【第55話】奪還開始!
奪還作戦がはじまった。
「ロストデッドは北から来る」
と行ったのはこの国の司令官だ。
2年前、ヒナの大陸は北からどんどんロストデッドに占領されて、
人間がいられるのは大陸の左端の港1個だけとなってしまった。
シンプルな話だが、それをこんどは逆に北に押し返す形だ。
実際の順番としてはここから近い街を、南に位置するところからどんどん奪還していく。
奪還した街はバリケードを張ってロストデッドが入れないようにし、結界を張って通常の魔物が入ってこれないようにして、
次の街を奪還するための拠点にする。
次の街を奪還したら、1つ前の街は作戦が終わるまで完全に閉鎖する。
これを繰り返す。
最近めちゃくちゃ運びこまれている建材は、この物理バリケード用だったみたいだ。
あとついでに言うと1以上年放置され、すべての街で結界が切れているらしい。
魔物がいない状態でしか結界を張れないので、
騎士さん達は大変だろうが、やる気に満ちているので問題はなさそうだ。
気になるところとしては、
会議で時折老兵さん達がこぼす愚痴の1つに、
アワの大陸というところに王族と沢山の毒になった騎士さん達がいるらしいが
ダンジョンのスタンピードも迫っているので、この人数でもう行くしかないみたいな話がある。
200人以上はいると思うが、
確かに大陸の騎士さんとして見れば、数が少なかったかもしれない。
一緒に行動したり、魔物を狩るところを見ている俺としては、素人目でも十分行けると思っているが・・・。
◇◆◇◆◇◆
「ふうむ」
1つ目の街まで、移動だけで6日もかかった。
道が自然に還りつつある場所が結構あったし、
がけ崩れで、土砂をどけても、がけが不安定という事で迂回したところもあった。
「ここは確かロストデッドの追跡を逃れるためにわざと破壊したんじゃなかったっけな」
MAPを見ながらヒナの大陸の大臣さんがそう言った。
(またか・・・)
目の前のがけ崩れで通れなくなった道は、人間側の手によるものだった。
魔法で破壊されたガケは風雨にさらされて、崩れていない部分も中がどうなっているかわからないから危険。
ここも迂回することになった。
「ふう、本来2日で行けるはずの隣街でこれか」
「ちょっとこれは、根本から、作戦の練り直しが必要かもな」
上級騎士さん達が集まってそういう話をしている。
ちなみに隣街にいたロストデッド達は、騎士さん達にあっという間に狩り取られていた。
ロストデッドはこのあたりではリポップしない。
おそらく北の山の中でリポップして人間の気配へ向かって歩き出す、と考えられている。
◇◆◇◆◇◆
「ユージ、ちょっといいかしら」
奪還したばかりの街の広場に食料を往復して運んできて、
配膳を終えたころにエリナ姫が呼びに来た。
「うん」
「あ、先にご飯食べたい?」
「どちらでもいいよ。長くなる?」
「なるかも。みんな、先にご飯にしましょう」
「そうですな」
「うむ」
「承知した、みんな1時間食事休憩だ」
俺はエリナ姫の隣で自分が持ってきた食料、
あの宿屋で作られた大きなクルミパンと具沢山のスープを食べた。
早々に食事は終わり、エリナ姫たちと街を散策した。
大きな街なのに、人の姿がない違和感があり、ちょっと不安になった。
道や壁に、風雨にさらされこびりついてしまったゴミもあって少し気になる。
◇◆◇◆◇◆
1時間後。
「作戦の変更をしたいと思っている」
話を聞いてみると、俺主体の作戦になっていた。
と言っても、この作戦自体は港街にいる時に聞いた、
俺がテレポートが使えると知った老騎士たちが考えた中にあった、ボツになったものを持ってきただけだった。
新しい作戦はこうだ。
まず、大きな街道が沢山伸びている大きな地方都市まで進軍し、奪還し拠点を作る。
そこから大きな道に沿って斥候さん達が偵察に出る。
馬が走れそうな道を見繕い報告。
本部でOKが出たら俺が馬で先行して広めの場所に結界を張り、テレポートが出来るように位置を覚える。
