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【第40話】里帰り

『テレポート!』


ぎゅわ~ん・・・ぼしゅ!


俺はテレポート先でたたらを踏む。

今回は長い距離だったので反動も大きかった。


「おお、アルク村だ!」


俺は村に帰ってきた。里帰りだ。

こちらはあったかい。



家まで歩き、ドアをノックする。


コンコン、ガチャリ。


「ただいま」


「ん? ユージかい?」


リビングの方から母の声が聞えた。


「うん、帰ってきた」


「ユージか」


父の声も聞こえた。


「ただいま」


「おかえり、まあ立派になって」


「おう、元気か?」


「元気だよ。テレポート覚えたから帰ってきてみた」


「えっ、すごいじゃない」


「テレポートか。

 すごいな。今日は休みなのか?」


「パーティメンバーが結婚で解散になって、休みとかそういう話じゃなくなった」


「パーティ組んでたのか」


「うん、パーティはすごいね、息さえ合えばとんでもない効率が出せるって知ったよ」


「ほう」


「ではまずはお土産を並べます」


「まあ、ありがとう」


俺はアギリ大陸の王都、ホントアリアの西エリアで買ってきた甘いお菓子とハンカチなどを母親側に、

何種類かのお酒とつまみ、そして新品のリュックを父親側に置いた。


「あとこれ、ここを出るときに貰ったリュックだけど、ダメになって、どうせ捨てるならって、本のしおりにして貰ったんだ」


俺は革でできたしおりを父と母のところに1枚づつ置いて、自分の分も本から取り出して見せた。


「まあおしゃれねぇ。 3人でお揃いなのね」


「うん」


「へぇ・・・」


父は自分の分のしおりを持ち上げ、しげしげと見つめた。

何となくうれしそうなのは分かった。


「そのリュックの代わりに買ってきた」


「そうか」


「いっぱい稼げてるの?」


「うん」


「金はいらねえからな」


「誰もそんなことは言ってないでしょ」


「そういうと思って、お土産しか持ってきてないよ」


「そうか」


「こっちはまだ暖かいね」


「今いるところは寒いの?」


「もう外ではまともに戦えないぐらいには寒いよ。というか寒すぎ」


「そんなに違うのね」


「うん、そもそも・・・全然違うところにあるのかもしれないなぁ」


「そうなの?」


「うん、ツクシ大陸と、アギリ大陸。

 隣という感覚だったけど、よく考えたら地面が続いていたわけではなく、

 途中でテレポートしていたんだよね」


「すぐ近くにあるかもしれないし、とんでもなく遠くにある島なのかもしれないってか」


「うん。

 ・・・すごいところだったよ、

 出たばっかりのところなんだけど、めちゃくちゃデカい木が生えてて、

 木なのに家一軒分ぐらいの太さがあってね、木の上はかすんで見えないぐらい高いし

 モンスターも馬鹿みたいにでかいやつばっかりで。

 ほら、イモムシいるじゃん、あの緑の。 あれが人間の大人ぐらいでかくてね」


「本当に?怖いわね」


母が嫌そうな顔をした。


「・・・しばらく行くと、普通のサイズの場所になるよ」


「まあ」



◇◆◇◆◇◆


「そういえばユージ、お前暇なのか?」


「暇ではないけど、予定はないよ」


「だったらお前、こっちの大陸の王都で冒険者を集めているから行ってこい」


「え?何かあったの?」


母が席を立ち奥の部屋から1枚の紙をもって帰ってきた。


「これが配られてきたのよ」


「ん~と、「未開の地」開拓のための魔物の討伐隊の編成か」


「ああ、Cランクなら余裕だろ?」


「俺僧侶なんだってば」


「なんでもいいから、ちょっと数を減らして来いよ」


「わかったよ。

 どうせあっちに戻っても寒いだけだし、しばらくはこっちにいる事にするか」


「そうしろ」


「ええと、王都の冒険者ギルドでもいいのか」


「まだ昼前だし、テレポートで行って申し込んで来いよ」


「まあ、やることないしいいけど。

 あ、でも先に荷物自分の部屋に運び入れてもいいよね。

 あっちの宿屋にいろいろ残してきたから」


「ああ」


「行ってらっしゃい」



◇◆◇◆◇◆


俺はMPポーション(小)を消費しながら2往復ほどして荷物を自分の部屋に運び入れた。

そして最後にもう一度アギリの王都の西エリアに行き、宿の部屋を引き払った。


そして一応ギルドにもいろいろ気にしてもらっているようだったので、

おちゃめな受付嬢さんにも事情を伝え、しばらく離れることを伝えた。


「だったらユージ君、ポーションも不足してると思うからこっちである程度買っていった方がいいかも」


「そうか、ありがとうございます」


「買い占めない程度にね」


「はい、積んである2箱くらいにしておきます」


「うん、それなら大丈夫よ。

 頑張ってね」


「はい」


お茶目な受付嬢さんが拳を出してきたので俺も拳を作ってコツンとぶつけた。


そして俺は馬車乗り場の入り口まで降りてきて道具屋で2箱のMPポーション(小)を買った。


「そうだ、一応クレナイ工房にも顔を出しておくか」


リュウタロウ師匠の家も、兄弟子の家も正確な位置は知らないので挨拶は出来ない。

クレナイ工房へ言っておけばいいや。


俺はそのまま道なりに北へと歩き始めた。



「こんにちは」


「おやユージ君か、久しぶりだね」


「寒いですね」


「寒いねぇ」


「これ、あっちのお菓子屋で買ってきたクッキーです」


「おお、ありがとう~」



俺はテレポートを習得したこと、そして実家へしばらく変えることを伝えた。

テレポートについては驚いてくれたけど、兄弟子たちも3人中2人は使えると教えてくれた。


「へぇ、大変そうだね、大丈夫なのかい?」


「モンスター自体はDとかEがいっぱいいるだけみたいなので」


「そうなんだね」


「そういえば僧侶用の武器って、パワーグローブ以外にはないんですか?」


「あるよ」


「あるんですか」


「まってて」と言っておじさんは奥に入っていった。


俺はぐるりと工房を見回してみた。

相変わらず杖ばかりだ。


まあここは杖を専門にやっている訳なのでおかしなことはない。


「お待たせ、お待たせ」


「それですか?」


「うん、しかもDとかEがいっぱいだって?

