【第37話】2回目のパーティを組んでみる
クレナイ工房を訪ねた日から10日ほど。
午前中は大森林、午後は街中で散策をしたり宿で本を読む生活を送っていた。
魔物のレベル的にも、弾が切れたら勝てないから仕方がないとは思いつつ、
何かやれることはないかと模索している。
「そうなったら魔法の熟練度上げよ」
偶然冒険者ギルドで顔を合わせた
兄弟子ドルさんに相談したら、そういう回答が来た。
「前の街ではクリーニングの依頼を受けて熟練度上げて、(小)から(中)にまで上がりました」
「お、いいじゃないか。
じゃあ後はほかの(小)で止まってるやつを(中)に上げるってのやったらいいんじゃないか?」
「結構効果ありますか?」
「効果は目に見えては上がらないけど、力強さが上がるかな」
「そうですか」
「というかユージ、
俺ら僧侶はな、普通は魔物を一人で倒すってのはやらないからな」
「あはは、まあそうですよね」
「じゃあ午前中は一人で、午後は誰かのパーティに入れて貰うってのはどうだ?」
「おお、そんなことができるんですね」
「できるだろ。
なんでお前気づかないんだよ、お前頭悪くないだろ」
「いや、1回組んだことはあるんですけど、そいつゴミ過ぎて」
「はっはっは。ゴミか!
おまえついてないなぁ」
「・・・」
「まあだからいろんな奴と組みまくる必要はあるよ。
その中から気と実力が合うやつを探すんだ」
「ドルさんもそうやったんですか?」
「うん。まあそいつ女に振られて別のエリアに行っちゃったから最近はな・・・」
「そうですか」
とにかくパーティは魔法の熟練度上げにも大いに関係する。
スピードアップ、プロテクションなんか普段一人でいたら自分に1回掛けるぐらいなのが、
4人だったら一気に4倍稼げるからとか。
普段使わないホーリーライトという魔法もしかり。
そんな話をして、じゃあ急ぐからと言われ別れた。
◇◆◇◆◇◆
という事で俺は午後の時間を魔法の熟練度上げ>パーティ探しに充てることにした。
清掃の依頼がぽつぽつ出ていたのを受けてみたり、
ギルドのお姉さんに話を聞いてみたり。
俺がCランクの僧侶という事で、問い合わせた日で3つ募集が出ていた。
とりあえず1つづつのPTと組んで大森林へ行ってみようという事になり、返事をすることになった。
こちらから出す条件として、午後から日が沈むまでの間で希望と書いたら、返事があったのは1パーティだけだった。
彼らと合流したのは返事をもらった次の日の昼過ぎだ。
「こんにちは、ユージ君だよね」
「こんにちは、はいユージです」
ギルドから移動して喫茶店へ行くと、残りの2人も席を取って待っていた。
「自腹にはなるけど、それぞれ飲み物を頼もうか」
「わかりました」
俺はオレンジジュースを頼んだ。
ジュースが届くまでの間に自己紹介を行う。
「Cランクの剣士、フックだ」
「Cランクの魔法使いのリリよ」
「Cランクの剣士、ビーツだ」
「Cランク僧侶のユージです」
見た感じ、みんなおれより5歳ほど年上だ。
すぐにジュースが届いたのでまずは乾杯をすることに。
「まずは出会いに乾杯」
「「「乾杯」」」
ごくごくとジュースを飲んでからが本題だ。
「ユージ君は午後だけ行ける感じなのかな?」
「はい、絶対ではないですが、基本は」
(・・・あ)
ここまで言って、自分の不誠実さにちょっと罪悪感を覚えた。
午前中はギフトでやれるので一人で行く、でも午後は弾切れなので、僧侶としてペースは落ちるだろうけどみんなと行く。
あまりにも自分勝手ではないか?
自分のギフトを説明したらその力をパーティで行くときにも発揮してほしいはずだ。
「そっかそっか。
出来ればうちらはランクも上げたいし午前中も来てほしいんだけど、どれぐらい来れるかな」
「ほら、連携も多く行動を共にすればよくなると思うし」
魔法使いのお姉さんもそう言った。
(ん?
あれ、こいつら、最初から午前中も出るようにごり押すつもりだった?)
「頼む!」
もう一人の剣士も手を合わせて拝んできた。
熟練度上げ。
朝から晩までこの人たちと冒険をすることで、俺にとっての利点もある。
というか、それに今気づいた。
ひらめきに近い。
お金は今、十分にある。
クレナイ工房を訪ねて10日、俺は新しいリュックに魔石が入るだけ敵を倒すようになっていたので、
午前中だけで100万ゼニーの収入があった。
少しの期間、稼げなくなっても問題はない。
むしろ底力を上げるために、今はお金やレベルよりも各魔法の熟練度を上げた方が今はいい。
各魔法の熟練度はほかの魔法の威力にも関係するので、
支援系のスピードアップ、プロテクションの2つが上がれば十分おいしいはずだ。
金はいつでも稼げる。今は熟練度だ!
