2人は一緒
「大体なんでアトレイシア姉妹セットで呼ぶんだよ!毎度絶対喧嘩するの分かってるだろ!」
ダン、と激しい音を立ててワイングラスをテーブルに置く男は叫ぶ。
時は興醒めしてしまったパーティの後、アトレイシア姉妹が参加したパーティの参加者である子爵子息だ。
「ま、まあまあ。でも仕方ないだろ。どっちか呼ぼうとすると拒否されるんだ。でも相手は伯爵、俺達より格が上なのだから呼ばないと失礼に当たる」
そんな男を嗜めるように、しかし困った表情を見せる男もまた参加者だった。
婚約相手となる令嬢を探すにしろ、見つかり挨拶をするにしろ、パーティの空気さえ壊してしまう姉妹に大きなため息を零す。
今日は男爵令嬢と婚約して初めてのパーティ、挨拶の場だった。
それが見事ぶち壊されてしまって、何も思わないわけが無い。
「そうだけどよぉ……。つーか一体何が目的なんだ。毎度出会いの機会をぶち壊される身にでもなってみろよ……」
「まあな……」
酔いつぶれる勢いの子爵子息は苛立ちを募らせていた。
いつまで経っても邪魔されることが何一つ面白くない。
更には何の出会いも進展もないまま無残に会が壊されてしまうのだ。
しかも今回の主催は自分である。
姉妹に恨みすら抱いてしまいそうな勢いだ。
「僕の知り合いに相手を探している人がいる。もっと格上を呼ぼう」
「格上ぇ?」
「デルモント辺境伯。伯爵家よりは、格上だろう?」
「デルモント……って、久々に名前を聞いた。どうしたんだよ急に?」
「友人であるデルモント卿の息子が兵役期間を終えたんだよ。これから嫁探しなんだとさ」
「そうだったのか、なるほどな」
***
「アクラネル、私はどんな婚約の話が舞い込もうと、相手が神様や王族であったとしても、結婚はしないわ。家族みんなで過ごしたいの。パーティを壊すのは心優しい貴女には辛いことかもしれないけど、私はそれ程にこの家を離れたくないのよ」
「分かってますわ、お姉様。お姉様はいつも私を気にかけてくださって、一緒にいてくださいますものね。大丈夫、二人で喧嘩するのも心が痛いですが、私は何があってもお姉様のことが大好きですわ」
「ううっ、アクラネル、大好きっ」
共に入浴、夕食を過ごし、夜には大きなベッドに二人で横たわり、互いに見つめ合う。
揃って頬を染めて笑顔を見せて、眠りについた。
そう、2人は一緒。
それが裂かれる招待状が数日後に届くが、今はまだ、2人は幸せを共にしていた。




