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僕と姉さんとまっくろシスター



 古着や読み込んだ小説、マンガ、ライトノベルなどをダンボールに詰めていく。

 本日七月の第一土曜日はフリーマーケットで、僕ら姉弟も参加することになっているのだ。

 開催場所は一周五キロのランニングコースもある大きな公園。コースはぐるりと公園を大きく一周する形になっていて、そのなかは遊歩道やちょっとした遊具、噴水まである芝生の広場になっている。

 フリーマーケットとして利用されるのはその広場だ。



 ちなみに。

 僕は現代の中学三年生らしく、適度に自堕落だと自覚している。なのでこういうイベントには何か理由でもない限りは参加しないのが常だ。

 だから僕がなぜフリーマーケットに参加することになったのかといえば、それには当然理由がある。





「そろそろ要らない物をどうにか整理したいねー。と思ったので、フリーマーケットに参加することになりました」

「え?」

 二日前。夕食時。

 姉さんの突然な言葉に、僕は味噌汁をかきこむ手を止めた。

 前兆も脈絡もないのはいつものことなのだけれども、それでも驚くことは驚く。

「ほら。今度の土曜日、公園であるでしょ? それにお店を出すのよ」

「ふうん。まあいいんじゃないかな。正直、父さんが送ってくるガラクタの置き場所もなくなってきてることだしね」

 父さんは考古学者を自称しているけれど、なんというか、あのひとを考古学者と呼ぶのは全世界の同業のひとに非常に申し訳ない気持ちになる。なので僕は弄古学者と呼んでいる。弄繰り回す学者様。

 世界中を自由気侭に駆け回る父さんは、その先々で目にしためずらしい物を、これでもかとうちに送りつけてくるのだ。さすがに勝手に捨てることもできずに、父さんの部屋に積み上げているけれどそれもそろそろ限界。

 不用品は整理しても問題ないだろう。前回帰ってきた時以前のもので放置されている物ならば、処分しても特に問題はないはずだ。

 そろそろあの部屋もガス抜きをしないと、また変なモノが沸いて出てきかねない。


「じゃあ空、お願いね」

「え?」

「じゅーんーびー」

「……え?」


 いや。そんな机をぱしぱし叩かないで。

 言いたいことは理解していたけれども、そこで素直に納得してしまったら負けだろう。

 姉さんも僕の意図を見抜いたのか、ぷくっと口をふくらませた。姉さんの場合そうやってむくれても可愛らしさが幾何級数的に増大するだけなのでこちらとしてはむしろ得なのである。

 とはいえ姉さんを甘やかしてばかりもいられないので、さすがに断固とした態度をとらなくてはならない。

 あと、土日はのんびり寝たい。


「もう、空ってば、何が不満なの? こんなにおねーちゃんがお願いしているのに」

「いや……だって父さんの部屋だよ? さすがに僕の手には負えないよ。あんな危険な場所」

「そんな危険な場所をお姉ちゃんに掃除させようっていうの。ひどいよ、空」

「……その危険度を増大させたのは、僕の記憶が正しければ姉さんだったと思うんだけど」


 あやしいアイテムのあれこれをシッチャカメッチャカかき混ぜて異空間を生んだのは記憶に新しい。最近は近所の銭湯の煙突の上に住んでいる何でも願いを叶えてくれるアレも、その異界の扉の向こうからやって来たのだ。掃除中に間違って未来の殺戮兵器を呼び出してしまったときは本当に肝が冷えた。

