ぶち壊されたのは私の方。
結局二人が喧嘩していない。
オクタヴィアとカーマインが互いに話し、それを見守るアクネシアの構図が続く。
いつしか音楽家達が楽譜を替え、踊るための曲が流れ出す。
オクタヴィアにとって初めてダンスを踊る機会か現れるまでになった。
「オクタヴィア様、一曲如何でしょう?」と誘うカーマイン。
オクタヴィアは「踊らないわ。私の趣味じゃないもの。寧ろいつもなら興醒めして帰っているところよ」と冷たく返す。
それでもカーマインは笑顔を崩さない。
「そうでしたか。流石気品溢れるオクタヴィア様でいらっしゃる。踊って怪我をされては、今後の職務に集中できなくなってしまいますからね。これは私の配慮不足でした」
「なッ……!……別にっ、い、一曲だけよ!いいわね!!」
笑顔のまま頭を下げて謝罪するカーマインに、オクタヴィアは顔を赤く激高するような様子を見せる。
しかし言葉とは裏腹にカーマインの手を取って踊る貴族たちの中に混じっていった。
向かい合った二人は視線を交えながら相手に触れる。
そしてこれまでずっと踊ってきたかのように、互いが美しいワルツを魅せ、ステップを踏み始める。
カーマインの手はオクタヴィアを誘導するように引き、オクタヴィアはどの令嬢よりもしっかりと指先の先まで伸ばし、どんな姿勢になろうと崩れない体幹を見せつける。
「……お姉様が踊る姿、初めて。いつもなんだかんだで嫌がるのに、あんなに綺麗……」
いつしか、踊っていた他の貴族達もオクタヴィアとカーマインに釘付けだった。
それはアクネシアも同じで、踊る二人の姿を見て羨望の目で言葉を溢す。
そして曲の終わりと共に二人のダンスは終わり、魔法が解けたように空気は一変した。
――パチパチパチパチ。
「……っ!」
オクタヴィアは初めてここで我に返った。
一曲だけ。
曲が終わり、ダンスが終わり、頭を下げて別れてしまおう。
そんな算段だったのに、気付けば周りに囲まれて拍手を貰っている。
目の前では「とても素晴らしいダンスでした。まるで夢のような心地です」と笑うカーマインに、背後の少し離れたテーブル際ではアクネシアが他の貴族同様拍手していた。
(違う。そんな筈じゃなかったの。パーティなんて壊して、私は悪名高い令嬢になって家に引き籠るつもりだったの。ずっと家族で過ごしていくつもりだったのに、こんなの……こんなの……!)
オクタヴィアは走り出した。
いつものように、会場の外へ繋がる廊下へ向けて。
「あっ、お姉様待って!」
その背をアクネシアは、カーマインに一礼をして追いかけて行った。




