カーマイン辺境伯の提案
ダンスを踊った際には整えられていた髪は少しだけくしゃっとなりながらも規律よく流れていて、端正な軍服から見せる柔らかな笑みは周囲に見えるどの調度品よりも眩しくて美しい。
胸の勲章は多く、飾緒も輝いてなんとも美しい軍服の姿。
上から下まで過不足なく身に包んだこの姿こそが、彼の正装なのだと納得せざるを得ない。
そんな姿から紡がれた言葉に、まるで眩暈のような感覚にも陥る。
『オクタヴィア嬢、私と結婚をして下さいませんか?』
それは私にとって期待していた言葉なのか、不要だった言葉なのかは分からない。
婚約どころか結婚なんて。
でも、あの日一回会っただけでその言葉がどれだけ誠実で、彼にとっては大切な真面目な一言だったのかは窺い知れる。
だからこそ、どう返すべきかを悩んで、その返事が浮かばない。
「お姉様、大切なお話ですので私は部屋の外にて待機しておりますわ」
「え!?……えっと、その……」
アクネシアは笑顔を見せて応接間を出ていく。
逃げ道を完全に塞がれてしまった。
「……わ、私は……」
「――大丈夫ですよ、返事は急ぎません。一時は手紙を出そうかとも思いましたが、私がどうしても、やはり貴女と顔を合わせた上でこの気持ちをお伝えしたい――と思いこちらに来たまでですので」
「……っ」
会えば逃げられないと思った?それとも、手紙だと破り捨てられるかもと思った?
確かに、手紙で来たら破り捨てていたかもしれない。
配慮されている。
そんな気さえしてしまい、勘ぐってしまう。
この人はどこから計算していて、どこまでが天然なのだろう。
「それに手土産も無くこうして足を運ばれては迷惑だろうと思い、オクタヴィア嬢との婚姻に約束事をお願いしに来ました」
「や、約束事?」
「はい。オクタヴィア嬢の職務はきっと素晴らしい手腕であると思っております。そこで、アトレイシア領にうちの軍は如何でしょうか?」
「はい?」
「日々剣技から体を鍛えておりますので、農業で国を支えるアトレイシア領を泥棒から守ることができます。ここ最近は国境付近も平和が続き、隣国との問題も少ないんですよ」
「は、はあ……?」
「代わりに、アトレイシア領で豊作があった時に余った農作物をうちに売っていただけませんか?そうすることで農作物の余りは減りますし、うちの騎士達も十分な食事を提供できます。あ、畑の警備もそうですが、一緒に農作のお手伝いもできればよりよい作物も生産できるのでは?我々、もしかしたらいい付き合いになれるかもしれませんよ」
カーマイン様の提案に、言葉を失う。
確かに最近農作物が豊作であることに問題があると提唱していた。
どうしても起こってしまう泥棒被害は年々の課題だし、年々減っていく農業者の助けがあるのは嬉しい。
でも、これで決めてしまって良いの?
寧ろ彼に丸め込まれているのでは?
(わ、私っ……どうしたらいいのかしら?)




