、時間軸じゃなくて話の内容か」

「つってもただの思い出話中心だよなー。あとはそろそろ期末が近いこととか。ていうかお前最後何話してたっけ」

「なんで数分前の話題を既に忘れてるの……まあいいけど。ええと、最後は」


『なんていうか、十年以上もこうして変わらないんだから、十年二十年先も僕らずっとここに集まってこうして雑談してるのかもね。ずっと何も変わらずに友達同士のままごげぶはぁっ!!』


 最後の意味不明の言葉の羅列は無論首にいい蹴りを食らった衝撃によるものである。意味はない。

「……友達同士が否定されてたら、嫌だね……」

「……ああ、俺らなんざ友人という格付けさえつけられないと……俺なんか割と現実味のある話で結構落ち込むぞ」

 夕刻なので日が落ち始めているけれどそれ以上に僕らの気分がずーんと落ち始めた。いや、やめよう。こんな暗い話は。

「とりあえずそこが問題だったという可能性は除外しよう」

「ああそうだな俺達の心のためにも」

 男ふたりの友情を確かめ合う。うん、ここには何も問題はない。何一つ。うん。これは確信を持って言えるね。

「じゃあ、何が問題だったのかな」

「十年一緒てーのはただの事実だもんなー。となると、十年先二十年先……変わらず……ん?」

 夕陽が何かに気づいたように、片方の眉をぴくりと動かした。

 まさか。

「答えがわかったの、夕陽?!」

「ああ、理解したぜ! なるほどな、確かにこれは解釈によってはあいつの逆鱗に触れたとも言えるだろうぜ! よし行くぜ空、この場はこの俺が引き受けた!」

「おお、こんなに頼りになる夕陽はきっと前世でもいなかったに違いないよ!」

「ははははは! そんなに褒めるなよてれるじゃねえか」

 相変わらず馬鹿だなこいつ。

「よし、待ってろよ綺月! そして空、こいつをさっぱり解決できたら翼さんとデートをさせ」

「埋めようか」

「親友だからな! 無償で当然だ!」

 何故か夕陽が涙目に。どうしたんだろうか。

「目がマジだった目がマジだった目がマジだった目がマジだった」

 小声でブツブツとなにやらつぶやいているけれど聞き取れなかった。



 神社の裏手から表へと回り、綺月の前に立つ。

 綺月はちらりとこちらを見たけれど、相変わらず掃除を続ける。続けるけれどそれ集めては散らかしての繰り返しで掃除になっていない事にそろそろ気づいたらどうだろうか。

 不機嫌オーラを撒き散らす綺月の背中に向かい、夕陽が歩く。

 僕は少し離れたところからそれを見守っていた。

 赤い陽射しに照らされた境内を、まっすぐに、綺月に向かう。

 夕陽。その名前そのままの太陽の光を浴びて、月の名を持つ少女の背中に、両手を組んで両足で大地をしっかりと踏みしめて、仁王立ちの彼は。


「大丈夫だ綺月! お前の身長も胸もまだまだせいちょおおおおおおおおおおお!!!!!」


 引きずり倒されて襟首を掴まれて自分より頭二つ分以上小さな少女に引きずられて階段から突き落とされた。ちなみに神社の階段は百段以上ある。声は瞬く間に小さくなっていった。

 あとに残されたのはより重くなった空気と僕と綺月のふたり。


 ええと。


 なんて事してくれやがったあの男。絶対に許さんぞ、生きていたらじわじわとなぶり殺しにしてくれる。


 意外と余裕あるな僕。いやテンパッているだけか。

「ええとね綺月今のは別にふたりで出した答えとかじゃなくてね」

「空」

 なんでしょうか。

「……やっぱり、小さいと、だめなのかなぁ」

 耳まで赤くしてこちらに背中を向けたまま座り込んだ綺月はそんな事を言った。

「………………」

 えええええええええええええ……。

 夕陽のヤツはまた随分と扱いの難しい爆弾を置いていってくれたな! そのまま逝ってしまえばいいのに!