 この杖はね、MPを込めるとこの魔石の先から衝撃刃が出て魔物を攻撃するって杖なんだ


「すごいじゃないですか」


「でもこのあたりの魔物だと皮膚さえ切れなくて、もっぱら雑草を狩るのに買っていかれるんだ」


「え、それは・・・」


「でもDとかEの魔物だったら、行けそうじゃないかい?」


「行けるか試してみますけど、これで意味なかったら俺が恥ずかしいんですけど」


「そこはユージ君がこっそりやってみたらいいだけじゃないか」


「MPってどのぐらい使うんですか?」


「最低で20で放てるよ。

 それ以上は、どれだけMPを込めるかって所だね」


「20って結構な数字じゃないですか」


クリーニングは1回で2、ヒーリングは3に対して、この杖は20?

しかも最低20らしい。


「まあ、そこが難点なんだよね・・・ちょっと威力の方に傾けすぎたみたい」


「・・・威力はあるんですか」


「うん、どうかな、これ100万ゼニーなんだけど」


「ええ・・・使えるかもわからない雑草刈りの杖を100万ゼニーで売るんですか?」


「ばか。これは風神の杖だよ。誰が雑草狩りの杖じゃい」


「神とは大きく出ましたね」


「おうおうおう!

 わかったよ、一回使ってみて!

 君はテレポートが使えるんなら、そこの大森林に行って試し打ちしてくればいいじゃないか」


「怒らないでくださいよ、冗談ですから。

 ではちょっと行ってきますね」


「行ってらっしゃい」


怒ってないんかい。



◇◆◇◆◇◆



「だあ寒い。 とりあえずあの辺に撃ってみるか」


俺は風神の杖を両手で構えて魔石を真正面に向けた。


俺が魔力を込めると、杖がキュィィンと音を出し、

次の瞬間強い衝撃とともに、パン!という破裂音とともに杖がはるか後方に飛んで行ってしまった。


「うっるさあ・・・」


突然の爆音に驚きながらしびれた手を見る。


「うわっ・・・手袋がねじれちゃった」


今つけている手袋はただの防寒用だったのでねじれて破けてしまった。


「なんだよ・・・もう」


俺は気を取り直して飛んで行った杖を探しに行った。



「こんなところまで来ていたのか」


先ほどいた場所から100mほど後方に風神の杖は落ちていた。


土をはたいてから壊れていないことを確かめて、もう一度使ってみることにする。

素手だと怖いので、今度はパワーグローブ(僧侶)を手に装備しての挑戦である。


パワーグローブ(僧侶)は、手の力を3倍にするので適任だろう。


俺が魔力を込めると、杖がキュィィンと音を出し、

パン!という破裂音と共に、杖の先から衝撃波が出た。

杖を取り落とさなければ、破裂音は杖の先から向こう側に行くようで、そこまでうるさくはなかった。


「ぬうう、本当にMP20なのか?」


MP20どころじゃないぐらいMP持って行かれているんだが。


「でも威力はすごいな」


目の前の広範囲の地面が扇状に大きくえぐれていた。

範囲としては杖から10mというところか。


「というか、パワーグローブ(僧侶)ありきの杖じゃねぇか」


これが僧侶用? 本当か??

あまりの結果に、思わず口が悪くなった。


俺はテレポートでクレナイ工房に戻った。


「あ、ユージ君、すまん、それ違う杖だった」


「え?」


俺が工房に入るやいなや、おじさんがそう言った。


「それは衝撃波の方で、威力はあるんだけど耐久性が確保できなくてね、へへへ」


ちゃうんかい!


「確かに威力すごかったです、

 パワーグローブ(僧侶)つけてないと取り落とすぐらいには」


「ああ、そうだったそうだった。

 こっちが本当の風神の杖だよ、こっちはパワーグローブ(僧侶)はいらない」


「というか、最初普通の手袋だったんで破けて使えなくなりましたよ」


「えっ、そ、それは申し訳ない・・・手袋は弁償する」


「弁償はいいです、安物なので、じゃあそっちも試し打ちしてみてもいいですか?」


「ああ、もちろんだ」


俺はまた大森林の入り口へテレポートする。


「寒っ。早く試して帰ろう」


俺は風神の杖に魔力を込める。

するとしゅるしゅると小さなカマイタチが杖の先の魔石から出た。

範囲は狭く、目の前に一直線に5m先くらいまでで霧散している。


杖の向きを変えると、杖の向きに合わせてカマイタチが飛んでいく。


「杖はカマイタチを出し続けるだけ、敵に照準を合わせるのは俺って事か」


出てくるカマイタチは確かにこの辺の魔物には通用しそうにはない。

しかし木に向かって放ってみると木を削っていく。


何度も杖にMPを込めなおし木の(みき)が削られる様子を見ていると、木は20秒ほどで削り切られて倒れてしまった。


「・・っ、MPが・・・」


俺は頭痛に耐えながらMPポーション(小)を口に含んだ。


「ふう。

 まあ使えなくはないんじゃないかな、長くは使えないけど、拳で殴り続けるよりかは」


俺はこれは使えると確信し、クレナイ工房へ戻って購入することを伝えた。


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