 そういった非常事態――非常識事態に対応できるのは我が家でも姉さんくらいのものなんだけど。


「じゃあ、当日はお弁当を作ってあげるから! ふたりで食べよう!」

「む」


 姉さんお手製のお弁当か。うう、確かにそれは食べたい。とても食べたい。

 いやしかしそれで命を賭ける? いやいや、僕だって命は惜しいのだし。


「空ぁ……」

「――――ああもう、わかった。わかりました。僕が荷物をまとめます」


 しかたない。姉さんの料理を初夏の陽射しの下で食べられることは確かになかなか貴重な体験だ。諦めて軍門に下るとしよう。

 念の為に断っておくけれど。決して涙目で上目遣いになった姉さんの表情に押されたわけではない。決して。


 なぜか涼莉がじとっと、ましゅまろも( ゜д゜)な表情で見ていたけれど、理由はよくわからない。





 姉さんの不用品は小さなダンボールにひとつ分。僕のはそれより少し多い。

 そして父さんの部屋から出土した不用品はダンボール三つ分。

 詰め込んでいる間に銀河が三つくらい新しく誕生してしまったのはご愛嬌といったところか。いやはや肝が冷えた。

 さて。荷物をまとめたのはいいけれど、こうして見てみると問題が。

「これ、どうやって持って行こう……」

 量、重さ、共にそれなりの量になった事に頭をかかえるほかない。と、悩んでいると携帯が鳴った。この着信音は姉さんだ。

 ちなみに、姉さんは軽い荷物を持って先に出ている。


「もしもし。どうしたの、姉さん?」

『うん、荷物の方はどうかなって気になって』

「それが、結構な量になって頭を抱えていたところ。さすがに今から往復していたら時間がなくなっちゃうし」


 そもそも会場までコレを運ぶのが相当な重労働ではなかろうか。

 はて。もしかして僕、ものすごく面倒なことになっていないか。

 しかし、そんな僕の考えを姉さんは見抜いていたかのようだった。


『やっぱりねー。そう思って、お迎えをお願いしたわ。マンションの一階まで全部運んじゃって。すぐに付くはずだから』


 それじゃあねー。

 と言って、姉さんは電話を切った。

 はて。迎えとは誰のことだろうか。さすがにここで人外魔境をよこすようなことはしないだろうと思いつつ、どんな人外魔境も姉さんにとってはちょっと変わった特技を持ったひと、という扱いになることを思い出した。

 ここで魔王様とか呼ばれてもちょっとなぁ……。

 二年前にひっそりと世界はピンチになっていたんだけれど、まあ姉さんとの脱衣麻雀でプライドをズタズタに引き裂かれて、現在は半ひきこもりの生活を送っている。

 基本的に頼みごとなら大抵のことはイヤイヤながらも聞いてくれる気さくな人だ。


 まあ、とりあえず運べばいいか。いちいちかけ直すのも手間だし。

 そう結論づけて、僕は荷物を外に運び始めた。





「いやあ、まさかシスターだったとは思いもしませんでした」

「そうですか? 空君は勘違いしているようですけれど、私と翼ちゃんは別に仲が悪いというわけではないんですよー?

 お困りとあらば手を差し伸べます。それが神の望むことですから」

「本当に感謝しています。けどねシスター、運転中にアクセルべた踏みで両手を離して目をとじてお祈りするのやめてくれないからほら死ぬもう死ぬそこのカーブで僕死ぬよ!!」

 猛スピードでカーブに突っ込んだワゴンはしかし、目をカッと見開いたシスターの鮮やかなドリフトによって甲高い音とタイヤの跡を残しながらそれを乗り切った。


「……え?」

「いや、今明らかに命の危険が迫っていましたから。なかった事にしようとしないでください」

「またまたー。私が空君の命を危険に晒すワケがないじゃないですかー」


 いや。

 まあ運転の腕は信用していますけれども。

 僕が今乗っているのは黒塗りのワゴン車。ところどころに宗教チックな飾り物が転がっているのは、まあ持ち主がそういう人物だからである。

 シスター。

 マリジョア・エスカナーリオ。

 年齢国籍不詳のシスターで、この地区にある唯一の教会に住んでいる。見た目だと二十代半ば以降って感じなんだけれど、質問すると例外なく記憶喪失になるのはどういう事なのだろうか。

 同じ協会に住んでいる神父さんとは仲がいいのか悪いのか、よく追いかけっこをする姿が商店街で目撃されている。この細腕なのに人間サイズの巨大な十字架を持って全力でダッシュしているのだから、人間見た目によらないと思う。その十字架も中々変わった見た目をしていて、十字の交差点にドクロの形の取ってがあったり普段は布で包んで革のベルトで持ち運んでいたりと、なんというか――血の匂いしかしない。

 白い肌と蜂蜜色の髪が神父さんの返り血に染まった姿は恐ろしさと美しさを備えていると地区でも評判だ。



 さて。

 そんなシスターの運転する車が、僕を迎えに来てくれたのである。姉さんが連絡をとったらしいのだけれど、僕の記憶が正しければふたりは連絡先を交換することを心底嫌がっていたはずだ。一体どうしたのだろうか。


