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【第51話】ヒナの大陸の問題点

「毒ですか?」


俺は今、マスターに呼び戻されてバーカウンターのイスに座っている。


さっきは衝撃的過ぎて、お姫様の血を魔法できれいにした時に俺の脳内の記憶まで一緒に洗い流されたようで

マスターに呼ばれたことも忘れ帰ろうとしてしまった。


「ああ、と言っても、毒殺とかじゃねえぞ。

 エリナ姫は王族の中でも類まれな戦いの才能をお持ちでな、

 ここの拠点で先陣を切って戦っていらっしゃるんだ」


(あの女の子が?)


「では魔物の毒ですか?」


「そうだ。

 ただし、普通の毒ではない、分かるか?」


「そういえば、俺がこっちに来るってなった時に、

 ホントアリアの西のギルド長が、事情はこっちの人に聞けって言っていましたね」


「そうか。

 じゃあその人は緘口令(かんこうれい)を忠実に守っているって事だな」


「へぇ」


毒はあまり詳しくないが、魔物が使う毒は、お店で売っている毒消しで消えるものだ。

この辺に秘密があるから緘口令(かんこうれい)ってことなのかな。


「ま、混乱を避けるためだな。

 俺がさっきユージを呼んだのは、

 まさにそれを教えてやろうと思ってのことだったんだよ」


「そうだったんですね。

 毒と不死者の大陸だったかな、それは聞きましたよ」


「ああ、そうだな。

 もっとも、今はもう誰も不死者とは呼んでない。

 あいつらの正式名称は、ロストデッドだ」


「ロストデッド」


「ああ。

 子供、大人、老人、男、女。

 いろんな人間の形をしている。

 だが、よく見れば人間のマネをしてるだけだってのが分かる。

 肌が少し青白くて、顔なんかも少しいびつだったりする

 鼻の穴が開いてなかったり、まあいろいろと。

 後は見た目の2倍は重いな。

 そいつらは大した攻撃手段がない代わり、厄介な毒を持ってる」


俺は(うなづ)く。

毒を持つ魔物自体は珍しくはない。

俺の住んでいた村の近くにも毒を持った魔物はいた。

めっちゃ弱い毒でジンジンするぐらいだけど。


「おれでも見分けはつきますか?

 間違えて普通の人を攻撃するかもしれないので」


「間違えることはないだろうな。

 依頼を受ければ外へ出れるから、実際に見てじっくりと観察してくれ」


「分かりました」


「で、毒についてだが、ロストデッドは2種類の毒を持っている。

 一般的な体調を崩してHPが減り続ける毒と、

 ある程度蓄積してから一気に症状が出る毒だ。後者は解毒できない」


「解毒が出来ない毒なんてあるんですか?」


「ある。

 前者の毒は魔法や毒消しで消せるんだが、

 ロストデッドの蓄積する毒はアプローチが違うのか、毒が消せずに体に残ってしまうんだ」


「ええ・・・

 毒って事は苦しいとか、HPが減り続けるとかですか?」


「そうだ。

 それが抜けずにずっと症状が続く」


「きついですね」


「ケガしていないのに全身が痛み、

 ひじやひざなど、ある一定以上曲げられる部位なんかは、1cmの太い金属の杭を打ち込まれ、貫通させられた時のような激痛が襲うようにもなる。

 それと、筋トレし過ぎた時に、もう少し力を込めたりしたら筋肉がつってしまうって感じの状態があるだろ?あれが常にある」


「ええ?」


俺は思わず顔をゆがめる。


「そこまで進行してしまったら、正直お手上げだ。

 幸い、進行の具合にかかわらず、この大陸を出ると症状が幾分かは楽になるらしい」


「それって、この大陸から追い払うみたいですね」


「だな。それは色んな人が言っている。

 で、こんな厄介な毒を持つロストデッドは、もう1つ厄介な特性を持っている」


「まだあるんですね、どんなものですか?」


「ロストデッドには魔物除けの結界が効かない」


「・・・そうでしたね、やばいですね」


「だろう? やばいんだ。

 だから今は、新しい冒険者に来てもらって、少し魔物を倒して貰ったら、

 症状出る前に出て行ってもらってる」


「ああ・・・」


「つう訳だ。

 引け目に感じる必要はないぞ。

 みんなにそうして貰っているんだ、そしてこれは、この国の王様からのお願いだよ」


「なるほど、そうですか・・・」


俺は右目をつむり、首を横に振った。


「ここの状況は理解したな。

 じゃあ話は終わりだ、仕事行ってこい」


「ううむ、はい、分かりました」


俺は立ち上がり外へ出るために歩き始めた。

まさかこんな感じで行き詰っているとは。


(とても失礼な言い方だけど、この国は詰んでるかも)


◇◆◇◆◇◆


タン、タン!