「……だめ?」

「ああいや、えっとね?」

 反応のない僕に不安を覚えたのか、ほんの少しだけ顔をこちらにむけてきた。けども。

 どうしよう。正解がわかんない。

「だからその、なんていうかなぁ」

「……空ぁ」

「ぐ……」

 年下の女の子。それも幼なじみが泣いているというのは色々とどうにかしようという気持ちにさせるものがある。とはいえ女の子の慰め方なんて僕にはわからない。男子中学生にそんな事を求められても困るのだ。

 けれど何も言わないというわけにもいかない状況。

「べ、別にそんな事気にすることないんじゃないかな。ほら綺月は綺月なんだし、別に無理に大きくならなくてもね? いや別に大きくならないって言っているわけではなく。別にだめとかいいとかそういうことでもないんじゃないかなー、と」

 ああ、なんだろ。

 自分でも何言ってるんだかわからなくなってきたんですけど。

 あれ?

 えっと?

「……空は」

「うん」

「おっきい方が、好きなの?」

 ……おい。

 なぜそこで僕の性癖の話になる。

 というか何がだ。身長か、胸か、両方か。

「どうなの?」

 涙目と赤い顔のコンボはなかなかに破壊力が高い。なにこの可愛い生き物。

 整った顔立ちは美人になるだろうと思わせるけれどやはり幼さが先に立ち可愛らしい印象だ。

 なんて現実逃避している場合じゃないよなー。

「ええと……まあ、大きいなら大きいなりに小さいなら小さいなりに?」

 なぜ疑問形だ僕。

 当然綺月も訝しげ。

 しばらく視線をぶつけ合っていたが、やがて綺月は立ち上がる。どこか切羽詰まった表情のまま、まっすぐに僕を見て目の前までやって来た。なぜか両手のひらを胸に当てているけれど理由はわからない。わからないったらわからないのだ。

