【第35話】大森林②
タン、タン!
「ギャッ!」
「ギィ!」
「ふう」
俺はあたりを見回しながら邪猿童子の魔石を拾い上げた。
1つ12,000ゼニーの魔石だ。
これだけでトワを見返せた気になれた。
狩りは順調だった。
なんせ当たりさえすれば1撃なのだ。
レーザーサイトでしっかりと魔物の体をとらえて撃つ。
ヘッドショットでなくても1撃なことに気付いてからは鼻歌交じりだ。
前に格闘家のレオンが言っていたギフトの”制約”、
人間には無力である代わりに、魔物へは別アプローチからダメージが追加で入っているというやつだ。
あの後更に、建物、木、草、地面にさえもダメージを与えられない事が判明してから思ったのは、
レオンの”制約”の話が本当だったら、魔物にはとんでもない追加ダメージが入っていることになるなという事。
例えば難易度の高い場所だったとしても、
動きが遅い魔物だったらすごくおいしい思いができるのではと。
俺は弾数を数えてからさらに先へ進んだ。
◇◆◇◆◇◆
「いてて・・・」
狩りを開始してから3時間で、リュックはかなりの重量になっていた。
それはもうリュックの肩ひもで肩が痛くなる程度には。
邪猿童子を含む森の魔物をすでに100以上は倒しているはずだ。
銃弾ももう残り半分ぐらいになっていた。
行きで半分だから帰りも同じぐらいだと想定して帰ることにした。
実際には倒して歩いているのでほぼ0だけど・・・。
道に戻って馬車乗り場に戻っていると、ちょうどオヤジ4人組も森から出てきた。
「お、帰りか?」
「はい」
「本当に無事だな」
「何とか行けそうです」
「いいものを天から授かったんだな」
「はい、感謝してます。MP余ってるんですが、ヒーリングかけましょうか?」
「おお、それは助かる。休憩しに出てきたんだよ」
俺は4人にヒーリング(小)をかけた。
ヒーリングは使う機会がないので最初に(微)から(小)に上がってからは変動がない。
2回づつ掛けて8回。
いい熟練度上げになった。
『僧侶の手引書』には、クリーニングのレベルが上がるとほんの少し回復効果も引き上げられるとあったので
普通のヒーリング(小)よりはいいはずだが・・・
「いいねぇ、癒される」
「バッチリだ、小遣いやろうか」
クマのような大男がリュックをあさる。
「あ、いいです、もし何かあった時助けてくれるならうれしいです」
「おいおい、逆に高くついたんじゃないか?」
隣の男と顔を見合わせぎゃはぎゃはとお男達が笑った。
「では俺は今日は引き上げますので」
「おう、ごくろうさん、気をつけて帰れよ」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
馬車乗り場に来ると、ちょうど人が下りてくるところだった。
「ご苦労さん、ああ、切符はこっちから乗るときにはいらないんだ」
切符の回数券を取り出すと御者さんが笑いながらそう言った。
「そうなんですか」
「ああ、行きに帰り分も含まれてるからな」
片道500ゼニーらしい。
「わかりました」
「出発は10分後だ」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
馬車に揺られること20分ほど。
俺は西エリアの馬車乗り場で降りる。
「またのご利用お待ちしておりま~す」
という御者のご機嫌な声を聞きながら人が下りていく。
最後に降りた俺は重いリュックを背負いなおし、ギルドへと向かった。
「この時間でも結構人いるな」
例のおちゃめな受付嬢のカウンターに並んで魔石を提出する。
ここでは買取カウンターはなくて、受付嬢さんに渡して番号札を貰うシステムなのだ。
「昔は分かれていたんだけど、いつも混雑してるのは買取カウンターだけで
こっちは暇してたから受付けだけこっちに来たらしいの」
と受付嬢さんは笑っていた。
「うまうまでしたよ」
と言いながリュックをカウンターに置くと少しだけザワリとなった。
「ユージ君、リュックごと預かってもいいかな?」
「いいですよ、あ、じゃあ水筒だけ・・・あ、本も」
「はいはい、あとギルドカードも貰っていいかな?」
「はい」
受付嬢さんはリュックを男性職員に渡すと、後ろにいた他の受付嬢さんを連れてきてカウンターに立たせた。
「ユージ君、あちらの椅子のところで待っていてくれるかな?」
「あっちですね、わかりました」
俺は番号札86番の木札を受け取り愛想よく返事をした。
俺は指示された長椅子までやって来て座る。
「ああ、疲れた・・・」
少しぼんやりしてから俺は水を飲み本を開く。
もうページが少ない。
この街でも本屋を探さないとな。
栞を取ると、そこは「作ってみよう、自分のオリジナルの杖!」というページだった。
そこには作者の講習会に参加した人たちの杖が笑顔の作成者と一緒に掲載されていた。
◇◆◇◆◇◆
本を読み終えてからも待った。
どれぐらい経ったか分からないけど、しばらくしてから受付嬢さんに声を掛けられて顔を上げる。
「お待たせしました。個室でお会計するから、こちらへ来てね」
「ん、はい」
受付嬢さんに連れられて個室に入ると男性職員と、立派なバッチを付けたおじさんが居た。
「おお、来たな、まあ座ってくれ」
俺は少しだけ躊躇したけど断る空気でもないので黙って席に着いた。
「まずは会計から頼むよ」
「はい」
受付嬢さんが紙を読み上げる。
邪猿童子×48 576,000ゼニー
フォレストウルフ×32 192,000ゼニー
フォレストスコーピオン×5 55,000ゼニー
合計823,000ゼニー
(うおお、これだよこれ!)
