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引きこもり令嬢〜妹も私の荷物ですが、何か?〜  作者: 雪鐘


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8/17

壊れてしまった姉の宝物

「お姉様!お姉様待って!お姉さ――」


 アクネシアが馬車へ辿り着くと、姉は籠の中で、両手で顔を伏せていた。

 小さく震え、「うっ、うっ」と声が漏れている。

 泣いていたようだった。


「なんなのアイツ!私は!私は家に居たいの!お父様と、アクネシアと、使用人達と一緒に平和に過ごしていたいのよ!どうして邪魔をするの!?」

 

 それは嗚咽。

 泣いて叫んで過呼吸のようになって、両手という仮面が剥がれた瞬間、『姉』という仮面が外れた気がした。

 取り乱してしまいそうになるのを押さえつけるようにして、飛び出た言葉に蓋するように、オクタヴィアは再び口に両手を当てる。


「……お姉様、お姉様はどうしてそんなにも、家族を想ってくれるの?」


 震える、弱ってしまった姉の様子にアクネシアは聞かざるを得なかった。

 妹として、家の人間として、知らずにはいられない。

 その言葉を知らなければいけない。

 そんな思いだった。


「別に……なんでもないわよ。私は、アトレイシア家に居たいだけ。これからも家族が揃っていて、見守られたいだけ」

「見守られる?一体誰に?」

「ッ……なんでもないわ、もう帰りましょう」


 馬車はカタカタと揺れながら走り始める。

 それ以降、姉は何も話さなかった。

 疲れ切ったように窓の外を見て、自分と目を合わさず、触れることも無く。

 こんなことは初めてだった。


(それだけ、お姉様にとってカーマイン様との出会いは衝撃的だったのね)


 妹としては、そう思うしかない。

 涙で腫れた目が少しだけ痛そうで、それでもその目は誰かを探しているようで。

 珍しく消沈した姉を見守りながら、アクネシアは帰宅する。



 

 「……疲れたから、もう寝るわ」


 帰ってからの姉は珍しかった。

 自分の部屋に戻り、一人で眠りに行ったのだ。

 

「お姉様……」

「アクネシア、何があったのか教えてくれるかい?」


 その背を見ていたら、声をかけられて。

 振り向けば、多分私と同じ顔をした父がいた。

 心配そうで、不安そうな表情だった。

 そんな父と向かった応接間で、私と父は隣同士で座る。

 いつもは姉がぴったりとくっつくように隣に座っていたから、久しぶりの感覚だ。


「アクネシア、オクタヴィアはどうしたんだい?」


 父の問いに、私はどう答えるべきなのだろう。

 恋を知らない。

 愛も多分分かってない。

 そんな私が、お姉様とカーマイン様を見て思うこと。

 

「お姉様は……多分、運命とも思える人に、出会った……そんな気がします」

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― 新着の感想 ―
恋を受け入れられない事情。ちょっと想像もつきませんね。推理小説のようで楽しくなってきましたw
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