「ええと、空。それじゃあ、それじゃあね、その、なんていうか」

「う、うん?」

 夕陽で瞳まで赤く染まった顔がめのまえに。息のかかるほどの近くに。

「空は、わたしを……」


 深い色を宿した瞳に、飲み込まれそうになる。



 その瞬間。


 僕らはばっとその場を飛び退いた。僕らが一瞬前まで立っていた場所に、小さな黒い影が凄まじい勢いで着弾した。

 どん、と土煙が上がる。

 その土煙が晴れると、そこには。


「出たわね、化猫!」

「にゃあ」


 後ろ足で耳の後ろを掻く涼莉がいた。

「……もう何が何だか」

「何のようかしら化猫。あなたにこの場所へ入る許可を与えたつもりなんてないわよ」

 辛辣な言葉を向けられた涼莉はふん、と荒い鼻息をひとつ吐いて、くるり、とその場で大きく宙へとジャンプ。

「涼莉がどこかへ行くのにあなたの許可なんていらないの、巫女娘」

 いつものワンピースをまとった少女の姿へと変じた涼莉が反論した。

「そうね。でもここはわたしの領域だもん。あなたを入れる許可はわたしがだすわ」

「ぷいっ」

「ひ・と・の・は・な・し・を・き・き・な・さ・い!」

「にゃあああっ!!」


 猫娘と巫女が取っ組み合いを始めた。

 耳を引っ張ったり頬を引っ張ったりしっぽを引っ張ったり袴を引っ張ったり。

 まあ。

 結構和む。

 たまにきわどい高さまでまくり上げられるスカートや袴からはちゃんと視線を逸らした。いや、まあその。欲求はあるんですけどあとが怖いので。


 とりあえず空気がぶち壊れたのは助かった。

 なんというかよくわからないけれどあの空気はまずかった。何がどうまずかったのかはよくわからないけれど。

 しかしなんというか、このふたりは相も変わらず仲が悪い。顔を合わせるたびにこんな感じだ。そのくせよく顔を合わせるというか相手がいるところに顔を出す機会が多い。

 僕と涼莉が一緒に出かけていれば綺月とばったり出会うし、僕と綺月がこうして一緒にいるとどこからともなく涼莉が突っ込んでくる。偶然とは恐ろしいものだ。



「この……いつもいつもいい加減にしなさいよね、この猫娘……!!」

「いい加減にするのは巫女娘なの……! ママの弟に変な虫は近づけにゃん!!」

「こっちはかれこれ十年以上幼なじみやってるのよ……、あなたにどうこう言われる筋合いはないもん!」

「ふ……ただの(・・・)幼なじみは黙っているのね。涼莉は家族として一緒にいるの」

 いらっ。

「へえええええ。そうだよねえただの(・・・)家族だもんねえええええ! どこからどうみても兄妹みたいだもんね!」

 むかっ。

「このっ」

「くぬっ」

 がしぃっ。



 一体何があのふたりをあれほど駆り立てるのか。

 世の中は不思議でいっぱいだ。



「ちびっ子は家に帰る時間でしょっ」

「むーっ! あなただって涼莉とそんなに違わないのっ」

「あ、あなたよりはおっきいもん!」

「? どこを見てるの?」

「そうよ、別に今はまだ……でもこれから先、もっと大きくなるもん……っ」

「み、巫女娘?」

「う、ううううう……」



 二人の動きが止まった。

 どうしたのだろうか、と見ていると、いきなり綺月がこっちを振り返って、涙目で。


「空のおっぱいマニアーーーー!!」


 うわあああぁぁぁぁぁん……。

 叫びを残して社務所の向こうへ消えていく。自宅へ戻ったのだろう。


 いや。

 ていうか。


「ええええええええええええええええええええええええええええっ?!?!」


 なんか不名誉な称号を送りつけられた!

「な、何、どういう変化球?!」

 意味が分からない。状況が理解出来ない! そして涼莉がすっごい冷たい目でこっち見てる!!

 やめて、そんな目で僕を見ないで!!

「……空」

「涼莉、違う! なんかよくわからないけれど、途轍もない、途方も無い誤解が生じている可能性がある! だからその蔑みの瞳をやめて!!」

 と言っても涼莉の視線は冷たいまま。

 混乱する僕の肩を、だれかがぽん、と叩いた。振り返ると、ボロボロになった夕陽が立っていた。そういえば居たなこいつ。

 夕陽はびしっと親指を立てて、きらんと白い歯を輝かせて。


「おっぱい……最っ高おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ」


 僕は突き出した両手を下ろした。

 夕陽はもういない。階段の下の方からなにやら声が聞こえるけれどここからでは見えないので正体はわからない。


「……空」


 背中から届いた冷たい声に冷たい汗が流れる。


「今日は美味しいご飯が食べたいの」

「あ……うん、がんばります……」


 しゅたっ、軽い地を蹴る音がした。

 振り返ると僅かな土煙を残して涼莉の姿は消えていた。



 この日僕はおっぱいマイスターの称号を得たけれど、返上するのはとても大変だったとだけ言っておく。

 夕陽ェ……。











 おちというか、おまけなの。


「巫女娘、なにしてるの」

「う、猫娘。あなたいい加減に勝手に窓から顔を出すのをヤメなさいはしたない。下から見たらスカートの中丸見えよ」

「涼莉は猫娘だけど涼莉なの。ついでに猫娘じゃなくて猫又なの」

「どっちえも一緒だー。あー、もー。ていうか忠告無視かよー」

「いくら自分の部屋だからってだらしない姿なのね」

「自分の部屋でどんな格好しようが勝手でしょー」

「……空が一緒の時はそんな格好しないのに」

「空は関係ないもん!!」

「涼莉は人の嘘はわからないけど、巫女娘の嘘だけはすぐにわかるの……あなた、嘘がとっても下手なのね」

「分かってることをいちいち指摘しないでよぅ……ていうか何かようなの?」

「あなたの間違いをただしにきたの」

「間違い?」

「にゃ」

「なに、それ?」

「あなたが何を怒っていたのかはよくわからないけれど、空が何かにこだわるとしたら……そんなの、ママの事に決まってるの」

「……あー、そうねえ。空ってばシスコンだもんねー」

「つまり、にゃ」

「空はおねーちゃんマニアてことだよねー。……ていうか前から思ってたんだけど勝ち目あるのこれ?」

「にゃぁ……」




 翌日。

 よくわからないけれど、綺月はいつもの調子に戻っていた。ついでにいうと蹴ってごめん、と謝罪もしてきた。

 涼莉とは相変わらずの調子だけれど、まあそれも含めていつものとおり。


 結局よくわからなかったなぁ。


空がどんどん変態になっていっている気がする。

あとこの話だとただの乱暴者ですが、綺月はいい子です。きっと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