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僕と姉さんと絶望のデスゲーム

 どうあがいても絶望の結末にしかならない。

 そんなゲームも世の中にはあるらしい。





「あなた達五人には今から命を賭けたゲームをしていただきます!!」


 玄関の扉を開けた僕と姉さんを待っていたのは、そんな言葉だった。

 振り返ると、玄関はもうどこにもなくなっていて帰る道もない。前を見ればだだっ広い空間が広がっている。体育館くらいの広さだろうか。高さはもっとあるだろう。

 薄暗い空間の中央でスポットライトを浴びて、どういう仕組みだかカゴに乗って宙に浮いている変な仮面の男が、先程の謎発言の主のようだった。


「ええと……え、なんですか?」

「おや、これは意外と落ち着いた反応……それとも状況が理解できていないのかな?」


 自慢げな声だった。状況が理解できていないのはまあそのとおりなんだけど、気づいたら変なところにいるってのは割とよくあるパターンなのでそんなに驚くようなことでもないんだよなぁ……。


「あらやだびっくり。ご飯食べに行こうとしたのにどうなっているのかしら?」

 姉さんが首を傾げている。

「駅前のハンバーグ屋さん、今日は二割引なのに。とっても美味しいのに。間に合わなかったらどうしようかしら」


 ……そのどうしよう、は何にかかっているのかちょっと気になるなぁ。姉さん食に対するこだわり強いから。


「おやおや、ずいぶんと余裕のようだ……まあ待ち給え、これから君たち二人とともにゲームに挑戦するメンバーを紹介しよう!」


 両手をばっと広げるその仕草もいちいち仰々しい。自分に酔っているタイプの人だ。そういえばこの手のタイプは知り合いにはいないなぁとどうでもいいことを考えていた。


「見ず知らずの他人とうまくコミュニケーションをとって、協力してゲームを楽しんでくれたまえ……さあ、チームメンバーは彼らだ!」


 ぱっ、と追加のスポットライトが点灯する。演出過多だなぁ。

 そしてそのスポットライトを浴びていたのは。



 綺月と。

 夕陽と。

 リリス。



 の三人だった。

 それぞれ空間の四隅のうちの一箇所ずつにそわそわと手持ち無沙汰に立っていた。

 うん。

 超知り合いなんですけど……どうしようこれ。

「ふふふ、そんな不安そうな顔をしないでくれ。同年代の参加者で固めたのはこちらの心遣いと思ってくれて構わないさ……」


「いやあの、全員知り合いなんですけど」

「えっ」


 仮面の人の動きが固まった。

 きょろきょろと僕ら五人――四隅を見回して。


「え、知り合…………えっ?」

「だからその、全員知り合いっていうか、うち四人に関しては幼稚園の頃からの付き合いがあるんですけど……」

「え、嘘幼馴染……え、でも……あれ?」


 どうしよう、とても混乱させてしまったようだ……。

「あのー、もしもしー? 手違いなら帰ってもいいですかー?」

 しびれを切らした姉さんが声を掛ける。

「はい? いや帰るってさすがにいくらなんでもすぐ帰すわけにも」

「ほいっ」

 っと軽い動作で空を斬ると、その指先の空間がすぱんっ、と音もなくさいの目切りにばらけて、自宅マンションの部屋前の廊下につながった。



「……………………えぇ……………………」



 仮面の人が引いてる。謎の力で自力で帰る人間を見るのが初めてなのかもしれない。自分たちができることを他人ができないと思うのは想像力が足りないと言わざるをえないのだけれど、予想外の出来事が定期的に襲ってくる自分の人生を思うと想像力の限界ってあるよなぁってちょっと同情する。

 朝の目覚ましの代わりにきのこたけのこが法螺貝吹いて合戦してる姿を見せられるとか、ちょっと想像できないよね。昨日の話なんだけど。


「じゃあ帰りますね、お仕事頑張ってください」

「ええと、失礼しました?」


 普通に出ていこうとする姉さんの後に続こうとする僕。

 ところで姉さん、冒頭の言葉からするに割とロクでなしっぽいから別に気遣いは必要ないと思う。


「い、いや待ってください! さすがにソレは許容できませんよ! 勝手に帰るのであれば、のこったご友人たちにペナルティが……!!」


 ほーらロクでもないこと言い出した。言い出したけどそれ言ったらもう誰も止まらないよ?


「あら、帰っていいのなら帰るわよ、私も」

「俺も勉強の途中だったから帰るけど……」

「翼、ハンバーグ、私も行く」


 三者三様、とりあえず様子見は終わったらしく。

 綺月は普通にドアを開けるような感覚で。

 夕陽は呼び出したポチとタマの力で無理矢理。

 リリスは喚び出した地獄の亡者をすりつぶした余波で――ねえそれすりつぶしの儀式必要なの?

