【第43話】「未開の地」開拓のための魔物の討伐隊③
俺が食料を届けるようになってから2日が経った。
「ユージ君、ほら見てごらん」
俺はアリアさんのお兄さん、オルガンさんに言われて前を見る。
北の方から沢山の人が歩いてきているのが見えた。
「みんなだ」
「うん、とうとう明日だ、頑張ろうね」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
王都を出発していた冒険者たちが、3日を掛け最前線の拠点に集まって来た。
そこで彼らを待っていたのは・・・
「あれ、ジュース屋のおばちゃん?」
「あ、東門のサンドイッチ屋さんだ」
「あっちには西門の前のホットドック屋だぞ」
王都の街で、冒険者に特に人気な屋台だ。
オルガンさんが台に上り、驚く冒険者たちに声を掛けた。
「みんな、ここまでご苦労だった。
作戦は明日の朝から行われる。
今日はゆっくりと過ごしてほしい、ここにある商品はこっちで支払うから好きなだけ注文をしてくれ」
「「「おおおお~!」」」
「焼肉を食べたい方はこちらからお肉を持って行って下さいね~」
「「「は~い」」」
「野菜も食べろよ」
「「「・・・・・・」」」
「では、食事を開始してくれ」
「「「いただきま~す」」」
うまうま、うまうま
「この酒樽、中身が水だ。でも冷たくておいしい」
「ここに来てよかった」
「何も気にせずおなか一杯になれるの神~」
「毎日でもいい」
「討伐終わるまでだろ、これ」
「じゃあわざとゆっくりやる?」
「聞こえてますよ~イーブさん」
「やべっ、ララさんだっ」
◇◆◇◆◇◆
「どう継続するかだよな」
「まあそこはギルドの仕事だろ」
この待遇はこの作戦、周辺にいる魔物を減らし、ダンジョンを見つけ中にたまった魔物を一掃したら終わりだ。
ただ、同じ状況にならないように継続してここで狩りをしてくれる人が必要。
「ここまでではないにしろ、待遇が良くないと無理だろうな」
「この作戦が終わったら、道が整備され結界も張られる。
そしたらギルドもクエストが出せるようにはなるだろうね」
「まあ、俺らが決められることじゃないからさ」
「・・・ユージ君、どうした?」
「あ、いえ」
「こんなに冒険者が一堂に会するのは珍しいからな」
「そうですね」
俺はアリアさんにあいまいな笑顔を返してしまった。
本当は、同じ村のあの4人が居ないか気になって、何度もその姿を探してしまっていたからだ。
何度視線を往復しても、4人の姿はこのキャンプ地にはなかった。
◇◆◇◆◇◆
ズズズズズ・・・・!!!
「・・・えっ?なんだこの揺れ!」
次の日の朝、俺は長く続く地鳴りで目が覚めた。
キャンプではほかの冒険者たちもなんだ、なんだと起きてきている。
「お、ユージ君も起きたか」
「おはようございます、オルガンさん」
指令室に入るとみんな浮足立っていた。
「今、スタンピードが発生したよ」
オルガンさんは苦笑しながらそう言った。
「えっ!」
「あわてるなよユージ、出て来てもDとEだ」
「レイさん、それもそうですけど・・・」
「問題は数だ。
スタンピードって150~300くらいだろ、出てくるの」
「そうだな、中途半端に途中で叩くと少なくなるが、前回のスタンピードから次のスタンピードまでに、
完全未介入だった場合、最大数が出てくるって話だ」
「最高」
「それで、作戦を変えようと思う」
オルガンさんがそう言った。
◇◆◇◆◇◆
「みんな、スタンピードが発生したよ」
オルガンさんが台に乗ってみんなに現状を報告した。
誰もが知っている災厄の1つに、どよめきが走った。
「まずは安心してくれ。
この柵にはこの国に仕える結界士が結界を張っているから、ここを超えてくる魔物はいない」
「ほら、王都から各方面に伸びている道があるだろう?