「グルル・・・」


ボシュッ、ボシュッ!


「ふう」


先人たちが命懸けで作った、ロストデッドの進行を止める為のポイントの1つに俺はいた。

ちょっとした高台で、下に落ちないように手すりがついている。

高台から見下ろすと大量のロストデッドだ。


ここは僧侶や魔法使い、弓系の適性がある人が配置される場所で、

ギルドの依頼を受けた時に案内された場所だ。

俺はこのがけの上からハンドガンでロストデッドを倒していた。


(落ちたら一巻の終わり・・・)


大量のロストデッドがぎゅうぎゅう詰め、ひしめき合っている。

俺が姿を現してからは苦しそうなうめき声を発し始めて、沢山の目がこちらを向いて寒気がした。


(ゲームだったら狙い撃ち、爆弾なんかでストレス発散のシーンだろうが・・・)


「でも倒した時に毒受けるらしいんだよな、どんなに離れていても蓄積の毒を」


俺は体の調子を確かめてみる。

何の変化も感じない。


俺は10体倒すごとに、ギルドから渡された紙にチェックを入れていく。

これを目安に蓄積毒を図っているそうだ。

1日100体の依頼だが、記録さえしていればオーバーしても問題はないらしい。


(救いがないなぁ)


手りゅう弾をこの中に投げ込んだらどんなに爽快だろう。


(でも毒受けるからな・・・)


だから俺はハンドガンでちまちまとやっている。

ギルドも無理する必要はないと言っていた。


ロストデッドは、破壊された道の先から延々と歩いてくる。

道に穴が開いていたら先に歩いていたロストデッドが落ちて、穴が埋まるまで落ちて、穴が埋まったら後ろから来たロストデッドがその上を歩いてこちらへ向かってくる。


ロストデッドは壁にぶつかっても人間を感知してそのまま歩こうとする。

今俺がいるポイントだが、後ろからきたロストデッドも加勢して、高台の下の土が少しづつ削れて月に数cmほど進行してきているらしい。


この先の港町に人が居るから、そのまま歩いて来ようとしているのだ。


(ギリギリまで耐えて、最後は撤退するのかな)


「はぁ・・・」


空を見るととてもいい天気なのに、俺の心はどんよりだ。

そう考えるとやる気も失せてしまうもので、完全に手が止まっていた。


つうか、俺何やってんだろう。

こんなことやってて、意味はあるのか?


ここはある意味行き止まりなのだ。

この先には行けない。


つまりここにいる意味は・・・


「・・・やあユージ君」


声を掛けられ振り向くと、自分の身長と同じぐらいの杖を持った、長髪の魔法使いの男性が立っていた。

確かこの人は。


「お姫様と一緒にいた人ですよね?」


「うん、ボクはエリナ姫の護衛魔術師のエリオスだよ」


だよね。

あの中で1人だけ鎧を着ていなかったから覚えてる。


「今の攻撃はギフトでしょ?」


「はい」


「せっかくならホーリーライトでやった方が、熟練度も上がるんじゃない?」


「あ~、確かに」


言われて気づく。


『ホーリーライト!』


どべしっ


俺のホーリーライトを受けたロストデッドは、首が曲がってはいけない方向に曲がった。

でも、首はそのままで、こちらへ歩いて来ようとする。


「うんうん、まだ今は1撃とは行かないようだね」


「これ、1撃でやれますか?」


「たぶん熟練度が上がればね。

 前にいた僧侶のおじいさん達はやってたよ?」


「この魔法がそんなに強力になるのかなぁ?」


俺はホーリーライトに可能性を感じていなかったのでついそんなことを言った。


「まあ、慌てる必要はないから、ここは安全だから熟練度上げをやってみたらいいんじゃないかな」


「そうですね、せっかくなので、そうします」


「うん」


魔法使いのおじさんエリオスさんは笑って、

その日ずっと俺のホーリーライトの練習を隣から見ていた。


◇◆◇◆◇◆


依頼を終えて、夜ご飯を食べて、ベッドでさあ寝るかと思った時に、

熟練度を上げるなら、1体に集中して撃つのではなく、届く範囲のロストデッドに1回づつ当てて行った方が効率が良いなと気づいた。



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