「驚きましたよ。番号を見て空君から電話がかかってきたやったーと思ったら、翼ちゃんだったんですからー。私の電話相手に番号偽装とは中々やってくれますねー」

 ちなみに先ほどからシスターの呼んでいる『翼』というのは、姉さんの名前だ。今まで出てこなかったのは単に機会がなかっただけで、伏線でもなんでもないのである。

「ははは、姉さんですから何をやっても驚きませんね。あととりあえず殺気を押さえてくださいシスター。体感で気温が三度くらい下がりましたよ。ついで言うとあんたなぜ俺の電話番号を知っている」


 僕は貴女に電話番号を教えたつもりは毛頭ない。誰がそんな命知らずな真似をするか。


「嫌ですねえ空君。個人情報なんてちょっと工夫すれば簡単に手に入るものですよ?」

「笑顔ですごいこと言った!」

「? お金と暴力で大抵のことは解決できるんですよ? 知らないんですか?」

「そんな常識を説くように言われましても……」

「それに、空君、気づいていますか? 今私たちは車の中にふたりきり。いくら車のドアが簡単に開くとはいえ、この速度では外に飛び出すなんてことは不可能。……うふふ、密室も同然ですね!」

「なぜ今このタイミングでそんな不穏な事を言った!!」


 シスターは。

 服装以上に、中身が黒い。

 無論彼女に僕をどうこうしようという考えなど全くない。あるはずがない。あってはならない。ないはずである。ないと思う。ない……と、いいと、思うんだけれど。


 そんな感じで。

 会場につくまでひたすらに、僕は彼女のおもちゃ扱いだった。



 いやほんと、抵抗しないと何されるかわかんないからさ、この人。





 並べた商品は、なんというかこう。うん。


「これ、売れたら売れたでなんかやだね」

「姉さんそれ思っていたけど言わないようにしていたのに……」


 僕らのスペースは異様な空気を漂わせていた。

 サイズ的には手のひらに収まるものから十五センチほどの大きさのものまで色々。材質も木や革や石やよくわからない何かまで色々。色も、黒や茶色や白、半透明から発光するものまで色々。