 とりあえず、それぞれに普通に空間を壊してつないでしまった。

 それを見ていた仮面の男はぷるぷると全身を震わせて、小さな声でつぶやいた。



「……………………………………………………うそやん」



 ちょっと涙声だった。

 いやまあ、気持ちはとてもよくわかるけれども。


「ソレじゃあ今回はこれで解散ということで……」

「い、いやいやいや、待って、ちょっとタイム! そ、それでもほら、ゲームはしていこうよ!」

「いやでもデスゲームなんですよね? 理不尽難易度の……」


 僕の言葉に何も答えられない仮面の男。

 そらそんなゲーム、抜けられるなら抜けるのが正解だってわかるもんな普通に考えれば……。


「でもほら、ゲームを通して仲間との絆が生まれたりさ!」

「普通に仲のいい幼馴染みですし……」


 リリスも幼馴染みではないけれど一緒に遊んだりなんだはするしな……絆とか今更言われても……。


「ていうかゲームならなんか景品とかないんすか。それ次第じゃ俺は参加してもいいっすけど」

「夕陽……勉強に飽きてるなさては……」

「こ、これでも一日頑張ってたんだぜ!? ちょっとした息抜きくらいいいじゃねえか!!」


 デスゲームをちょっとした息抜き呼ばわりはどうなんだろう……あ、でも夕陽がその気になって仮面の人もちょっとホッとしている……。


「うーん……あの、ちょっとゲームについて確認しときたいんですけど」

「う、うんうん、何、何でも聞いて!」

 すごい必死だな……。

「ゲーム、ちゃんと全員生還することはできるんですよね? 絶対に誰かを犠牲にする選択肢しかないゲームがあったりはしませんよね。チーム内で争いが必須だったりとか」

「えっ…………」


 動きが止まった。そしてすばやく足元から分厚い本を取り出してページをめくり、あれだこれだと悩んだ仕草をして。

「ちょっと待ってください……ええと……」

 懐からスマホか通信機かを取り出して連絡する。ペコペコと頭を下げながら何かを相手にお願いしている様子だった。そして、通話を終えて懐にそれをしまった男は、胸を張ってこう言った。


「無論ですとも!」

「いや、どう考えても今ゲームの中身調整してましたよね……?」

「チーム全員の生還は、可能でぇす!!」


 勢いで押し切り始めたぞ……。


「夕陽、本当にやるの?」

「まあ、別に減るもんでもねえし……せっかくだから空もやろうぜ?」

 いや、デスゲームだから下手すると1しかない残機持ってかれちゃうよね。ちゃんとわかってるのそこ。


「……はあ、仕方ないか。姉さん、僕と夕陽はちょっとこれに付き合うよ」

「えー、それなら私もしていくわよ。リリスもそれでいいかしら?」

「ん、わかった」

「綺月はどうする?」

「…………はぁ。この流れで一人だけ帰っても後が気になるじゃない。わかったわ、付き合うわよ」


 こうして、全員がゲームに参加することになった。


「…………! そ、そうですか! ふ、フハハハハ! それでは諸君にはこれから五つのゲームに挑戦してもらうことにしよう!」


 いきなり最初のテンション取り戻した仮面の男に、僕は若干の不安を覚えた。




 この人、もしかして…………躁鬱病なんじゃないだろうか。




 後で病院を紹介してあげよう。



 ゲームは十五分くらいで全クリした。









 おおよその予想通りの顛末について。


 結局打ち上げとしてゲームに参加した全員でハンバーグ屋さんに来たわけだけれど。


「ここのお代は、私が持ちます」


 なぜか店の前で僕らを待っていた光璃さんがそんな事を言い出した。

 理由を何度聞いても「まあまあ、今回はお世話になったので」としか言わなかったので、結局押し切られておごられることになった。

「光璃がそう言ってるってことは、よくわからないけどそうなんだよね」

 と姉さんが諦めて受け入れたのが決め手だった。

 まあ、今回のメンバー選定、付き合いの長さで言えばリリスよりも光璃さんが入ってくるのが自然といえば自然だった。

 そうじゃなかったことが必然だったとするなら……この五人を集めたのが誰かの意図によるものだったとするなら。


「世の中、超能力で悪いことをする人もいますからね。そういう人にはちょっと、お仕置きが必要なこともあるんですよ」


 何も言っていない僕に対して、笑顔でそんな事を語りかけてくる光璃さんだった。

 怖い怖い。

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