消沈のオクタヴィア
私が大切なものは家族。
優しい父と聡明な母と可愛い可愛いただ一人の妹、それだけ。
他には何も求めないし、いらない。侵されたくない。
私の中の一番誰にも触れられたくない場所だった。
それなのに。
「それなのに、あの男ッ……!」
カーマイン・デルモント、突如目の前に現れた辺境伯。
何を返したところでまるで聞いてないようにあしらわれ、気に入られたくないのに入り込んでくる。
あんなにも拒否をしたのに。
あんなにも逃げ回ったのに。
ついには体が触れ合ってダンスさえもしてしまった。
触れれば布越しにしっかりとした筋肉があって、でもエスコートは上手く、何も考えずに踊りきってしまった。
しかも、あんな嬉しそうに、満足そうな笑顔を見せて……。
「なによ、なんなのよ!やめて、入ってこないで!私は家から出ないわ!家族には、私が必要なの!」
矛先のない苛立ちに枕を手に取り、壁に投げつける。
ぼふっ、と音も立たない苛立ちの塊は何も傷つけずベッドに転がった。
虚無。
それはまるで今の自分のように。
「頭から離れなさい……!あの男のことは忘れるのよ……私には必要ない、意識を向けるのも毒だわ。私はお母様の言いつけを守る、いい子でないといけないのよ……!」
頭を抱えても、言葉に吐き出しても、ちらつく。
あの笑顔が、誰でも守ってしまえそうな体躯が、自分の棘さえも跳ね除ける優しさが。
あの優しさが、母からもらった『愛情』を全て壊してしまう。
愛情を受け取った私を全て壊してしまう。
私は見守られているのに、呆れられてほしくはない。
――コンコン。
「……!」
突然響いたノックの音に、オクタヴィアは慌てて布団の中に潜り込む。
そして寝たふりをした瞬間、部屋のドアがゆっくりと開く音がした。
「お姉様?……お姉様、眠ってしまわれたかしら?」
(アクネシア……!)
ひっそりと聞こえた声は大好きな妹。
起こしてしまうのは気が引けるから?聞いてる割に小声だ。
「あのね、お姉様。お母様の看病を献身的になさっていた時から、色々お話を頂いてるのだとお父様から話を聞いたの。お姉様は突然変な事を言うけれど優しくて、思慮深い人だと思っているわ。私、そんなお姉様が大好きよ。でも、いくら家の為でも自分の身を粉にしてまで頑張ってほしくはないわ。お姉様にはお姉様の幸せがあってもいいと思うの。お姉様にとっては家族と居ることが幸せなのかもしれない。でも、知らない幸せを知ることも悪くはないと、私は思うの」
(アクネシア……)
「お姉様はお姉様がやりたいようにやってくれたらいいと思うわ。私はお姉様の決めたことについていく。でも……お姉様が自分の気持ちを無視して私達に優先するのは、嫌よ。私もお姉様に、幸せになって欲しいの。あんなに遠目から見てお似合いだった2人が、私達の事で離れてしまうのは嫌よ……」
(…………)




