仲の良い姉妹
カッカッカッ、と誰かが廊下を走る。
走るものではないはずのピンヒールを鳴らし、あまりにも軽快で、リズミカルで、肩に流す長い髪を靡かせながら人が待つ馬車へと乗り込んだ。
「アクラネル、お待たせ!今日も最高だったわ」
「お姉様……もう、私は体がベタベタしますわっ」
先程までの悪態づく姿はどこに行ったのか。
恍惚とした表情を見せるオクタヴィアにアクラネルは口先を尖らせ、不機嫌に見せる。
「あん、そんなこと言わないで。他にいいモノが無かったのよ。許して?お家に帰ったら一緒にシャワーを浴びましょ?」
「むう、私一人で入りますっ」
「ええっ?やだやだ、私も体にワインを浴びてるのだから入りたいわ。一緒に洗っこしましょうよ?」
「もう、お姉様ったら……」
アクラネルは折れたようにため息を吐きながら、「今日だけですからね」と一言咎める。
妹の一言にオクタヴィアは「あん可愛い!アクラネルだぁい好きっ」と妹を強く抱き締めるのだった――。
そう、アトレイシア公爵姉妹は犬猿の仲ではなかった。
寧ろ逆で姉のオクタヴィアは妹を溺愛し、妹のアクラネルは姉に甘い。
家では常に一緒にいるほどの仲の良さだった。
そんな二人が何故社交界では激しい喧騒を起こすほどになるのか?
それは姉・オクタヴィアが社交界デビューを果たす時まで遡る。
***
「やだ!やだやだやだ!社交パーティになんて行きたくない!婚約者なんていらないし、結婚なんてしたくないわ!家でずっと過ごすの!」
まだ腰までに伸びた絹のような髪が胸元ほどの長さだった頃、社交界に出るオクタヴィアは子供さながらに駄々をこねだした。
「お、お姉様、落ち着いてくださいな」
「だって結婚したらこの家から離れてしまうのよ!?アクラネルと一緒にいられないのよ!やだったらやだ!」
「これオクタヴィア、落ち着きなさい」
「お父様も酷い!今後も私と一緒にいたくないの!?」
「ぐっ……それは、嫌だっ!」
アクラネルや父が止めようとも、姉の叫びは止まることを知らなかった。
寧ろ家族仲が良かったのだろう。
誰もオクタヴィアの心に異を唱えることも、咎めることもなかった。
「そうだ!私、アクラネルが社交界デビューするまで出ない!アクラネルがデビューしてから一緒に参加してあげるわ!いい?婚約者なんていらない。相手が私たちを引き裂くつもりなら、私達は全力でくっつくわよ!」
オクタヴィアの提案は拒否されるどころか受け入れられてしまった。
そうして二人は社交界でも一緒になるようになったのだった。




