傍観者・アクネシア
「いやあ、アトレイシア家は領民からの信頼も厚く、財政も他領と比べて豊かであるとお聞きしています。こうしてアトレイシア家の御令嬢とお話しできる機会があるとは思いませんでした!」
「別に、特になんの秀でた部分もない家でしてよ。周りからもどのように言われているかは理解しているでしょう?そんな無理して世辞を言う必要はありませんわ」
「オクタヴィア様は謙遜がお上手ですね。奥様が亡くなられてから、姉妹でお父上の手伝いをしているのだとお聞きしておりますよ。お二人の能力の高さに私は感服しております」
豪快に笑う男を冷たくあしらいながら、オクタヴィアは心の中で泣き叫ぶ。
(一体どうしてこんなことになったというの?この男、どうやっても離れないッ……)
じっと睨んでみるものの、カーマインは「どうしました?」と小首を傾げてくる。
その爽やかな表情に悪意はなく、ただただオクタヴィアに矛先の無い怒りだけが湧いていく。
「ふ、ふん!全く無駄な事ね、こちらの領地よりも自身の領地を心配しなさいな。こちらは農村が多いから特に気になるようなことなど無いから良いのよ。でも、そちらは国境周辺でしょう?この社交界にはこれまで一度も参加されてないようだけど、兵役されていたのではなくて?」
「流石オクタヴィア様、よくご存じですね。多くの女性貴族は嫁ぎ、子孫を残し存続させることが役割であります。ですからこちらには微塵も興味を持たない方が多いのですが、知識を持つ者は違いますね」
「寧ろ知識が無くて父の手伝いなどできる訳がないでしょう。私たちを馬鹿にしているのかしら?」
「馬鹿にだなんてそんな!ふふ、オクタヴィア様は見た目のわりに、自信過剰にはならない慎ましい方なのですね!素晴らしいです」
「だあああっ、安易に私を褒めないで頂戴!!」
オクタヴィアとカーマインのやり取りに、アクネシアは驚く。
これまで自分にはべたべたと甘かった姉、一方周りには毒を吐き続けてきた姉が気圧されている。
カーマインの天然とも言える純粋な優しさや丁寧さに毒気を抜かれている。
そんな姉の姿を見るのは初めてだった。
ワインを手に取り、喉に流すアクネシアは一人思う。
(お姉様とカーマイン様、お似合いだわ。いっそ、このまま二人がくっついてしまえばいいのに……)
二人はそれ程にお似合いだと思った。
そして二人がくっつけば、これまでパーティーを崩していた喧嘩は終わるのだろうか。
心を痛める日々はなくなるのだろうか。
それは一体、どれだけ心がスッキリとできるのだろう。




