来ちゃいました。
――コンコン。
「失礼致します」
「あら、レチーネじゃない。どうしたの?」
ドアノックをして、頭を下げて現れたのは屋敷のメイドだ。
普段は屋敷の炊事で直接触れ合う機会は少ないので、こうして会うことは珍しい。
「オクタヴィア様に来客でございます。今応接間にてお待ちいただいておりますので、お時間よろしいでしょうか?」
「来客、なら仕方ないわね。名前は?」
「えっと、アクネシア様から『名を言うと来ないから』と仰せつかっておりますので……」
「……?そ、そう……?」
一体なんだと言うのだろう。
でもアクネシアが一度応対しているのなら、もしかしたら大きな問題なのかもしれない。
領民や作物になにかがあったとか、先日国のものとして支払った分に不備があったとかでは家に傷がつく。
私だって責任者の一人であるのだから、と仕方なく手にしていた書類を置いて応接間へと向かう。
大きな扉の前で呼吸を整え、ノックからその扉を開けた。
「お待たせいたしましたわ、オクタヴィア・アトレイシアでございます」
「おお、お待ちしておりました。オクタヴィア嬢!」
――バタン!
挨拶から聞こえた声に、思わず勢いよく扉を閉めてしまった。
気のせいだろうか?今野太めの聞き覚えのある男性の声だったような。
顔を見ないで締めてしまったが、扉の奥では間違いなく「オクタヴィア嬢!?」「お姉様、なんで閉めちゃいますの!」と男性とアクネシアの慌てた声が聞こえる。
そうだ。
やっぱりそうだ。
扉の奥には、いる。
カーマイン・デルモントがいる。
「んもう!お姉様、いい加減逃げるのはいけませんわ!こうしてカーマイン様はこちらまで足を延ばして下さったのだから、ちゃんとお話合いをしてくださいませ!」
突然の出来事にまだ心の準備は出来ていないというのに、無情にもアクネシアが扉を開ける。
しかも正論まで言われてしまい、私も一度は顔を出してしまったのだから逃げることはできない。
後ろに回ったアクネシアに背中を押されて渋々応接間へ踏み込むと……軍服に身を包んだデルモント卿が目の前で朗らかな笑みを見せて立っていた。
「わ、わざわざこちらまで何の用で来られたのかしら?」
「お姉様、素直になってください」
「うっ……よ、用事というのは、私に、で間違いないのかしら?」
「ええ。一緒に踊ったあの日から、私は一時たりとも貴女を忘れたことはありません。オクタヴィア嬢、私と結婚をして下さいませんか?」