 色々な置物がずらりと並んでいた。

 父さんが送りつけてきた謎物品たちである。

 いくつか勝手に空の向こうに飛んでいこうとするものは、紐をつけて別の置物を重石がわりにしておさえている。

 なんかぼーぼーと毛が生えてくる石の像は、定期的に火で炙って毛を焼き払っている。

 そんな細かなフォローが必要な空間になっていた。


「これ売れなかった場合粗大ごみとして回収してくれないかな」

「その場合、焼却炉で新種の生命体が生まれそうだけど」


 なんでうちにはこんな得体のしれないものが眠っているのだか。や、原因は明らかに父さんなんだけどさ。

 まあ。

 売れたら喜ぶ程度で。

 それ以外にも、服とか本とかふつうのものもおいているわけだし。うん。


 というわけで、僕らは並んだ。


「しかし姉さん、もっと早くに話をくれたら良かったのに」

「やーやー。おねーちゃんもいきなりな話だったんだよ」

「うん?」


 妙だな。

 このフリーマーケットは規模が大きいこともあって参加希望者もそれなりに多くて倍率も高めだ。

 当然、飛び入り参加なんて出来るわけもなく、抽選をくぐり抜ける必要があるはずなんだけれど。


「……またなにかしたの?」

「ちょっと空? あなたはどういう目でお姉ちゃんを見ているんですか。ちゃあんと、応募しましたとも。ええ。落選したけどね」

「おい」

「まあまあ。まあまあまあ。話はコレで終わりじゃないんだよ。実はゆうちゃんも応募していたらしいんだよ」

「へえ、そうなんだ。珍しい」


 ちなみにこのゆうちゃんとは夕陽の事である。夕陽はそろそろその呼び方を卒業して欲しいらしいが聞き入れては貰っていない。


「でもなんだかゆうちゃん、急に用事が入ったとかでねー。だから、参加券を代わりにもらったの」

「なるほど。大体の理由はわかったよ」


 しかし夕陽に用事か。なんだかそれはそれで、厄介ごとの気配がするのは気のせいかな。気のせいってことにしておこう。


 そうこうしているうちに、商品が売れていく。

 まず売れたのは、姉さんのお古のワンピースと帽子。次に、僕の小説コレクションがいくつか。

 そして。


「わぁー、あはは、おかーさんおかーさん、これ、おもしろーい」

「え、ええ……そう、ね……?」


 幼稚園くらいの女の子が、謎の置物に興味を示していた。それを見るお母さんの顔はひきつっている。ていうか、ちょっと泣きそうだ。

 まあ、理由はわかる。だって置物の顔が、じっとお母さんの方を見ているのだ。どれだけいじっても、ねじっても、咆哮を変えても上下を逆さまにしても。じっと。

 ただ、それ以外の部分としては確かに子どもの遊び道具になりそうだった。何しろバラバラにしてはめ込みなおすというパズル要素があるのだ。知育にももってこいだろう。


 顔がじっと見つめてこなければ。


「おかーさん、これ欲しいー」

「え、あ、うん……」


 お子様は無邪気におねだりしているけれど、まあ、うん、僕としてはお母さんの気持ちはとても理解できる。だってあいつ父さんの部屋で作業しているあいだじゅうずっとこっち見てるんだもん。たまに光るし。


「うーん、じゃあ、ちょっとそれ、貸してくれるかな」


 見かねた姉さんが手を差し伸べた。

 置物を受け取った姉さんはこちらに背を向けて、なにやらそれをいじり始め。



「おぼごげぎょらあっ?!」



 野太い奇声。

 視線が集まった。


 そんな事はどこ吹く風と姉さんが振り返って、きょとんとする女の子に置物を差し出した。


「はい。もう大丈夫だよ」

「んう? おー。おー? おー! あははははー! おかーさん、これおもしろいよー!」


 置物が。

 なぜか、伸びる、という特性を獲得していた。代わりに、顔がじっと見る事はなくなっていた。



 お値段、三百五十円となりました。





 置物は存外売れた。

 何か問題がある場合は、姉さんがよくわからない処置を施した。何をしているのかは見せてくれないけどその度に謎の絶叫たまに喘ぎ声が聞こえてくるのは正直どうかと。全部男臭い声だし。