俺は眠気が一気に吹き飛んだ。
立派なバッチを付けたおじさんがこちらを正面から見ながら話し始めた。
「ここに呼んだのは、君があまりにも素晴らしい功績を上げたからなんだよ」
「ありがとうございます?」
「ははは。
そんな顔をするな。
で、このフォレストウルフは大体20から30で群れを作っている超危険な魔物なんだが、
これ丸ごと君が1人で群れを壊滅させたって事でいいのかな?」
フォレストウルフ。
あの2メートルくらいのデカいオオカミの群れか。
めちゃくちゃ怖かったよ、取り囲んで唸るわ吠えるわ・・・
終わったかと思った。
でも撃てばどんどん倒せたから終わらなかったけど。
そう言えば奥に行き過ぎたせいか、あのおじさんたちも気づいてなかったよな。
ショットガンとサブマシンガンの弾をそこそこ使って倒したんだけど、
今思うと冷静にやれれば、サブマシンガンだけで行けたなって思う。
「どうだ?」
「はい、そうです」
「そうか。
次に邪猿童子だな。とんでもない数を倒してるけど、これも1人で?」
邪猿童子はフォレストウルフと違って簡単だった。
4匹で俺をビビらせようと大きな声を出したり威嚇するから的だったんだ。
ただその威嚇の声で近くにいた邪猿童子達が集まって来てしまって、ちょっと焦ったけどね。
ふつうのパーティだったら軽く絶望なんじゃないか?
「はい1人です、いいギフトを授かりまして」
「本当にいいギフトを授かったんだね。
ちなみにこれだけの魔物を倒すのにどれぐらいの時間かかったんだ?」
「3時間くらいだったと思います」
「すごいな・・・」
「でも無限に戦えるわけじゃないので、少し余裕をもって帰ってきました」
「つまり3時間くらいが限界ってことかな?」
「はい、余裕をもってですが」
「そうか、なるほど、分かったよ・・・」
ちょっと残念そうな顔をした後、すぐに元の顔に戻った。
「ありがとうユージ君、これからもしばらくは西エリアにいるのかな?
ボクとしてはそれだけでも、てもありがたいんだけど」
「はい、しばらくはここで力をつけたいと思います」
「そうかそうか、ありがとな。
実は最近魔石の納品が減少傾向でね、ユージ君が1日3時間でも大森林で暴れてくれたら
うちのギルドも、西エリアも助かるんだ」
「そういう事なら、こちらこそよろしくです」
「うん、よろしくね」
おじさんと握手をしてみんなで立ち上がる。
「このリュックはちょっと使い込まれているようだね、ほら・・・肩が痛くならないかな?」
テーブルの上に置かれていた俺のリュックを返しながらおじさんがそう言った。
「ああ、荷物が重くなってくると痛いです」
「ここにクッションがついているものも売られているから、探して見るといいよ」
「なるほど、ありがとうございます」
このリュック実家で父からもらったものだから最初からくたびれてた。
この際買い替えてもいいかもしれない。
「じゃあ入金はカウンターで」とお姉さんが言ってドアを開けた。
おじさん達は残るようだ。
にっこりと笑って手を振ってきたので、会釈をして部屋を出た。
「ユージ君、すごい子だったのね」
「俺じゃなくてギフトがすごいんです」
「え~謙遜しなくていいのに」
「・・・」
「まあそれが君の性格なんだろうね。
私はいいと思うよ。
威張って周りをびっくりさせる子は私も苦手だし」
「俺も苦手です」
「ふふふ。
じゃあこのカウンター使うから向こうから回ってきてね」
「はい」
俺はカウンターの向こう側へ、お姉さんはカウンターの中に入っていった。
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残高:7,745,500
入金:823,000
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↓
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残高:8,568,500
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チン!
「はい、ご苦労様」
価格の2重チェックをしたベテランお姉さんが去っていく。
「魔石はどれだけ持ち込んでも買い取ってもらえるんですか?」
俺はカードを返してもらいつつ、
先ほどのおじさんとの会話で疑問に思ったことを聞いてみた。
「ええ、いくらでも買い取るわよ。安心して」
「それなら安心です、
ちなみにどんな使われ方をするんですか?」
「今は外壁用の補強用の材料としてが大半ね。
錬金術師が砕いてレンガに混ぜて超硬いレンガにするの。
それ以外だとやっぱり冒険者の装備とかだよね」
「なるほど」
「大森林の中に宿泊できるような拠点をいくつも作る計画が、
私がちびっ子だった頃からあるらしいし、これからも全然足りるって事はないわね」
ラティスの村の外壁が黒っぽいレンガだったことを思いだす。
あれも補強した超硬いレンガだったのかもしれない。
「だったら安心ですね」
「うん。
じゃあ今日は、もう終わりかな?」
「はい、今日はここまでにします」
「いいわね~、お疲れ様でした」
「お姉さんもお疲れ様でした」
「うふふ、じゃあね」
お姉さんは笑って手を振ってくれた。