決行日を決め、対象の街の近くにテレポートでみんなを連れてくる。
みんなで攻め入り、街を奪還したら結界を張り、物理的にもバリケードで入り口を封鎖する。
補足としては俺は重要人物でもあるため、
異変を感じたら可能なら斥候さんも連れてテレポートで本部に帰還するくらいだ。
ダメなら俺一人で帰る。
まあ俺にはギフトがあるから、異変が魔物の出現とかだったら平気だ。
「いいですよ」
何の問題もないので俺は了承した。
「ありがとうユージ。
本当に危なくなったらすぐに逃げて来てね」
「分かった」
その後俺はMPタンクの腕輪(特)というヒナの大陸の国宝を託された。
これは王族が国外に脱出する際に持ち出した数少ないアーティファクトらしい。
任務は迅速に遂行する必要があるため、途中でMPポーションを飲んで休憩していては務まらない、
あとエリナ姫のパートナーだから貸し出すとのこと。
老騎士さんがつぶやいていたけど、
昔は高レベルのテレポートが使える僧侶が居たらしいが、今は隠居して連絡付かないらしい。
その人が見つかれば一気に移動できる場所が増えるのだが。と。
まあ、解毒が出来たという情報が、かなり限定された人物同士で秘密裏に3か月前に出たぐらいだからな・・・。
◇◆◇◆◇◆
1か月後
「じゃあユージ、気を付けてね」
「うん、夜には戻ってくるから」
「うふふ、うん」
夫婦みたいな会話をしたことに気付いてエリナ姫がはにかんだ。
まだチュウもしてないんだけどね。
準備が整い、さっそく作戦が実行されることになった。
今回は、俺、斥候のロキさん、剣士のナツさん、魔法使いのイージさんの4人で馬で移動する。
ロキさん、ナツさんは、イージさんは、ヒナの大陸の騎士団の人だ。
今回俺は剣士のナツさんの後ろに乗せてもらう。
『ハイディング』
斥候のロキさんが俺たち全員と馬にハイディングの魔法を使った。
これは消音、消臭、気配遮断、認識阻害といった効果がある高レベルの魔法だ。
魔物を全部無視してとにかく進むためだ。
馬は少しやりづらそうにしていたが、走り出してからは慣れたようで問題なさそうだった。
俺と言えば特にやる事がなかったので景色が流れるのを眺めていた。
(・・・いい天気だ!)
◇◆◇◆◇◆
夕方まで走って目的の広い場所に到着した。
道中に現れる魔物は全部無視して、道をふさぐ魔物だけ魔法使いのイージさんが静かな風魔法で倒していた。
「よし、ここに」
「はい」
ロキさん達が結界装置を設置する。
「よし、ユージ、結界魔法を頼む」
「はい」
そこに僧侶の俺が魔物除けの結界を張ると、それが呼び水になって半径10mほどの強固な結界が展開された。
そしてロキさんがガコリと結界装置の上に雨や土埃除けの屋根をはめ込み任務完了だ。
「よし、いいだろう」
「ユージ君、問題なさそうかな」
「はい、これなら大丈夫です」
テレポートは、僧侶系の結界をめざして飛ぶ魔法だ。
俺はここの結界を認識した。
「それでは帰りましょうか」
「よし、では頼む」
「はい。『テレポート』」
◇◆◇◆◇◆
「おかえりなさい」
「ただいま」
街に戻ると広場にはエリナ姫たちが待っていた。
「報告します。予定通りD地点への結界の設定が完了しました」
「ご苦労様」
「では我々は戻ります」
「ありがとう、ゆっくり休んでね」
「はっ」
3人の騎士たちが馬を連れて戻っていった。
これで4つ目だ。
現在AとBの位置にある街は別々の騎士さん達が奪還済みで、
バリケードの設置作業中だ。
それが終わったら物資が揃い到着次第、CとDの街を奪還する。
「ユージ、ご飯食べましょうか」
「うん」
(・・・はっ!)
エリナ姫が横に来たので腕を出すと、すっと自分の腕を絡ませてきた。
エリナ姫は合格、という風に頷いた。
最近はエリナ姫がこういうことを俺にさせてくる。
これも将来のための訓練だと言っており、とても楽しそうだ。
俺も楽しい。