あれだって魔物が寄ってこないんだけど、この柵には、それよりもっとすごい結界が張られているんだ」
ざわめきが収まらないので、オルガンさんが更にそう続けた。
そうすると、ざわめきはなくなった。
「それにタイミングもよかった。
本来だったらこの後みんなで散り散りに魔物を倒して回る予定だった。
その時にスタンピードが発生していたら、結構な被害だったはずだ。
でもみんながここに集まっている時の発生だったからそうはならなかったね」
ここでオルガンさんがほっとした顔をみんなに見せる。
冒険者たちはそれを見て何度も頷いた。
「それでね、魔物の数と密度が上がってしまったから、もっと慎重にやろうって事になったよ。
まず、10人くらいで集まってチームを作って行動をして貰う。
そしたら少しづつ魔物を減らしていく。
ケガをしたらここにいる回復班がすぐに直す、これを様子を見ながら日が暮れるまで続ける。
こんな感じだ」
冒険者たちは納得したのか反論はせず、頷いている。
「今から彼が吹く、ほら貝の音が戻ってきてほしい時の合図だから、
これが鳴ったら安全を重視しながら戻ってきてほしい」
そう言ってオルガンさんがレイさんを見て頷く。
一人離れたところにいたレイさんがほら貝を吹いた。
ぶぉぉぉぉおおおん・・・
レイさんはすこし離れていたけど、まあまあうるさい。
「ありがとう。
このほら貝は、お昼ご飯と夜ご飯の2回なる。
それ以外でも何かあったときに吹くから、お互いに声を掛け合って、安全に戻ってほしい」
ちなみにこのほら貝を吹くとき、ランクC~Bの人たちが戻れるようにフォローに入ることになっている。
「では各自食事をとってくれ、食休みの後、作戦を開始する」
「「「おう!!!」」」
◇◆◇◆◇◆
食事の時間になり、
少しした頃に拠点の中から、少しざわめきが上がったのでアリアさんと拠点の中に入った。
「アリア、ユージ君、見てくれよ、未踏破地帯への扉、魔物が張り付いて開けられないんだ」
「・・・これは、どくねずみね」
2階部分から扉を見てみると、たくさんのどくねずみがみっちりとドアの前に塊になっていた。
「スタンピードで追いやられたのかね」
「危機察知能力が高いからな、小さな動物って」
「魔物だけどな」
「・・・あ、俺いい杖持ってますよ、取ってきていいですか?」
「お、行ってこい行ってこい」
「はい、では、このスペース開けておいてくださいね、ここに戻ってきますから」
「オッケー」
『テレポート!』
ぎゅわ~ん・・・ぼしゅ!
「おお~」
「・・・アリアさん?」
「悪い、ついてきてしまった」
「いえ・・・こちらこそ・・・」
「いやいや、ギリギリで私がしがみついたんだ」
テレポートは術者が意識した範囲が対象になる。
俺はテレポートを唱える瞬間に抱き着いてきたアリアさんをしっかり意識してしまったので、
こうして俺の部屋に2人で出現してしまった訳だ。
「ここが君の部屋なのか」
「はい、と、この杖です、もう戻りますよ!」
「わかった」
俺が手を伸ばすとアリアさんが握り返した。
『テレポート!』
ぎゅわ~ん・・・ぼしゅ!
「おっ、戻ってきた」
「お待たせしました・・・」
そう言いつつ、俺はポーチからMPポーション(小)を取り出し飲む。
きゅぽん、くいっ。
「その杖はなんだ?」
「これは、ホントアリアのクレナイ工房って所で作られた僧侶が範囲攻撃をできるために造られた杖です」
「へぇ~」
「ちょっとやってみますよ」
「うん」
みんなが見ている中、俺は風神の杖を下の、どくねずみ達に向けて構え、魔力を込めた。
するとしゅるしゅると小さなカマイタチが杖の先から出始め、
すぐ2mほど下に固まっていたどくねずみ達を音もなく切り裂いて黒い霧に変えていく。
「やばぁ」
「なんじゃこりゃ」
「なんか静かだな・・・」
20秒もすると門の先には魔物は1匹も残っていなかった。
俺はポーチからMPポーション(小)を取り出し飲む。
きゅぽん、くいっ。
「結構魔力使うのか」
「はい、MP20で5秒ほど、今は、4回連続で使ったのでMP80くらい使いました」
「結構使うな~」
「普段使いは出来ないんだな」
「なんにせよ助かったよユージ君、お手柄だ」
「どもです」
「じゃあ俺はちょっと下で、参加者が全員出れるぐらいのスペースを開けてくるよ」
確かにドアに針ついている魔物はいなくなったが、顔を上げるとその先にはかなりの魔物がいた。
このままだと人が出れない。
「お兄さま、私も行きます」
「おう、頼むぞ、ありがとなユージ」
「いえ」
「・・・ねえユージ君、この杖ってどこで買えるの?」
居残り組のララさんに質問をされる。
「これはホントアリアの西エリアにある、クレナイ工房って所で作ってる杖で、100万ゼニーでした」
「でぇぇぇ・・・100万ゼニーかぁ」
「・・・ララさんなら余裕で払えるんじゃないですか?」
「余裕ではないわよ。 でも珍しい杖だから気にはなっちゃうわね」
「そこ、人口魔石の設計からやってるみたいで、いろいろ珍しい杖ありましたよ」
「そうなの?」
「火を出すバージョンとかもありましたが、あっちだと魔物が強いから、役に立たなくて売れないって言ってました」
「ああ~」
「あっ、こっちに持ってきたら売れますかね」
「こっちの大陸の冒険者じゃ買えないだろ、100万とか」
後ろで聞いていたレイさんが苦笑している。
ちなみにララさんの旦那さんらしい。
「お金持ちの子だったら、親が買うかも、でも消費MPがすごいんだよね?」
「この風神の杖は、1回で消費MP20使って、5秒くらい出ます」
「さっきの見てたけど、強力だけど、微妙だよな」
「そうねぇ、たぶんこっちの大陸用に、魔石の設計からやってもらう必要があるんじゃないかしらね」
「なるほど・・・後継者もいなくて暇そうにしてるから、この作戦が終わったら話に行ってみますよ」
「いいね」
「安いなら私も子供たち用に買ってあげたいわ」
「わかりました」