 そんなこんなで、恐ろしいことに商品もほとんど無くなって時間もそろそろ終了時刻が近づいてきた頃。


「あらあら〜。おふたりとも、ここにいましたか〜」

「あ、シスター。今日はありがとうございました」

「うふふ〜。いいんですよぉ、私と空君の仲じゃないですかぁ」


 いや。僕とあんたは特別な配慮をもらえるような特別な関係は何一つないよ。そんな命知らずもとい恐れ多い真似しませんよ。

 シスターは僕らのスペースを見回して、うん、とひとつ頷いた。


「前々から思っていたのですが、この街の人たちはなんというか、前のめりですねー」

「それには心底同意しますよ、ええ」


 荷物を運んでいるときは『邪気が、邪気が』と騒ぎ立てていたシスターである。この光景は確かに驚愕に値するものだろう。


「翼ちゃんがまた何かしたんですかぁ?」

「あははー。やだなぁマリィ、そんなあたしがいつもいつも何かしてるみたいな言い方はやめてくださいよー。いや、ほんとにね?」

「うふふふふ」

「あはははは」


 なぜだろう。

 まだ日も高いというのに、全身を寒気が襲うのです。

 このふたりが一緒になると何故かこうなるのはもはやどうしようもない事なのか。世界は争いに満ちている。実に嘆かわしいことだ。

 とか現実逃避していると、シスターがひとつの置物に目をつけた。眼を閉じたオッサンの彫像である。え、なに、こういうのが趣味なのだろうか。


「おやおやー。なんだかこう、すごくこう……邪悪な気配を感じますね。置物としてはまともなのに売れ残っているのはそのせいでしょうかねー」

 今まさか置物としてはまともって言ったかこの人。

「なあにマリィ、霊感商法なら他所でやってほしいところなんだけど」

「私のやっていることより貴女のやっていることのほうが数倍霊感商法じみていますよ? 因果を歪めてまで物を売りつけるなんてそうそうできることではありませんからー」


 ごごごごご。

 間に挟まれる僕の精神がゴリゴリと音を立てて削られてゆく。


「ま。それはそれ。せっかくですのでこの置物を――」

「嫌です」


 ここでまさかというかむしろ当然のごとく姉さん超即答。シスターが笑顔で固まる。

 シスターはやれやれとかぶりを振って、ふ、と息を漏らす。


「ま。それはそれ。せっかくですのでこの置物を――」

「嫌です」


 再チャレンジは二秒で終わった。

 二人の間で比喩ではなく火花が散る。きん、きん、と甲高い音が繰り返しているから何かがぶつかっているんだろう。何かが。その何かは見えないけど。


「だいいちマリィ、そんないかにも物騒な評価を下しているものをどうして欲しがるの?」

「面白いじゃないですか。悪質で、悪辣で、冒涜的で非道徳的。ええ、ええ。そそります」

「ちょっとシスター公の場で年齢制限掛かりそうな発言と顔はやめてくれませんかね」


 泣く子が気絶する。


「あらあら、ごめんなさい。というわけで、下さい。そのまま」

「その発言を聞いたらいくら僕でも売りたくなくなりますよ。ていうかいいんですかそんなの教会に置いて」

「いいんじゃないですか別に。それで怒って神様が降臨するなら儲けもんですよー。信者も増えてガッポガッポです」


 だから。

 そういう黒い話題はなるべく聞きたくないんですけど。


「荷物を運の手伝ったじゃないですかー」


 む、それを言われると弱いな。


「またまたそんな事言ってー。あたしは別に手伝って、なんて言っていません。ただ単に空が困ってるって言っただけだもの。あなたが親切にしてくれたことは感謝するけれど、あなたの下心からの行動に謝意を示す必要は感じ無いわ」

「うふふ、そう言われると困っちゃいますねぇ」


 いや。

 ていうかさ。


「なんか今のやり取りで壊れたよ、置物」

「「え?」」


 いつの間にか――。

 彫像は頭からまっぷたつに割れてしまっていた。おっさんの目から赤い液体が溢れているのはひとまず無視しておくとして。

 どうやら、ふたりの放つオーラに耐え切れなかったらしい。まあ、気持ちはよく分かる。僕の心臓もそろそろ限界だった。


 結局。


 そんなモノを貰っても仕方がないと、結局、シスターはそのまま帰ってしまった。

 なんとも締まらないオチだね、まったく。















 今回のおまけというか、挿話。



「じゃーん! どうですか、おねーちゃんのお弁当は!」

「お、おおお……さすが姉さん、見た目からしてレベルが高い……!」

「最近は空も随分腕を上げているからねー。ここらでひとつ、おねーちゃんの威厳を魅せつけてみようかと」

「ううん、僕も最近はできるようになったと思ってたんだけど、どうやらまだまだだったみたいだね」

「ふっふっふ。これがおねーちゃんの力なのだ。てことで、食べようか」

「うん、そうだね。それじゃあいただきます」

「いただきます」

「……うん、おいしいね、このぶり大根。味がしっかりしみてる」

「でしょうでしょう。こっちの煮っころがしも上手に出来てるよ」

「本当だ。こりゃすごい」

「それと、唐揚げにも隠し味があるんだよ。食べて食べて、はい、あーん」

「あーん。ん……本当だ、いつもより濃い目の味付けなのにサッパリした感じがする。さすがだね、姉さん」

「えへへー。もっと褒めてー」

「うん、すごいすごい」

「てへへへへ。あ、空玉子焼き食べさせて」

「うん。コレも美味しそうだね。はい、あーん」

「あーん」

「僕も食べよう……うわ本当に美味しいなコレ。僕が作るのとなぜコレほどまでに差が……」

「へへへーん、精進しなさい、空」

「まったく姉さんには頭があがらないよ」

「えへへへへへ」

「あははははは」





 後々聞いた話になるんだけれど、どうもあのフリーマーケットの日、やたら甘々なスペースがひとつあったとかなんとか。

 僕がぐるっと見た範囲では見かけなかったから、それ以外の場所だったのかな。

 何にせよ、TPOはわきまえるべきだろうにねえ。やれやれである。



シスターの十字架は当然、暴力神父のアレ。

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