危険な出会い
「さ、今日も行くわよ、アクネシア」
「ええ、お姉様」
パーティーの当日、今日も姉妹は互いに好みのドレスを着こんで会場に着く。
以前の喧嘩で形を崩し、加工して作られたドレスは今日の戦場の一張羅だ。
「アトレイシア家、オクタヴィア様、アクネシア様ご到着されました!」
衛兵の声を横で聞いて、二人は貴族達が待つ空間に入り込む。
そんな二人に気付いた主催者、アンリ・ヴァスキーノは可愛らしい令嬢と共に爽やかな笑顔を見せて二人に近付いた。
「お待ちしておりました、アトレイシア様。オクタヴィア様もアクネシア様も、本日も自身の魅力あふれる装いですね」
「世辞はいいのよ。礼儀とはいえ招待する側も大変ね、この後どうなるかなんて分かってるくせに」
それはまるで先制攻撃のように、オクタヴィアのキツい視線が刺さる。
その横で申し訳なさそうに、アクネシアは静かに頭を下げた。
「いえ、それでもこうしてお二人が揃って来て頂けるならば嬉しい限りです。どれだけ激しい応酬をしようと、こうして顔を見せて頂ける義理堅い伯爵家に感謝を申し上げます」
「はっ、口だけは上手いじゃない」
アンリはあくまでも丁寧に返す。
それを面白くないように、オクタヴィアは眉を顰めながらアンリの前を通り過ぎた。
そこへ。
「――ああそうだ、今日は友人を連れてきているんですよ。よかったらオクタヴィア様、挨拶していただけませんか?」
「……友人?」
背中にかけられた言葉がオクタヴィアの足を止め、振り返る。
にこりと微笑むアンリの隣に、ただでさえ女性の中でも背の高いオクタヴィアよりも頭一つ抜けた男が立った。
「おお、なんて高貴な装いをした美しい令嬢だろうか。初めまして、私はカーマイン・デルモント。デルモント領を統括する辺境伯です」
「……辺境伯?」
辺境伯は伯爵家よりも上の立場だ。
がっしりとした厚い胸板、腕の筋肉も相当だろう、豊かさのあるスーツでも隠れきってはいない。
ともなればその体躯も十分に鍛えられていることだろう。
燃えるような赤い髪をしっかりと固め、整った顔立ちから男性としても悪くない出で立ち、強さは十分、家名も申し分ない、オクタヴィアの家に居続ける算段に明確な傷をつけるものが現れた。
そう思ってもおかしくない男だ。
その時、初めてオクタヴィアの蟀谷に演技ではない、自分で上乗せした気持ちじゃない、純粋に湧いた怒りに青筋が立った。