「わかりました、やっぱり午前も出ます」
「おお!」
「ありがとう~」
「悪いね」
「用事が本当にあるときは言ってね?」
やっぱり最初から午前中も出るように説得するつもりだったようだ。
なんか悔しい。
まあ、せいぜい俺の熟練度アップの材料になって貢献してくれと心の中で負け惜しみを言っておく。
あと、なんかジュースはおごってもらえた。
「これから行ってみないか?」
「では宿に戻って準備してきますね」
「ああ、では大森林行きの馬車乗り場で合流しよう」
「5にしとく?」
「そうだな、じゃあ5の乗り場で会おう」
「わかりました」
◇◆◇◆◇◆
急だが、今の俺の装備を紹介しよう。
ツクシ大陸でそろえた鎧なんかは気づいたらちょっとボロボロだったので買い替えた。
革製品はメンテナンスしないとだめだ。
ノーダメージのはずなのにボロボロって。
防具屋に言われて知ったけど、クリーニングの魔法は油も少しづつ飛ばすから頻度とタイミングは考えるべきらしい。
俺は今まで油で拭き上げていなかったし、クリーニングをかけて終わりにしてたから劣化が早い状態だったようだ。
という事で、
ハードレザーのヘッドギア
ハードレザーの軽鎧
ハードレザーのアームカバー
ハードレザーのレッグカバー
レザーのマント。
これらを新調した。
メチャクチャ軽いのに、すごくかたい。
指でノックすると硬質な音が返ってくる。
ちなみにマントもハードレザー系と同じくらいの強度があるが、
それよりもあまり動かない後衛は体温が上がりにくいので大森林では絶対あった方がいいと言われ買った。
これらはツクシ大陸で買った装備の上位版だ。
砕いた魔石で補強された、全身を守れる中級者後衛装備となっている。
この10日の間で暇すぎて買い替えたものだ。
「忘れ物はないな」
最後にラティスの村で買った1mほどの短杖を腰に差し宿を出た。
アルク村から持ってきた棒は今日もお留守番だ。
馬車乗り場の入り口の近くにいくつもある道具屋の1つで
MPポーション(小)を3本買ってベルトに固定しているハードケースに入れた。
少しの量でよく効く。
ケースは鉄製。革を張り付けている。
大森林ポイント5行きへ向かうと馬車の外に3人は居た。
さっき会ったばかりだったので顔を半分くらい忘れていたが、
3人が手を振ってくれたので確信をもち近づいた。
3人も寒さ対策なのかマントを羽織っていた。
「お待たせしました」
「おお、装備はしっかりしているな」
「わお」
「まあいいじゃないか、このくらい準備してくれた方が俺たちも安心だ」
「じゃあ乗りましょう」
俺は回数券から切符を1枚切り取って御者さんに渡し馬車に乗り込んだ。
◇◆◇◆◇◆
「ユージ君は誕生日はいつなの?」
「1月ですね」
「おお~冬生まれなんだ、今何歳なの?」
「今17です」
「若っ!?」
「おいリリ、もっと静かにしろよ」
「ああ、ごめんなさい」
馬車の中でぎゅうぎゅう詰めの中、リリさんが元気に話しかけてくるのだが、
声が大きくなったタイミングでリーダーの剣士のフックさんが注意した。
「私は20代前半」
しかしなおも話しかけてくるリリさん。
ちなみに年齢の詳しい数字は秘密らしい。
◇◆◇◆◇◆
「よし、ではユージ君は支援魔法を全員にかけてもらおうと思うんだけどいいかな」
「はい」
『スピードアップ』『プロテクション』
俺は杖を取り出し支援魔法を自分を含めた4人にかけた。
「ありがとう、では行こう」
戦闘は見事なものだった。
剣士2人はあっという間に魔物を切り倒していくし、
魔法使いリリによる魔法も魔物から同時に攻められないような牽制だったり、
少しタメのいる大きな魔法もいいタイミングで放ちしっかりとしたダメージを与えていた。
邪猿童子との戦いではワザと仲間が集まるようにリリさんが小さな魔法をぶつけて調整したり
フォレストウルフの群れさえも2人の剣士がばっさばっさと切り捨てて危なげなく倒していた。
もちろんケガはあったのでヒーリング(小)で回復をした。
休憩は頻繁に取られた。
大体2回戦闘をしたら休憩といった感じだ。
俺は念のため簡易結界を張る。
1つ1メートルほどの大きさなので4つ張る。
3人は不意打ちを警戒しなくていいから楽ができてうれしいと笑った。
休憩中座っていると、顔に当たる風が冷たく感じた。
俺が一人で行くときは魔物を撃つときと魔石を拾うときぐらいなので、基本ずっと歩いていた。
(これはマント必須だわ)
◇◆◇◆◇◆
「そろそろ帰りましょう」
日が沈みそうになったころに魔法使いのリリさんが空を見上げながらそう言った。
「ああ、もうこんな時間か。
今日は昼からだったから調整間違えたか」
「リリが気づいてくれたからちょうどいい時間だな」
「ふふふ」
帰り道もたくさん話しかけられた。
「そういえば今実家暮らしなの?」
「いえ、実家はツクシ大陸で、今は宿屋で1人暮らしですね」
「まあ」
「ほう」
「そうなのか」
「夜ご飯はどうする?3人はギルドの近くにある大衆食堂で取るんだけど」
「ご一緒します」
「言葉硬いな~もう少し崩してもいいんだよ?」
「一番年下なので・・・でも、わかりました」
「本当にわかってる?」
「ユージ君、今日はとてもやりやすかった、ありがとう」
「本当ですか?」
「ああ、本当だよ。支援魔法もヒーリングもとても助かった」
「あと休憩中の結界もね」
「午前とか午後の話では無理言ってしまったけど、またこれからも頼むよ」
「はい、俺も魔法の腕前上げたいので、お願いします」
「おう」
「ありがとう~」
「よろしくな」
夜ご飯はおごってもらった。