【第34話】大森林①
「うおおお・・・すげぇ」
朝、宿を出て顔を上げると、目の前にはどこまでも続く大森林が広がっており、ふらついて尻もちをつきそうになった。
かなり遠くには巨木が沢山生えているのも見えた。
方向的に俺が来たラティス村ではない。
「・・・びっくりするなぁ」
「兄ちゃん、夜に宿についたのか?」
横から白髪交じりのおじさんが話しかけてきた。
「はい」
「じゃあびっくりするよなぁ」
「しました」
「元々はな、もっと近い位置に森はあったんだけど、防壁越しでも危険だって事でどんどん木を切って
森を遠ざけたんだよ。30年前かな。昔は門を出たら5分で森だったんだ」
「それは大分切りましたね、木」
「ああ、うまい仕事だったよ。
もうないけどな。じゃあな!」
「あ、はいどうも」
生き証人おじさんはスタスタと去っていった。
(・・・俺も行くか)
俺は坂を下り冒険者ギルドへやってきた。
「こんにちは、どのような御用ですか?」
カウンターの列に並んでいると俺の番が来た。
「昨日の夜に南エリアから移動してきたんですけど、
こっちってどうなってるのか分からなくて」
「ふふふ。
いいわよ、教えてあげるわね」
お姉さんは西エリアの地図を取り出して、
ペンで〇や矢印、ちょっとした情報を説明しながら書きこんで渡してくれた。
大森林へは歩きで1時間、馬車で20分1,000ゼニーで行けるらしい。
大森林までの途中にはダンジョンはなく、モンスターが来れないように5重に壁が設置されている。
大森林にはD~Cランク相当の魔物がいる。
特に厄介なのが、
邪猿童子(ランクC/12,000ゼニー)
170~200cmの、二足歩行の筋肉質なサルの魔物。
興奮すると黒いモヤが体から立ち上ることがある。
最大4匹で行動することが多い。まれに攻撃魔法や回復魔法を使う個体が居る。
残虐な性格で、獲物を弄ぶ習性がある。怪力の持ち主。
仲間を呼ぶことがある。呼ばれなくても戦いの音を聞いて寄ってくる。
「戦いの音が聞えたら駆けつけてくるんで、
見かけたらそもそも相手にしないという選択も考えてください」
「わかりました」
邪猿童子。
俺のギフトが発現するきっかけとなった魔物だ。
この森のどこからか、ツクシ大陸の俺の村のすぐそばに迷い込んだのだろうか。
「大森林の向こう側って、森だけなんですか?」
「それが未踏破ゾーンなの」
お姉さんは地図の端っこに未踏破ゾーンと書いた。
「あの大きな木が生えている辺りまでも、到達できていないのよ」
「あ、確かにかなり先に見えましたね」
「奥に行けば行くほど邪猿童子がうじゃうじゃ出てくるから、大きな村があるんじゃないかって話よ」
「へぇ」
「あとはそうね、
古い噂では、大森林の中のどこかに巨大な石造りの遺跡があったとか言われているんだけど、
実際に見たって人は現れていないわ」
お姉さんがにやりと笑う。
「すごっ」
「うふふ」
お姉さんが地図の中の森に、変なギザギザの建物を書いて、謎の遺跡、と書いた。
「見つけたら、こっそり教えてね」
お姉さんは口に指を当て、しーっというポーズをしてそういった。
◇◆◇◆◇◆
「大森林、ポイント1の馬車、もう出るよ~」
「あ、乗ります」
「ほい、1,000ゼニー」
「ギルドカードで」
「ああ、ギルドカードだったらあっちの小屋で切符を買っておいで。少しだけなら待っててあげるから」
「わかりました、すぐ行ってきます!」
俺はギルドの受付けお姉さんから教えてもらった馬車に乗って大森林がどんなものか見に行くことにした。
しかし馬車乗り場に来て驚いた。
大森林への馬車は1つではなく、なんと1~5まであったからだ。
どうしたらいいか迷っていると、ちょうど大森林ポイント1が出るとのことなのでこれに乗ることにした。
とにかく小屋で急いで切符を買うぞ。
「回数券がお得だよ~」
「え?」
急いで小屋にやってきたら、だみ声のお姉さんが営業をかけてきた。
「こちら12回分の切符が入って、1万ゼニー。
毎回1,000ゼニー払うよりは2回もお得です。どうですか?」
「ああ・・・12回分の方で」
俺はギルドカードを見せながらそう言った。
「はい、回数券12回分で・・・1万ゼニーねぇ」
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残高:7,755,500
支払:10,000
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↓
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残高:7,745,500
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チン!
「はい、乗るときに1枚づつ切り離して、馬車の御者さんに渡してね。
じゃあ、気を付けて~」
「はい。
ありがとうございます」
俺はお辞儀をしてから急いで馬車へと戻る。
・・・馬車はもう居なかった。
「おーい、こっちだこっち」
と思ったら反対方向を見ていたようだ。
「お前抜けてるな、大丈夫か?」
「大丈夫です」
俺は顔を真っ赤にしながら切符を1枚切り離し御者さんに手渡してから馬車に乗り込んだ。
◇◆◇◆◇◆
「はい、到着」
馬車が止まると冒険者たちが馬車を降りる。
俺は最後の方に乗ったけど、空いている席が一番前の真ん中しかなくて降りるのは一番最後となった。
(みんな早くおりたくて、出口側に座ってんのか)
まあなんにせよ遅く乗った俺が悪い。
「王都行き、10分後に出発で~す」
最後に俺が降りると、御者のおじさんは周りにいた冒険者たちへそう告げた。
◇◆◇◆◇◆
冒険者たちが出口側に座っていた理由はすぐに分かった。
降りた順番にそのまま大森林へ入っていくのだ。
ポイントらしき場所に、森への横道が続いている。
最初に降りた人が近い場所の脇道に入るから、
後から来た人ほど遠くで狩りをしないと行けないようだ。
まあ初日だ。
今日はただの様子見。悔しくはない。
そんなことを考えながら俺が最後尾を歩いていると。
「おい、お前、僧侶だろ、1人でどこに行くんだよ」
「え?あ、本当だ。お前1人か」
声をかけてきた男の仲間も気づいて足を止める。
「え? 一応、戦える僧侶なんで」
「本当かよ。 まあ、休憩するときはこっちでしていいからな」
「本当ですか、ありがとうございます」
「気をつけろよ、危なくなったらデカい声出せば行くから」
「ありがとうございます、そちらもケガとかした治しますよ」
「はっ。 じゃあな」
そう言って4人は道を外れて森に入った。
すごい強面のオヤジ4人組だったけど、めっちゃ優しかったなぁ。
俺は少し歩いてから、右手にハンドガンを実体化させた。
時々実体化してはいたけど、撃つのは久しぶりだ。
「今日もよろしくな。
うし、やるか!」